それはとても晴れた天気の良い日の事だった


私は仕事が無くて、リビングでソファに横たわり昼間のテレビを只ボーッと眺めていて

休日は毎週やっている平日のお昼番組の特集をやっていた
サングラスをかけた男性がマイクを手に番組をちゃくちゃくと進めている

内容なんて大して耳に入らずに只呆けている自分に空しくなる



折角の休日をどうして1人で寂しく過ごしているのかというと
愛する蓉子は先程仕事先の後輩に呼ばれてちょっと出て来ると言って出掛けてしまったし
愛するは前々から祐巳ちゃんと由乃ちゃんと約束していたデートに出掛けてしまったから



別に仕事に手を抜かない蓉子や親を放って置いて遊びに行ってしまったを責めている訳じゃない






でも…寂しいよね

1人でテレビを見ながらカップ麺を啜る姿って
家族に見放されたお父さんみたいで




……え?もしかして私見放されてる?

女性は子どもが出来ると相手への愛も全部子どもにいってしまうって聞くし

いや、私も女だけど蓉子への愛は今までと何ら変わりもない
蓉子はどうなんだろうなぁ



いつもいつも口を開けばって


正直な話、が家に来てから1度も肌を重ねてない
重ねたくて誘っても蓉子はが居るから駄目だと断る






うわぁ…思い返すだけで溜まる

欲求不満なのかな


早くも倦怠期?!







……サングラスのおじさんを見ながらそんな事考えていてもやはり空しくなるだけだった













すると突然ドアが開く音がして、
が飛び込んできた


突然の事に吃驚して身体を起こして声を出す前には寝そべっている私の所へ抱きついて来る



そして直ぐに祐巳ちゃんと由乃ちゃんがの肩から掛ける鞄を手にして入ってくる











「どうしたの?今日は夕方まで遊ぶんじゃなかったっけ?」







は何も言わずに只私の胸に顔を押し付けているから顔色が伺えず、
断念して祐巳ちゃんに問いかける

すると祐巳ちゃんはの鞄を食卓に置いてからの傍にしゃがんでの頭を撫でる








「転んじゃったんです、それで泣きもしないから大丈夫かと思って…そしたらちゃん突然走り出してしまって」


「転んだって…其れだけ?」


「只転んだんじゃないですよ、顔から思いっきり豪快にコンクリートに地面に倒れたんです」








呆気に取られて言い返すと、由乃ちゃんが少し複雑な顔をして向かい側のソファに座り込む


祐巳ちゃんは祐巳ちゃんで何とかの顔面を見ようとしていたけれど、
がっしり私の胸に顔を埋めているものだから苦戦している



私は乗り上げているの身体を抱きかかえながら何とか上半身を起こして座り直す



そしての柔らかい髪を撫で付けて安心させる










、顔見せて?怪我してるんでしょ」


「…………」


「ほら、そんなに抱きついてたら手当て出来ないじゃない。顔上げようね〜」







優しく声を掛けてもは身動き1つせずに顔を見せてくれない
怪我の加減が知りたかったから私はの頭を両手で押さえて上に向ける

そのおかげではやっと諦めて顔を上げる


その顔面は鼻頭が擦り傷で真っ赤になっていて、額も赤々しい傷で覆われている








「うわ、重傷じゃない。早く手当てしないと痕が残っちゃうよ」








の身体を背後から抱かえるように位置を調節して、
由乃ちゃんに室内にある救急箱の場所を教えて取って貰う

相変わらず由乃ちゃんはしかめっ面で、何かあったのかと不思議になる


それに対称して祐巳ちゃんは心配そうに救急箱を開いて消毒液などを取り出し私に渡してくれる



脱脂綿に消毒液を滲み込ませてから肩越しにの顔を覗き込みながら軽く押し当てていく









「はい、ちょっと滲みるけど我慢してね」


「……っ………せい…」


「ん?直ぐ終わるから」


「…ぅ……せい、いたい」











其れまでずっと何も言わずに泣きもしなかったの目から、涙が滲んでくる

それでも泣き喚いて逃げるなんて事はせずにぎゅっと両拳を自分の膝の上で固めて堪えている



私は、何だか居た堪れなくなっての頭を軽く叩きながら言い聞かせるように囁く












〜、痛い時は痛いって言いなさい。泣きたいなら泣かないと祐巳ちゃんと由乃ちゃんに伝わらないよ?」


「うぅっ…ひっく、だってめいわくかけちゃいけないとおもったの…」


「迷惑だなんてとんでもないよ、ちゃん。全然泣かないで居ると逆に心配になっちゃう」







祐巳ちゃんが苦笑しながらの手を握ると、
の嗚咽は止まりきょとんと祐巳ちゃんの顔を見返す

そしてしばらくして不安そうに由乃ちゃんに目線を移すのが見えた






「由乃ちゃ〜ん、そんなしかめっ面してるとが怯えちゃうでしょ」


「別にそんな顔してません」


「あ、あのっ…聖さま、由乃さんが不機嫌なのには理由があって……」







の顔を無理やり祐巳ちゃんの方に向け直してから、
由乃ちゃんを咎めるとぶすっとした表情のまま由乃ちゃんは否定する

慌ててフォローする祐巳ちゃんだけど今は優先だから私は咎める手を緩めない









「理由はどうであれ子どもの前で感情を素直に出すのはいただけないな」


「…判りました、席を外します。キッチンに居るので何か淹れますけど何飲みますか?」


「うん、ごめんね。私はいいからには牛乳、祐巳ちゃんにも何か淹れてあげて」


「祐巳さん飲む?」


「あ、私は紅茶が欲しいな」


「了解」









それだけ言うと由乃ちゃんは立ち上がってキッチンへと姿を消す

少し申し訳ないと思いつつも消毒し終えたの顔に貼るべく絆創膏の紙を剥がす




やはり痛いのか、顔を顰めるけれど此処は我慢



大きい絆創膏を額と鼻頭に貼ると、可愛らしい顔が一気に痛々しいものに変わり果てる












「よしっ、終わり。良く我慢したね〜、。でも次からはちゃんと痛い時は痛いって誰かに言うんだよ?」


「うん…ありがと、ございます」


「真面目な子だな〜、全然構わないよ。むしろ子どもは沢山怪我をして元気に育ちなさい」


「けが、いや。いたいもん」


「そりゃそうだ」








笑いながら既に涙も止まっているをソファに座らせて、
面倒見は祐巳ちゃんに任せて私は立ち上がり由乃ちゃんの姿を追う

由乃ちゃんはキッチンで機嫌の悪い顔をしたままやかんの中のお湯が沸くのを待っている


苦笑が漏れるのを我慢できずに、そのまま冷蔵庫から冷え切ったお茶を取り出しながら声を掛ける









「それで、由乃ちゃんの機嫌が悪いのは何故か聞いてもいい?」


「…機嫌は本当に悪くなんか無いです。ただ気になっていてしょうがないだけですよ」


「何か考え事?」









お茶をコップに注ぎながら隣に立ち尋ねると、由乃ちゃんは私の顔を真剣な表情で見上げてくる

そして信じられない言葉を耳にする










「おかしくないですか?何も無い場所で転ぶなんて…脳に障害でもあるんじゃないかって気になったんです」


「……な、何言ってるの。何も無い所で転ぶ子も居るでしょ、それにの足は…」


「そんなの余程の間抜けじゃなきゃしません、もちろん足の事は知ってますけど同じ年頃の子達と比べておかしいですよ」


「…やっぱりおかしいの?」








前々から気になっていた事、をはっきり言われて私は少し気が小さくなってしまう

私はの他の同年代の子どもを知らないから、標準とか言われても判らない


でも歩き始めたばかりの子どもじゃないのに歩き方がぎこちないのはおかしいと思っている










「ええ、あれぐらいの年になるともう足取りはしっかりしてくる物です」


「そっか、やはり1度病院に連れて行くべきかな」


「それが賢明だと思いますけどね、骨折した足を放置されて何も異常が無い方がおかしいですし」


「う〜ん、でもは病院を極端に嫌がるんだよね。前の両親と居た時しょっちゅう怪我をして行っていたから嫌な思い出があるのかも」


「それでも此れからの人生で出来る事が大幅に削られてしまうかもしれないんですから無理やりにでも連れて行くべきです」


「…そうだね、うん。判った、言ってくれて有難う由乃ちゃん。今夜にでも蓉子と相談してみるよ」









由乃ちゃんの肩を叩くと、幾分か柔らかになった表情で謝礼に対していいえと首を振る


キッチンの窓から見えると祐巳ちゃんの姿
祐巳ちゃんにあやとりを教えて貰っているおかげで泣きべそ顔なんてどっかに吹き飛んでいる



無邪気に笑う



それでも激しい運動は出来ないとなると、

幼稚園、小学生に上がった時に体育の授業が出来ない





ぱっと見て些細な事かもしれないけれど、
のこれから先長い人生の事を考えると放置しておくわけにもいかない












夕方になると呼び出された用事を終えた蓉子が帰って来た

もうその頃には由乃ちゃんのしかめっ面も消えていてと祐巳ちゃんと一緒に人形遊びに付き合っている





蓉子は微笑みながら迎える私の表情のどこかに異変を感じ取ったらしく、
頬に手を伸ばしてきて心配そうに伺ってくる


やはり蓉子に隠し事は出来ない、と改めて思う











「どうかしたの?」


「…うん、大事な話があるんだ」









私はそのまま蓉子の手を引いて寝室へ入って行く

蓉子はその腕を振り払う事もしないで、只されるがままについて来てくれる



寝室に入ると私はベッドに腰掛け、
仕事用のスーツを脱いでいる蓉子に部屋着を差し出す

素早く脱ぎ捨て、私から受け取ったシャツを羽織ながら蓉子は話の内容を尋ねてくる











「それで、どうしたの?」


「うん、祐巳ちゃん達本当は夕方まで帰って来ない筈だったでしょ?でも昼に帰って来たんだ」


「あら、そうなの。どうして?」







Gパンを穿きながら聞き返してくる









が転んで大怪我したの。其れで一目散に帰って来ちゃったんだって、が」


「あぁ…それであの顔の怪我なのね。にしてもは良く転ぶわね…」


「うん、其れでその後由乃ちゃんに指摘されたんだけど。やっぱりの動きが変なんだって」


「それはあの足だからね、仕方ないんじゃない」









部屋着に着替え終えた蓉子は私の隣に腰掛けて話を続けてくれる


私は2人きりの状況に久しさを感じてさり気無く蓉子の腰に手を回す

けれど蓉子はその腕も振り払う事なんかせずに私の膝の上に手を置く



その手が温かくて心地良い


いつもはこの手を独り占めしているのだと思うと少し悔しい










「でも1年以上前の事だとはいっても骨折なんて大怪我だよ?それを放置した状態でよく無いじゃない」


「う〜ん…触っても全然痛がらないから平気とは思っていたけれど」


「やっぱり触ると良く判るでしょ、骨が変形している事」


「そうね、それで聖はどうしようと思っているの?」


が嫌がっても病院に連れて行って1度診て貰うべきだと思う。まぁ由乃ちゃんに言われたんだけどね」


「判ったわ、今週中に休みを取って一緒に連れて行きましょう」


「うん…蓉子休み取れるの?今は忙しいんじゃない?」


のためでしょう、何とかするわ」











膝に置かれた蓉子の手が私の背中に回る

私は、蓉子の腰を引き寄せて身体を密着させる


近くに寄るとやっぱり蓉子からは良い匂いがした



つい前まではこの身体を毎日飽きる事も無く抱き締めていたというのに、

それが遠い昔のように思えてくる




だから私は蓉子の唇に重ねるだけの口付けをしながら微笑む














のためなら?私のためには休みを取ってくれないんだ?」


「もちろん取るわよ、貴方が骨折でもしたら」


「…じゃあ今度車の前に飛び出してみようかな」


「ふふっ、止めてよ。貴方が病院に運び込まれたなんて聞いたら不安で立っていられないわ」











蓉子も久しぶりのコミュニケーションに嫌悪を示す事などせずに、

キスに応えてくれて
蓉子からもキスをしてくれる












「腰砕け?」


「何か貴方が言うと淫らに聞こえるのは気のせいかしら」


「気のせいだよ、蓉子こそそういう発想に結びつくって事は溜まってたりする?」


「あら、そういう事言う当人が溜まってたりするのよね」


「……ぶっちゃけすっごく蓉子としたい」


「ストレートな発言だわね…んっ」













正直抑えが利かなくなっていた私は蓉子の腰に回していた手をシャツの下に忍び込ませる

キスを繰り返す回数も増えて、何度も何度も想いをぶつける




蓉子の腕も、私の首に回されて


ついついこのまま事に及んでもいいのかと思ってしまう















「もう限界…が来てから1度もしてないじゃない」


「そりゃ、が居る前でキスしたりなんて出来ないでしょ」


「じゃあ今しようよ、ね?」









自分の吐息が熱くなっているのが判る


鎖骨にキスを落としながら少しずつ蓉子の身体をベッドに押し倒す

抵抗も何もしない事から、シャツを捲ろうとしたその時
蓉子が突然私の腕から掻い潜って立ち上がった












「さて、夕飯の準備しないとね。聖も手伝って」













そう言いながら蓉子は寝室を後にする

私は1人ベッドに残されて、空しくて呻く事しか出来なかった



すると1人になった寝室にまた蓉子は戻ってきて、顔だけ覗かせる

















「続きは今夜が寝たらでいいでしょ?」




「………っうん!!」





















其れから私は祐巳ちゃんと由乃ちゃんも夕飯に招いて、

蓉子の料理の手伝いなど自ら進んでやる




突然機嫌が最高潮になった私を2人は不思議そうに見守っていたし

は段々自分も嬉しくなって来たのか一緒にはしゃぎながら食卓にお箸を並べるのを手伝ってくれた





その隣で蓉子がしょうもなさそうに苦笑を零していたけれど



嬉しいものは嬉しいのだ










のために考えなければいけない事


のためにやらなくてはいけない事







それは沢山あるけれど












蓉子の事が大好きでしたい事


蓉子の事が大好きで囁きたい言葉








それも沢山あるから












1人だけを愛する、なんて純粋な事はしない


蓉子も愛しているし、


比べられない程も愛している











其れでいいんじゃないか、と



























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