「累、温泉行きましょう」

「え?あ、うん」





壁に向かって何やら考え事をしていたらしい累に、
江利子はタオルを振って声を掛ける

江利子に気付いた累は慌てて立ち上がり、入浴セットを手にした







「何考えていたの?」

「ん〜、どうして聖と蓉子の部屋の隣の部屋を選ばなかったのか後悔していた」

「何よ其れ」

「いや、さぁ。夜中に壁を叩いて妨害してやろうかと思ってたりするんだよね」

「…はぁ?」

「こうなったら令と祥子の部屋の壁叩いてやろうかな」





そう言って、2人の部屋がある方向の壁をジッと見つめる累に江利子は大方の予想がついて可笑しそうに笑う





「止めなさい、そんな悪趣味な事」

「あれ、江利子さんが1番喜びそうなネタだと思ったのに」

「…確かに面白そうだけど、今回は我慢するの」

「ちぇっ、江利子さんがつまらない人間になってる」

「そうじゃなくて、もっと楽しい事をしましょうって言ってるのよ」

「………うん」






意味深に微笑む江利子に、累は明後日の方向に目をやりながら小さな声で頷く
恐らくは今夜起こるであろう出来事を想像してみての行動だろう








「…体力持つかな……」

「その辺はぬかりないわよ、ちゃんと栄養ドリンク剤持ってきたから」

「其れを飲んで頑張れと」

「そうよ」

「…………」








もはや何も言う気にはなれずに、
累はとぼとぼと部屋を出て温泉へ続く廊下を歩いていく

其の後ろを江利子が愉快そうに顔を歪めながらついて行った










一方、温泉へ入れる扉の前でしゃがみこんでいる少女を2人の女性が不思議そうに覗き込んでいた








ちゃん?どうしたの?」

「入らないの?」

「……う〜ん…」





同室の志摩子と乃梨子に尋ねられたは首を捻る


そして後ろを振り返って不安そうに2人の顔を窺う





「笑わない?」

「…何を笑うというの?」

「……私の身体見ても笑わない?」

「何言ってるの、。私達は皆を赤ちゃんの頃からお風呂に入れたりしてきたんだよ」

「でも最近の問題だからなぁ…」






おかしな事を言うに、志摩子と乃梨子は小首を傾げた


しばらくして決心がついたのだろうか、は立ち上がると意を決したかのように勇み足で浴槽へと入っていく



其処には先客が居た

聖と蓉子

令と祥子

由乃と祐巳




所謂累と江利子、そして此処にいる志摩子と乃梨子とを除く全員が居た


気持ち良さそうに外に設置されてる温泉に浸かりながら談笑している



メンバーは新たな入浴者達に気付くと声をかけてくる








「お〜、待ってたよ〜」

「遅かったわね、部屋で休んでいたの?」


「うん、そんな所…あのさ、脱ぐ所見ないでくれないかな」






ガラス張りの外から声をかけてくる聖と蓉子に、
は気まずそうに服を脱げずに居た







「………え?何で今更?」

「…聖、あの子多分身体の事気にしてるんだわ」

「あぁ、そっか。ねぇ、志摩子、乃梨子ちゃん。は一先ず置いておいて先にこっち来ちゃって」


「…はい、判りました」

「はい」




語らずとも異変を察した志摩子と乃梨子は手早く身に纏っていた物を脱ぎ捨てて、湯船に浸かってくる


2人が湯船に浸かり、
皆がこっちを見ていないのを確認するとは脱衣所の隅で服を脱ぎ捨ててタオルを身体に巻く







「あ〜れ、皆もう居たんだ。早いね〜」

「あら、本当ね。私達も早く入りましょう」

「っ!!」




が浴槽に向かう前に突如入り口が空いて累と江利子がやって来た
突然の事に立ちすくむの身体にびっちりと巻き付いているバスタオルを見て、累が笑う





もお年頃だね〜!」

「うっ、煩いなぁ」

「いいじゃんいいじゃん、裸の付き合いだなんて言葉があるんだからこんな物脱ぎなさい」

「なっ、ば…馬鹿、止め……」





有無を言わさずにのバスタオルを剥ぎ取ってしまう累に、
は開き切った口を閉じる事が出来なくなってしまう

そして自分の身体を1度見下ろすと、ギュッと目を瞑る





「…………」

「…………」

「……?」






何も言わない累と江利子の様子を窺うように半目を開けてみると、
その瞬間累がの小さな身体に抱きついてくる






「う、わっ!?」

「うあ〜可愛い!ぺたんこだ!初々しい!!」

「ぺ、ぺたんこ…?」

「令も中2まではこんなだったんだよ、此処だけの話、あの胸は私が揉んで大きくしてあげたんだよ」



「ちょっ、累!!!??」







湯船から令が顔を真っ赤にさせて叫ぶが、
累は可笑しそうにお腹を抱えて笑うだけで

そっとの身体を離す








「気に、するな。そんなの。ほら堂々と入っておいで、折角の温泉なんだからのびのびしないと勿体無いよ」

「……本当?」

「うんうん、誰も気にしてないじゃん」

「…うん、有難う」

「どういたしまして〜」






礼を言うと嬉しそうに笑いながらの身体を浴槽へ押しやる累


おずおずと、でも笑顔で迎え入れてくれる皆に安心したのか
温泉に入るなり背伸びをして一息ついたようだ




ガラス張りのドアを挟んだ向こう側から、
累と江利子が互いの顔を見合わせて微笑む





  


「やっぱり気にしてたんだね、身体中の傷と足の事」

「そうね、すっかり忘れがちだけどはつい此の間まで虐待されていたんだもの。身体が傷だらけなのは当たり前だわ」

「でもさ〜、そんなに気にする事?私なんかさ、ほら。でっかい傷が」

「……其れと此れは別よ」







自分の顔を走っている大きな傷を指す累に、
江利子は少しだけ呆れ紛れにため息を吐いてから自分の脱衣を開始する





の身体中は真新しい痣と、切り傷やら擦り傷で痛々しい程に埋め尽くされ

足は昔からの障害で真っ直ぐに並んでいない





年頃の少女にはかなりハンディのあるコンプレックスとなっていた



累とは訳が違う、と言い切る江利子に累は苦笑しながら補聴器を外して籠の中に入れる












ふと、隣に並べられている籠の中でランプみたいなものがチカチカと光っているのを見つけた累は携帯電話を手に取る


服や、その携帯からして蓉子のものだと認識した累は腰にタオルを一枚巻きつけて浴槽に入っていく










「蓉子さん、何か電話来てたみたいだけど」


「え?ああ、有難う」








湯に入れていた手を累の腰のタオルで拭ってから、
落としてしまわないように慎重に携帯電話を受け取る






「江利子さぁん!蓉子さんにセクハラされた!」

「はいはい」

「其れだけ?もっとヤキモチとかしてくれないの?私の累に何すんのよ〜って」

「しないわよ、別に。相手、蓉子だしね」

「うあ〜酷い!純潔を汚されたのに!」

「そんなのとうの昔に消え去ってるじゃない」

「うわ、本当に目頭が熱くなってきた。いやマジで」








累は後から入ってきた江利子に抱きついて嘆く


2人のコントを見ながら、皆が笑う




蓉子だけ、携帯を見つめて微動だにしなかった―――――






























ずっと ずっと


一緒にいると 



あの夕陽に約束したから



今すぐ会いたい 


その気持ちを お願い伝えてね























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