運命って信じる?
私があの人と、
聖達と関わりの無い場所で別々に出会ったのは
きっと惹かれあう何かがあったのかもしれないな…
「江利子、財布落としたよ」
「あら、有難う」
拾い上げた財布を江利子に渡しながら、
私は記憶を懸命に手繰り寄せた
財布が落ちた弾みで床に散らばった名刺やレシート
そして1枚の写真
江利子の事は良く知らない
知っている事なんて、面白いものが好きな事だけだ
でも今江利子がどんな仕事をしているのか、
恋人とか居るのか
何も知らなかった
けれど其の写真には江利子とある女性が写っていた
其の女性を、私は見た事がある
会った事がある
話した事が…ある
施設に預けられて、1年が過ぎた頃
いつになっても迎えに来てくれない聖と蓉子に苛々を募らせて
そしてもしかしたら私の事など忘れてしまったのではないかという不安を育てていた
1歳5ヶ月
まだ小さいから、と遊びの仲間に入れて貰えなかった私は施設の仲間達と離れた所でクローバーを探していた
四葉のクローバー
探し出せば幸せが訪れると施設の先生に聞いて
其れを探し出す事が私の日課となっていた
その日も1人で公園の隅っこに座り込んでクローバーの草原を漁っていた
『四葉のクローバー探してるの?』
ふと声が掛かったんだ
吃驚して顔を上げたら、
目の前にいつの間にか女の人がしゃがんでいた
何処かで見た事のある顔だと思ったけれど、
そんな思いは直ぐに消えた
違うと判ったから
『くろーばーみつけたらむかえにきてくれるの』
『…ふぅん、手伝ってあげよっか?』
『いい、いみなくなっちゃうもん』
『へぇ、偉いね。じゃあ此処で見てていい?』
『いいけど、じゃましないでね』
『了解』
年の割りに可愛くない事を言う私に、
其の人は笑って
その場に胡坐を掻いて座り込んだ
そして肘杖を着きながら私の行動を観察する
『ねぇ、誰が迎えに来てくれるの?』
『せいとようこ』
『……"せい"と"ようこ"?どっかで聞いた事のある名前だなぁ』
『しってるとおもうよ、だっておねえちゃんれいのかぞくでしょ?』
『…まさか、君さ。佐藤 聖と水野 蓉子。序でに支倉 令の事言ってる?』
『うん』
『其れで私の事令だとは言わないんだね。見分けてくれた人初めてだよ』
『だってぜんぜんちがう。れいはもっとやさしいかお。おねえちゃんはさみしいかお』
『………凄いね。其れで聖と蓉子が迎えに来てくれる約束してくれたんだ』
男の人みたいだけど、
女の人みたいな美しさを備えているその人は
頭を掻きながら苦笑した
はっきりと言う私の頭をぽすんと撫でてから、その人は静かに笑う
『した、の。1ねんまえに。でも…わすれちゃったんだ』
『どうして?』
『ぜんぜんむかえにきてくれない。だからをおもいだして、っておねがいするためにくろーばーさがしてるの』
『…大丈夫だよ、聖と蓉子はそんな酷い事しないから。直ぐ近くに居るよ』
『ほんとう?』
『うん、本当。まだちゃんを見つけられないだけだよ、こんなに近くに居るのにね』
『ちかく?のちかくにいるの!?』
『そうだよ、だってこの辺って江利子さんとかの家あるし』
『そうなんだ!じゃあここでくろーばーさがしながらまってたらみつけてくれるかな?』
『ん、絶対ね。誓うよ』
そう言ってその人は小指を差し出してくれた
その小指に、
私は嬉しそうに自分のも絡めて指きりげんまんをする
逆光のせいでその人の顔がよく見えなかったけれど
とても優しい笑みだった
『おねえちゃんは、だぁれ?』
『累』
『るい?れいのかぞく?』
『そう。令のお姉ちゃん』
『わたしはっ、 。せいとようこがきたら佐藤 なの』
『そっか。聖と蓉子に宜しくね、佐藤 ちゃん』
『うん!』
そう言うと、
その人は私の小さな手の平を広げて何かを乗せてくれた
そして立ち上がり、
『ばいばい』と手を振るその人に手を振り返して
その姿が見えなくなると
自分の手の平を見る
其処には四葉のクローバーがあった
そのクローバーと、
その人が誓ってくれた約束のおかげで、
更に1年後やっと聖と蓉子は迎えに来てくれた
もう1度会いたいと思っていた
そして有難うと告げたい
お姉ちゃんの言った通り叶ったよ、って
お姉ちゃんがくれたクローバーのおかげだよ、って
「ねぇ、江利子」
「ん?どうしたの?」
カウンターで聖と談笑しながらワイングラスを口に運んでいた江利子の背中に声を掛ける
店を閉めた後の片付けをしながら、
私は何気なく口にした
その名前を
「累さんに会いたいんだけど会わせてくれない?」
そういうと、
蓉子と、
談笑していた令と、
その2人を眺めていた祥子と、
聖と、
江利子の目が一気にこちらに向けられて
其れまで賑やかだった店内が静寂に包まれる
何か拙い事でも言ったのかと私は手にしていた床磨き用のモップを握り締める
「…、其れ誰かに聞いたの?」
「え?違うよ、まだ施設に居た頃に1度だけ会ってるんだ」
「累、と?」
「う、うん」
聖が慎重そうな面差しで問いかけてくるものだから、
私もついつい慎重に答えてしまう
江利子はワイングラスをテーブルに置いて俯いてしまった
何か考え事でもしているのだろうか
令のグラスを拭く手も止まっていて、
微妙な空気に支配される空間が出来上がってしまった
「日本に帰ってきたばかりの頃だね、きっと」
「…ええ、そうね」
聖が苦笑すると、江利子も微笑しながら僅かに頷く
令は自分の気持ちを落ち着かせるために水を一杯一気に飲んだ
祥子はおしぼりを持て余している
蓉子だけ、真っ直ぐに私を見つめていた
「累とどんな話をしたの?」
「どんな、って…四葉のクローバーをくれただけ」
「クローバー?」
「うん、聖と蓉子は此の近くに居るからクローバーを探しながら待っていたら迎えに来てくれるよって」
「…ふふっ、累は全然変わってなかったのね」
「え?どゆこと?蓉子、累さんに会ってないの?」
「……、あのね。落ち着いて聞いて頂戴」
蓉子は私の腕を引いてくる
私は小首を傾げながら蓉子の顔を覗き込む
その唇は僅かに震えており、
今から話す事はとても重大な事なんだろうと解した
「累は、令の双子の姉なのよ」
「うん、だろうね」
「そして江利子の高校時代からの恋人なの」
「あ、そうなんだ」
「それで、累は…もう……」
「死んだのよ、貴方が聖と蓉子の元へ行く前に」
其れまで黙っていた江利子が、
グラスの中を掻き混ぜながらそう一言放つ
最初はその言葉の意味が判らなくて私は眉を顰めたけれど
聖達が沈んだ顔をしていて
蓉子の私の腕を掴む手に力が入ったのを見て
あぁ、冗談なんかじゃないんだと判った
「累さん、が?どうして…」
「事故でね。多分が累と会った直ぐ後だよ」
令が悲しそうに顔を歪めて、
グラスを拭く作業を再開させる
「そんな…私は累さんにお礼が言いたかったのに、ずっと……」
「、辛いのは判るけど私達皆ぶつかった事なのよ」
「蓉子、どうしてそんなに飄々と話せるのさ」
「そんな事ないわよ、今こうして話題にあがるだけで辛いわ。でも累はそういう事を望む人じゃないもの」
「でも累さんは…約束してくれたのに」
「何の約束したの?」
「………言わない」
「…そうね、そういう事は野暮に聞くものじゃないわね」
「うん、ごめんね…」
「いいのよ、貴方は優しい子ね」
そう言って、優しく抱き締めてくれる蓉子は温かった
そして私はちらりと後方に座っている江利子を見る
その顔は表情が読み取りづらくて
いつもより数段に何を考えているのか判らない
微妙な空気のまま家に帰る途中
私は車の後ろに並んで座っている江利子の手を握った
窓の外を見て呆けていたのか、
吃驚したように目を見開く
そんな江利子に微笑んで、私は顔を近づける
『ねぇ!おねえちゃん…』
『ん?』
『おねえちゃんはだれかむかえにきてくれないの?』
『…ふふっ、反対だよ。此れから私が迎えに行くの。大切な人を』
『そっか!きっとそのひともくろーばーさがしながらまってるね』
『そうだと良いんだけど…』
『そうだよ、ぜったい』
『よし、1つだけ約束してみようか』
『なぁに?』
『お互いに大切な人達に大切だ、って言う事が出来たらもう1度四葉のクローバーを交換しよう?』
『…うん!』
「累さんは、江利子を迎えに行くんだって嬉しそうに言ってたよ」
そう言うと、
江利子はその日初めての笑顔を見せてくれた
その目が僅かに潤んでいたのは私だけが知る秘密
運命って信じる?
私があの人と、
聖達と関わりの無い場所で別々に出会ったのは
きっと惹かれあう何かがあったのかもしれないな…
fin