忘れた訳じゃないんだよ





君を嫌いになった訳でもないんだ














ただ、思い出すだけで辛かったから


思い出だけでは辛すぎるから





封じ込めてしまったんだ、自分が傷つかないように











ああ、そうか






それで君は傷ついたんだね



自分を封じ込められてしまったから







ごめんね、


































…を引き取る?」














親友の吃驚した顔に、私と蓉子は力強く頷く

しばらく呆気に取られていたけれどやがて微笑んで同意してくれる











「いいんじゃない?向こうは覚えてないかもしれないけど…」


「それがね、覚えていたんだって」


「まさか。だって2年も前の事でしょう?赤ん坊だったのよ」


「きっと記憶の隅に植えつけられていたんだろう、って孤児院の園長さんが言ってた」









そう言いながら私は先程預かった紙を江利子に見せる

其処にはクレヨンでぐりぐりと描かれた、それでも一生懸命描いたのだと伝わる小さな子どもの絵がある


白い紙の中には小さな女の子が描かれていて、その子は両手を2人の人物と繋いでいた
黄色いクレヨンで髪が描かれている女の人と
黒いクレヨンで髪が描かれている女の人


きっと私達を見て人々は絵の中の人間の正体が判るだろう





そして嬉しそうに微笑ましく手を繋いでいる三人の隣にはずらりと人間が描かれていて


其処には
令と思われる長身の女性や
祥子と思われる長髪の女性や
江利子と思われる茶髪の女性や

祐巳ちゃんや由乃ちゃん、志摩子、乃梨子ちゃんの姿があった








江利子はその紙を手に取って興味深々に感嘆のため息を漏らす

















「こんな事って…あるのね」


「ええ、私達も孤児院に入るなり園長先生に待っていましたと言われて吃驚したわ」


「此れは皆よね?じゃあは私達を待っているって事?」


「うん、きっとそうだ」








蓉子と顔を見合わせて微笑むと、

江利子は紙を置いてから小首を傾げる










「でも此れからが大変じゃない?手続きとか生活調査とかいろいろあるんでしょう、子どもを引き取るんだから」


「うん、直ぐにでも取り掛かって貰うよ。でも早くても実際と暮らせるのは1ヶ月以上かかるかもしれない」


「それまでは時間が出来たらあの公園に行こうと思うの。子ども達はあそこで良く遊んでいるらしいから」


「じゃあ令達も連れて行ってあげると喜ぶわね」











久しぶりに心底嬉しそうな笑顔を見せている私と蓉子に、
1番近くで見てきた江利子はホッとしたのか一緒に喜んでくれる









それが嬉しくて



と再び巡り会えたのも嬉しくて







その後孤児院の人達に何度も同じような質問をされたり家の中を調べまわられたり仕事先も調べられたりしても我慢出来た







でも1つだけ、気がかりだったのは


その後皆でに会いに行っても

は喜ぶ事もしないで只無表情に私達を見上げるだけだった事







本当に覚えているのかな


本当にあのなのかな







何度も過ぎる不安を押さえつけて、とうとうと暮らせる日が来た





















孤児院の事務室で緊張しながら2人で並んで座っていると、

其処で働いている先生らしき人がの肩を押して部屋に入ってきた


優しげに微笑んでいる園長の隣に腰掛けるように言われて、は素直に座る











「此方は今日から君のご両親となられる方だよ、素敵な人達だろう?」


「…………」


「挨拶しなさい」


「…………」







「こんにちわ、

「此れから宜しくね、













きっと小さい頃に自分に付けられた名前までも覚えている訳ないだろうと思いつつも、
私達の中でだったから出来るだけ安心を与えられるように優しく声をかける


するとずっと俯いていたは初めて顔を上げた




そして無表情だったその顔をくしゃくしゃに歪めて両手を私達に広げる













「うっ…うぇ、うあぁん……」



「…ふふっ、よいしょ。久しぶりだね、











その小さな身体を持ち上げて抱きかかえると、首に両手を回されてがっしりと抱きつかれる

頭を撫でてあげると首に顔を埋めて大泣きし始める












「うそつきっ…うそつきぃ。ずっといっしょ、っていった。うぁああん」



「うん…ごめんね、ごめん。待たせてごめん、



?私達は貴方をずっと愛していたわ」








隣で涙ぐんで微笑んでいる蓉子にを向けると、
は顔を上げて蓉子だと確認すると今度は蓉子に抱きつく

そっと身体を渡して蓉子に完全に抱きつく形となるとは更に泣きじゃくる











全ての事情を知っている園長も涙ぐみながら私達新しい家族となった3人を見守っていてくれる






















2年の歳月を越えて、やっと…やっと私達は家族になれた―――――



















を抱えたまま孤児院に挨拶を終えて、外に出ると

令達が待っていてくれた




令達を見るなり収まっていたはまた大声で泣き出して令達に代わる代わる抱いて貰う





















夜になって、まだ身辺整理も済んでいないのに

は散々泣いて疲れてしまったのか私達のベッドですやすやと安らかな寝顔を見せる








新しい家族の第1日目から邪魔してはいけないと令と祥子と江利子と祐巳ちゃんと由乃ちゃんと志摩子と乃梨子ちゃんは帰っていった






まだ涙の痕が残る頬を撫でると

2年前よりも確実に大きくなった頬を感じる事が出来る



そして、その手首を寝ている筈の少女に掴まれ

振り払う事ぐらいは出来たけれど私達はそのまま隣に並んで眠る事にした







ずっと願っていた事






手を繋いで3人で眠りにつく事















それは何と甘い夢だったんだろう
今はもう現実となった夢










ずっとずっとこの気持ちを忘れない















そしては、佐藤 と名乗る事になった―――――



蓉子も佐藤って姓にする?と聞いてみたら、嬉しそうに頷いてくれたけれど仕事上いろいろ忙しくなるからまだ水野と名乗ると言っていた







本当の家族になれるのにはまだ少し時間がかかりそうだけど




少しずつやっていけばいい










焦らないで


少しずつ……














もう今は一緒に居るんだから




傍に居るんだから










ねぇ、


ずっとずっと笑顔の欠けない家族で居ようね






























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