「冬獅郎、ルキアが居ないんだ」
どこをさがしても




乱菊さんに頼まれたらしく私を探しに来た双子の弟にそう言う

冬獅郎は木の上にいる私を見上げて、眉を顰めた


面倒くさそうな顔はよく似ていると皆によく言われる
でも私はこんなに餓鬼じゃない
悪いけど


「知らねぇよ」


一瞬表情が曇るのを見逃さない
それでも返事を待つように見つめていたら

観念したかのように冬獅郎は肩を竦めた


「任務で現世行ったよ」

「また?最近ルキアの担当区、虚の出現率高くないか?」

「さぁな、霊感強い奴でもいるんだろ」



弟の立っている通路に降り立つと、男なのに自分より小さな弟を訝しげに見やる
それに気付いてか、自分の姉に苦笑を漏らしながらこう言った


「何か現世でトラブってるみたいだぜ」




行ってみれば、と呟く


こんな事を聞いても至極冷静な私を不思議に思ったのだろうか
でも私は顔を横に振った



「また余計な事するなってルキアに怒られるし」

「・・・・ふぅん」



もしあの時ちゃんと冬獅郎の言う通り様子を見に行けば良かったのだろうか






それからルキアは帰って来ることはなかった......













乱菊さんや七緒さんが言うには死んだ訳ではないらしいけど、
それしか教えてもらえない

誰に聞いても同じような言葉が返ってくるだけで


白哉に至っては無言で私のイライラは更に募るばかりだった



ある日瀞霊廷の通路を歩いていると、ふと呼び止められる

!」



声の主は判っていたし、
誰も私には事の次第を教えてくれる気はないとわかっていたから
しぶしぶと足を止めて後ろを振り返った


「何、刺青眉毛男」

「そうとう機嫌悪いじゃねぇか、隊長達が言ってた通り」


恋次は私の髪を撫でながらそう言う
苦笑してたのが急に真剣なものに変わった

「三日後隊長と二人でアイツを連れ戻しに行く。お前も来い」






宙を彷徨っていた私の目は恋次に向けられる






今、何て言った?



アイツってのがルキアの事だってのはわかってる
けど…、隊長格が二人も向かうって事は






「連れ戻すんじゃなくて”捕える”、だろ」
「…命令だ、仕方ねぇよ」
「ああ」
「で、どうする?」
「行かない」
「………そうか、わかった」
それだけ言うと元来た道を辿る恋次の背中に向かって言った

「恋次」
「あぁ?」
「頼む」
「………おう」

後ろ手を振って遠ざかる姿に少し安心した
恋次が居れば白哉の暴走を食い止められるだろう
白哉は昔からあの女性の妹であるルキアに対して過敏になるところがあるから



私は足早に七緒さんの所へと向かう

心配そうなな七緒さんを他所に地獄蝶を1羽借りた






行こう、ルキアの元へ










人間界の学校というものはこちらの死神学校と対して変わらなかった
若い子達が無邪気に会話を交わして授業も適当に済ませて、
昼休みになると仲の良いものが集まってそれぞれの場所で寛ぐ
私は屋上から校庭や中庭を眺めて目的の人物を探した
でもどこにもその姿は見えない


「でさ〜、って聞いてる?一護」

ふとした声に後ろを振り返ってみると、数人の男子が屋上にて弁当を広げていた
その中のうち髪の極端に明るい一人がこちらをジッと見ている
まぁ、私も半端なく明るい髪だが

見えてる?
まさかな…




そう思ってとりあえずここには居ないから、とその場を離れようとした時
懐かしい声が聞こえた
どう考えても素じゃない喋り方にギョッとしたが
これがこちらの世界での好印象を持たれるように作った人格なのだろうか
私は校内から屋上へ続いている階段を見やる









「皆さん、お待たせして申し訳……っ」






この学校の制服を身に包んで作り笑顔で駆け寄ってきた人物
それは懐かしい顔だった




………っ」






「久しぶり、ルキア」



ニッコリと微笑むとルキアの元へ近づく
ビクッと身を固くするルキアにまた微笑んだ



「私は任務で来た訳じゃないから大丈夫」



幾分か胸を撫で下ろす彼女の元に、さっきの男が駆け寄る

「知り合いか?死神みてぇだけど…」


驚いた、やっぱり私が見えてたのか
その男はルキアに説明を求めていた

「…っ!!!!」

「え?」



ルキアの切羽詰まった声に、
自分がその男に無意識で殺気を放っていたことに気付く

だって、コイツは、
恐らくはルキアが帰って来ない原因
だって、ルキアの霊圧を、
この男からわずかに感じる


「一護、悪いがコイツと話があるんだ」



それだけ言うと一護という男は少し私を見て、
わかったと呟いて元の仲間達の元へ戻っていった




私とルキアは階段の影へ向かう
一護にも見えない場所で
私はルキアの背面から抱きついた

?」
「…会いたかった」
「………」

声が震える
それでも何ヶ月か振りに抱きしめたその身体は小さく、
とても冷たかった
そっと私の腕に手が添えられた



「会い、たかった」
「私もだ、


屋上に生暖かい風が吹く
こちらでは夏なのだろう

それは私達を包み込むと、また離れて何処かへ行ってしまった


「どうして…、帰って来ないんだ?」
、それは…」
「あの男が原因だろ?」
そこでまた黙り込むルキアに痺れを切らして更に強く抱きつく




「明後日、恋次と白哉が来る。……任務で」

その身体は震えていた





「今なら間に合うよ、帰ろう?一緒に」






無理だ、
その言葉を聞きたくなくて、顔を肩口にしがみ付かせる


その頭にそっと空いている方の手が乗っかって、
優しく撫でてくれる
恋次のようなあんなガサツさじゃなくて、
とても愛しい優しさ



「ごめん、


「嫌だ」


、すまない」


「嫌だ!」


……」



「嫌だ!!!!」






腕の中のルキアの身体が反転して私の方を向いた


そして唇には温かい感触

懐かしい感触




ついばむように繰り返されるそれはとても温かった

私もそれに答えるようにキスを返す

背中に両腕が回された




最後に、長く重ねるだけの口付けをして、

そして離れた....






顔も身体も全てが離れた




その顔はとても悲しい、顔だった






「帰って、来てくれる?いつか」





それだけ言うと、やっと笑顔が見れた
とても愛しい大好きなルキアの笑顔







「ああ、絶対いつかお前の元へ帰る」













そう言って別れたのは2週間前


私は今ルキアを助けに来た旅架達を助け出している







目指すは双極の下



あの男が白哉と戦っている












ルキアが生きたがっている




なら、助けるまでだ



この命散ろうと、愛する人のために






待ってて、ルキア
私の想いは、貴方のためにある



貴方の想いも私のためにある




だから…………







例えこの身が砕けようと、
親しい友人達に頗る裏切られた悲しみの表情で斬られる事になろうと…







ルキア






ねぇ、ルキア








今、笑ってる?












「どういう事だ」



「……愛する者のためには戦うだろ、お前だって」









立ち塞がる弟を前に

事の次第に追いつけなくて混乱してる弟と親友を前に





私は、刀を抜いた






っ!一体どういう事なのか教えなさいっ!!」

「別に…。ルキアを助ける、それが私の意志であり願いであるから」


「だから旅架に付くというのか?」



「冬獅郎」




泣きそうな声で叫ぶ乱菊さんに、
そう答えたら冬獅郎が眉を顰めてそう苦々しげに吐いた


私は、表情を崩さず




血の繋がらない、上辺だけの弟の名前を呼んだ






「お前がもしも桃がルキアと同じ状況だったら、助けるよ」













「………っ!!!」
…どうして……。私達は敵じゃないわよ」







「私の目指す先に立ち塞がる者は例え肉親であろうと、捻り伏せるまでだ」

































「ん?」



全ての、戦いの終末は


善悪が誰にもわからなくなった

わざわざ現世から命を救ってくれたというだけで仲間を引き連れて、
恋人を助け出しに来てくれた青年は



夜一と共に、浦原が居るという現世へ帰って行った





私達は、やっと互いに触れ合える時間を得て、
朽木家の大きな屋敷にあるルキアの部屋で佇んでいた


前もただ何をする訳でもなく
何を話す訳でもなく


側に居るだけで安心できてた間柄だったから



私はいつも通りに、揺れる蝋燭の灯火を頼りに文書を読んでいる




隣でうつ伏せになって寝転んでいたルキアが遠慮がちに名前を呼んできた






「会いたかったぞ?」



「……ああ」



腕を伸ばして私の髪を触る
文書を脇に置いて、ルキアの隣に寝転んだ



「兄様に聞いた処によると、私のために石田達に加勢してくれたらしいな。日番ヶ谷と対峙してまでも」




「白哉の野郎、余計な事を…」



いつの間にか全てを知っていたルキアを前に、
思わず悪態をついた

舌打ちをしても四番隊の宿舎で治療を受けてる本人に届くはずなく
薄暗い闇の中に消えるばかりだった



「ふふっ、相変わらずだな。でも後で松本に謝った方がいいと思うぞ」

「…分かった」


自分の髪を撫でるルキアの手首を掴んで引き寄せる


その手首も、数週間前と変わらずに細かった




「……しかし、嬉しかった。私は」



松本達には悪いがな、と声を潜めて笑うルキアの唇に
自らの唇を重ねた
















「ルキアの為なら例えこの身消えようとも」





守り貫いてみせる















[fin]