ただいま






この言葉がどんなに恵まれている言葉か知ってる?
















おかえり






そう言ってくれる人が居る事がどんなに恵まれているか知ってる?


























が家に来てから、1週間が過ぎた




早く警察やら何やらに言わなくてはいけないなんて事判っていたけれど

でもそれでもこの小さな柔らかい手を離したくなかった





毎朝テレビで乳児誘拐、だとか

行方不明の赤ん坊のニュースが流れてないか確認して
見終えた後何と無く安心してしまう自分に嫌悪





もしかしたらこの子を捜し求めている人が居るのかもしれない







そうしたら、私達は微温湯に浸かったようなこの日常を返さなくてはいけない

在るべき人達の元へ




















と出会った翌日は日曜で、

私も蓉子も休みだったから1日中つきっきりで居てあげられたけれど
月曜になればそんな事は出来ない

泣く泣く私達は無邪気な顔のを置いて仕事に出掛けなければならなくなる





独りっきりにさせるなんてどうしても出来なく、高校時代の親友や後輩達に相談した







すると、なかなか面白いシチュエーションに皆興奮しているのか
自分の用事など無視で面倒を見ると言ってくれる人が沢山居る


私としては助かるんだけど真面目な蓉子は頑なに首を横に振る





『こっちの都合で皆の予定を乱しちゃ悪いもの、空いている日があれば其処に順番に組み込んでお願いするから』






と、さすが部下の出勤シフトなどを考え慣れている蓉子はテキパキと子守シフト表なんてものを作り上げてしまった

それでやっぱり慣れている蓉子はほとんどの日に令を入れてしまう
令本人は喜んで引き受けていたけれど恋人の祥子は微妙な顔だ


飲み屋経営の私は帰りは朝だし、
蓉子が帰ってくる時間は夜遅いし、

それまで子守をしなくてはならないとなると令が祥子との家に帰る時間なんて無くなってしまうだろうから



祥子も夜は家に来て一緒に居ればいいのだけど、
大型企業の幹部なだけあって早朝から深夜まで過酷なスケジュールだから難しいだろう





そういうひと悶着があって決まった子守シフト表







月曜日 令と由乃ちゃん

火曜日 令と乃梨子ちゃん

水曜日 志摩子と祐巳ちゃん

木曜日 令と江利子

金曜日 全員










令、本職の仕事大丈夫?とまで聞きたくなるくらいだけど






少しげっそりしながらも嬉しそうに頷いて余裕ですと答えた


たまには余裕じゃない所見せた方が良いよ
つくづく世渡り下手な子だと思う




水曜日は志摩子と祐巳ちゃんのペアなのでも凄く穏やかな時間が過ごせると思う




お姉さんはと代わりたいよ、水曜日だけは

木曜日は死んでも断固拒否するけどね!










そんなに、金曜日までが家に居られるとか

来週の土日も過ごせるなんて明るい希望は持てなかったけれど



そうであると良いなと思いながら蓉子が此れを纏めていたのが安易に判る










それで金曜までもし居られたら、

皆でを連れて飲みに行こうかという事になった










そして、弱一週間が過ぎて
私達は嬉々とに新しく買ったおニューのベビー服を着せて車に乗り込む


元山百合会ご用達のいつもの居酒屋



のれんを潜って中に入るともう既に全員揃っていた




皆注文した料理やお酒には手を付けてないみたいだったけど
其処で1人は協調性の無い人が出てくるんだよね


江利子だけ既にもう飲み始めていて、枝豆をつまんでいる状態











「待たせちゃったかしら?」


「いえ、今来たところですよ」


「祐巳ちゃん、そういう事は料理も飲み物も全部準備済みの時に言っても説得力ないよ」


「あっ、そっか…」


「ふふっ、ごめんなさいね。さて固苦しいのもあれだから始めましょうか」














を抱えている蓉子を座らせて、
隣にの世話用具、哺乳瓶とかオムツとかが入っている鞄を置きつつ自分も座る



乾杯という声と共にグラスのぶつかり合う音





そして1週間の報告会





月曜日は由乃ちゃんが喚き立てるからが何度も寝付いても直ぐ起きちゃって困った、とか


火曜日はめったに見られない乃梨子ちゃんの笑顔が見れて令が吃驚した、とか


水曜日は至って平和でを連れてちょっと遠くの公園まで散歩した、とか


木曜日は何かと目を離すと直ぐにちょっかいを出そうとする江利子を止めるのが大変だった、とか








…ほとんど令の苦労話にしか聞こえなかったけれど

もうは皆の顔を覚えていて凄い懐きようだった



それでも江利子の膝の上に来ると急に顔を顰めるものだから笑える





江利子も不機嫌になって頬を抓ろうとしたりするし、
そんな江利子の隣で一生懸命祐巳ちゃんがを守ってたり











とても和気藹々とした週末で




















私達は、出会いもあれば別れもあるという事なんてもう頭からすっかり吹き飛んでいた


その日が小さなと過ごす最後の日となる




























「う〜…頭痛いよぉ、蓉子。何か2日酔いの薬ない?」





「………」











「蓉子?」
















リビングの方から声がしないのを不審に思って、

私は疲れているのかまだぐっすり眠っているを起こさないようにそっとベッドから抜け出す



寝室を出るとリビングでテレビの前に立ち尽くす蓉子の背中がある














「蓉子、何か薬……」


「聖これ見て」














(昨夜都心で2人の男女が逮捕されました、10代の2人には子どもが居たらしく先週まで毎日2人の住むアパートの一室から泣き声がしていたそうですが)









「………先週…?」








(その声がふと今週に入ってから止んだ事により近所の人々が警察に連絡をした所、家の中には赤ちゃんの生活用品と共に虐待に使用したとみなされる物が沢山出てきました)









「………聖、どうしよう…」









(両親は逮捕されましたが、その子どもは現在も見つかっておらず容疑者によると近くの公園に置いて来たとの事です。その姿は既に消えており只今も警察では赤ちゃんの行方を捜しており……)





























其処で私はリモコンでテレビを消した


呆然と立ち尽くしている蓉子の肩を抱くと、私の肩に顔を埋めてくる















「どうしよう…もう、居られないわ。あの子と」




















「……もう終わりだよ、私達の日々は。こうして逮捕されたとはいえ両親も生きているんだし。親戚とかがを大切に育ててくれるよ」


























私達は、君と1度離れたの





でも此れだけは覚えておいて





決して君が足手纏いだからだとか

邪魔だから、とかそんな理由で離れた訳じゃないんだよ




















仕方なく泣く泣く君と別れたんだ



























本当はずっと、ずっと傍に居たかったんだよ……













































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