「はぁ…」






1人深く大きく吐いたため息が生徒会室に響き渡る

幸い生徒会のメンバーは誰もおらず
居るのはやっかいな2人組だけだから、気を使う必要も無い


2人はそんな私を見てニヤニヤと笑っていた












ミアトルを背負って働く深雪は生徒会長という一応学園内で1番の権力者


けれど、幾らエトワールだからとはいえ静馬様に振り回されている日々

実は深雪では敵わない人はもう1人居るのが、ミアトルでも有名な事柄となっている




花園静馬の親友である








彼女が静馬と並ぶとスピカの王子に引けを取らないくらい王子の異名が合う人で、




むしろ3校舎をくっ付けて

女王が静馬で
王子が天音ならば

は王だと謳われているくらいだった



その王は影の女王の千華留とも仲が良く





もう史上最強だと言われている











そのツートップに囲まれても深雪はたじろぐことなく、
逆に呆れて脱力していた






「何なんですか、もう…」


2人の上級生は苦労人気質の可愛い後輩を遠慮する事もなくマジマジと見つめている




「いい加減にしてください、手伝う気もないんでしたら生徒会室に居座る必要無いでしょう?」

「あら、私が何処に居ようが私の勝手じゃなくて?心外だわ、ねぇ?

「それもそうだね、静馬。嘆かわしい事だ」

「だから此処でファンサービスする必要ないので…早々に立ち去って頂けないでしょうか」





迷惑そうな顔で冷酷に言い放つと、
静馬とはオーバーリアクションで互いの顔を見合わせ眉尻を下げる

そしてお互いを抱き締めてよよよっと泣き崩れた






「聞いたかい?母さん、我等の可愛い深雪が反抗期だよ」

「ええ、しかしとこの脳髄に焼き付けましたわ、愛し貴方。胸を突き刺す凶器そのものね」

「あぁっ、やはり私にはお前しか居ないよ」

「私にも貴方しか居ないわ。例えこの身が朽ちようとも貴方の側に居させて欲しい」

「もちろん永久の時に抱かれるよりも君を愛し続けるよ、静馬」

「其れが何よりも愛の言葉、真っ直ぐに心に響くの。愛し合う者の力とは素敵ね、



「お願いしますから室内に此れ以上幻想の薔薇を振り撒かないで下さいますか」







まるでミュージカルのような、宝塚のようなノリで
息をピッタリ合わせて芝居に入る2人は室内に薔薇の幻を散らし辺りを散らかしている


そんな花弁を邪魔そうに払いながら、深雪は卓上の紙面に視線を戻した

もうこの2人には何を言っても無駄だと至極理解しているので、無視する事に決め込んだのだ







「だって此れをやると皆喜んでくれるんだもん」

「ええ、私達の可愛い子猫ちゃん達が心底喜んでいろいろプレゼントしてくれるのよ」

「おぉっと、静馬。其れを言っちゃ駄目じゃないか、深雪はそういう事に煩いんだぞ」

「あら、そうだったわね。ごめんなさい、失言だったわ」

「いいさ、そんなちょっぴりドジな君も魅力的だ」

「そんな恥ずかしい事言わないで、意地悪ね」






またしても互いの手を握り合って至近距離で微笑み合う2人は、
誰がどう見ても恋人同士其のものである

そんな彼女達が校内で好感を得ているのは、互いの美貌のお陰でもあるし

このノリの良さ、ファンの1人1人を大事にする(見ようによってはただ手が早いだけとも言う)精神のお陰だ






けれど忘れちゃいけない


この無駄な程に、
男性よりも魅力と優しさと輝く微笑を振り撒いている 



六条深雪の恋人だ






花園静馬との戯れは只の互いの趣味であり、

それによって得るメリットが互いに大きい物だと理解した上で親友同士組んでいるだけだ



まぁ、幾度かお遊びが過ぎてキスやそれ以上をしたこともあるが


其の度に深雪や千華留、詩遠達が食い止めたり制裁を与えたりしてきた








要するに此の3校の生徒会長達の頭を抱えさせる存在であった















どうやら深雪の態度がいつも、自分達を窘めている態度と違うと判断したは静馬の腰に回して体を引き寄せていた腕を外す

そして深雪の正面にある席から離れると深雪専用もとい生徒会長専用の椅子の側面にしゃがむ



下から覗き込むように深雪の顔を見ると、
至極至近距離では妖しく微笑む







「どうした?」

「…別に何でも」

「ヤキモチかい?」

「何でもないですわ」

「なら、いつもの凛々しい君が見たいな」

「………離れてください、片付けねばならない仕事が沢山あるので」






其処まで言うと、
は顔をそろりと上げて、まだ正面に優雅に座っている静馬に目配せをする

すると静馬はニッコリと微笑んで生徒会室を後にした



アイコンタクトで全てを交信し終えたは、

深雪の椅子の背もたれに手をかけて自分の方に回す



無理矢理顔を正面から見つめられる、力技に深雪は眉間を寄せた

そんな彼女の顎に指をかけては微笑みながら低い声で名を呼ぶ








「深雪」

「っ…」

「そんな悲しい事言わないで」

「……さまは、調子に乗ってるのではありませんか?」

「そんな事は無いよ、いつだって君を一番に想っている」

「証明して見せてください」









静馬とのやり取りや、

自分以外の女性達にもそう言う事を囁いていると何もかもお見通しの深雪はニコリと微笑み返して



の腕を引き上半身を傾けさせるとその首に両腕を回す






そんな行動に特に驚く事も無くは、

椅子の腕掛けに腰を下ろして深雪の身体を抱きかかえ直す











「証明?そのためには神聖なる生徒会室を淫らな空気でいっぱいにしてしまうけれどいいのかな?」

「あら、そんな事会長の私に尋ねて宜しいと思っていたんですか?」

「うん?」

「そういう行為でしかご自分を表せないのであれば悲しいものですね」

「…ふふっ、私を侮っちゃいけないよ」








挑戦的な目つきで見つめ返してくる、直ぐ目の前にある顔に



は小さく含み笑いをしてから唇を強く押し付ける




初めてのキスみたいな、小鳥が啄ばむようなキスなんかではなく
大人の力強い

恋という次元を超えて愛を知っている大人同士の強く深く甘い口付け











「ふっ…は……深雪」

「はっ、はぁ…何…」

「好きだ」

「んっ……ぅ…」

「…愛してるよ」

「んん………」






2人きりの時だけ、深雪が口にする呼び名


其れには深雪を抱く腕に力を込めて強く掻き抱く















「深雪、聞いて。愛の証明だなど誰にも出来やしないんだ」

「…え?……どうして?」

「愛の形なんて人それぞれだろう?ならばどれくらい愛しているのかなんて言葉にして告げればいいだけだ」

「貴方はそう思うのね」

「ああ、だから私は口にする。其れがどんなに飾ったような言葉だろうが、思ったならば口にする」

「へぇ…其れが貴方の愛の形ね」

「そうだ、其れに応えてくれるのも君しか居ないと思っている」

「……ええ、判ってるわ。貴方に応えられるのは私しか居ないと」

「…ふふふっ、やっぱり君は最高だ。深雪」














自信満々に微笑む年下の恋人に、

は一瞬呆気に取られるが直ぐに微笑んで椅子に座りなおす
そして膝の上に深雪を抱きかかえておかしそうに笑った













愛の花を咲かせましょう


けれど愛の花、その正体を暴いてはいけない

それはきっと毒の花――――――
















fin