「…何事なの、これは」


目の前には世にも珍しい光景が広がっていた

私はその解釈をその他のメンバーに求める、といきたい所だったが、他には誰もいない
とりあえず鞄を置いてその様子を眺めてみる


蓉子が仁王立ちして江利子に詰め寄っていた

正確には江利子の腕の中に納まっているというところか


江利子が守るようにを抱きしめて離さないで、も珍しく江利子の首元にがっしり抱き返していた



を渡しなさい、江利子」
「「嫌(よ)」」


これは本当に珍しい

はいつも江利子に捕まってしまって蓉子に助けを求めるのに


江利子と一緒になって蓉子のもとへ行くのを拒んでいた





「もう!聖、江利子に何とか言ってよ」


蓉子も珍しく降参したのか、私に向き合って弱音を吐く

私はとにかく事の収集がつかないので頭を掻きながら訪ねた






「で、これはどういう事?」




「どういう事も見ての通りよ、よりにもよってやっかいな二人が組んじゃったの」
「やっかいって何よ」

納得いかな気に反論する江利子を他所に、

がジッと私を見つめ始めた



私は面食らって思わず見つめ返す



「何?


「…聖は私の味方だよね」

「え?」





「人類の味方だよね!!?」





何故そこまでスケールが大きくなるのかと、

頭を抱えながら蓉子に疑問視線を向けてみる






「あのね、貴方の味方が人類の味方なら私は何なの?」

「人類対象外」




即答する江利子

おいおい、対象外って言いすぎじゃないか





「まぁ、とにかく私はいつでもの味方だよ?」




「本当!?」


顔を一気に輝かせて江利子の腕の中から抜け出して私に抱きつく

この変化は余程切羽詰まってたのだろう



私も小さな身体を抱き返した

いやいや、ノリでというものだよ





「でさ、はどうしたの?」

しゃがんで、を見上げるようにして顔を覗き込むと聞く



明るかった顔がパッと暗くなる








「虫歯よ」









無視葉



いや、虫歯



………え?




「虫歯ってが?だからどうかしたの?」




目の前のを睨みながらそう教えてくれた蓉子に問い返した

の頭をよしよしと撫でながら追いつかない思考を手繰り寄せる



そりゃ甘い物が大好きなんだから虫歯の1つや2つくらいできるだろう



「だから、病院なんか行きたくないのよね?」





江利子がつまらなさそうにひじ杖をついてを見やる


私の首に抱きついたまま頷くに苦笑が漏れた



漏れたところで蓉子を見る



蓉子も大変だね、と

わかってくれた?とホッとした顔で苦笑する蓉子もいろいろあるのだ







「そりゃね、寝る前に歯を磨かせるのを忘れてしまった私にも責任はあるのよ?」



そういえば一昨日泊まりに行くとか話してたっけ

つまり蓉子は自分に責任があると思い、医者に連れて行って早いとこ治してもらおうと思っている訳だ



で、病院大嫌いのは頑として逃げ回って最終的に味方として江利子を落としたのか

江利子は以前虫歯でしんどい思いをしたらしいし、の気持ちはわかるみたいだし




「ね、



「……ん?」


少しだけ身体を離してお互いの顔が見えるようにする

小さな子どもみたいに今にも泣きそうな顔は確かに見捨てることはできない


でも蓉子が必死で耐えて頑張っているんだから、私もそうしないと





「病院イヤなのはわかるよ?でもこのままじゃ大好きなお菓子も食べれなくなっちゃうよ、いいの?」



「……いいもん」


「令の作ったケーキやお菓子もダメだよ?」




「令ちゃんならくれる」

「蓉子が言ったら絶対くれないよ、令はああ見えて頑固だし」

「………祐巳に貰う」



「祥子の命令を無視できる子じゃない事知ってるでしょ?」





ぶっす〜っと頬を膨らませたの顔を笑いながら撫でる

これで周りは固められた、と



あとは…



「お菓子なんて私がいくらでもあげるわよ、ちゃん」





「本当っ!!!???」



嬉々として江利子の膝の上に乗る様子を見て私と蓉子は一気に身体の力が抜けた



「江利子〜っ…」
「もう少しだったのに……」





「それにね、歯医者は痛いのよ、特にあのガリガリキュィーンって音はダメね」

「わ〜っ、江利子それ以上言うなっ」


「掘ったところに風を当てられるのもたまらないわ、キィィンッて痛いの」

「うわぁ〜、うわぁ〜っ」

「後は…」





目の前には楽しそうに歯医者の怖さを語る江利子と両耳を塞いで本気で嫌がる


とうとう私の負けず嫌いさに火がついた



っ!!」
「えっ?何、何!?」



耳を塞いでいるに聞こえるようにできるだけ大声で、


呼ぶと驚いたのか顔を上げてパチクリと私を見つめる瞳と目が合った




「虫歯はね!放っとくともっともっと広がって最終的には歯を抜くんだよ!」

「うわぁ〜っ、イヤだ!」

「そしたら差し歯だよ!?この年で!」



「あ〜っ、イヤだよ!!」

「しかも虫歯は移るんだよ、知ってた?」





「わぁ〜っ、イヤ……え?」



ここまで来ればもう勝算は見えた、と






「キスできないよ?蓉子と」







「ちょっ、聖、何言ってるのよ!」


予想外の発言に戸惑う蓉子の耳にこっそりと耳打ちをする


『もう少しで落とせるから』


それを聞くと蓉子も段々含みを込めた笑顔になってきた





「もちろん、私もしてあげないし、令も祥子も皆してくれないよ」





、じゃあ私が……」


「江利子、また虫歯になって入院したいの?」






「…………………」





これでもう江利子の妨害はあるまい


あとはがどういう反応にでるか、だ




は裏切られたとでもいうように江利子の顔をしばらく凝視した後、

悲しそうに俯く


言い過ぎたかな?







「わかった」


「え?」






「行く、歯医者」















「良かったわ!ありがとう、聖」

「いえいえ〜」

「つまらないの」



それぞれ紅白黄が会話を交わしていると、
ふと一言付け加えられた















「でも一人じゃイヤだ」






思わず上がってしまったテンションを抑えながら、
三人は思わず聞き返す


は顔を上げて、こう言った





「一人じゃ、イヤだ」




「あ、もちろん私も一緒に行くわよ?」




「違う、皆一緒」


そこで蓉子が身を乗り出しての頭を撫でる
でもはそういう事が言いたいんじゃなくて、
つまり、こういう事だ




歯を削られてる間私達に両脇に居て手を握ってて欲しいらしい





「……マジ?」

「…診察室まで付き添うの?」

「嫌よ、私は。もうあんなところはこりごり」



あ、江利子逃げやがった

ということで私と蓉子は否応なしに首を縦に振らざるを得なかった










うぅぅぅぅっっっ
呻き声が響く診察室で、顔を真っ赤にして異例の客人がいる事を病院内の誰もが不思議に思っていた
聖「痛い痛い、爪食い込んでるっ」
蓉「暴れないのよ」
聖「だから気を楽にすれば痛くないって。…痛いよ!手離していい!?」
蓉「ダメよ、私一人じゃ抑えられないわ」
聖「何で蓉子の手は握り締めないの!?私だけ!?痛いってば!!!」








翌日、嬉しそうな顔をしたが誰構わずキスをしているところを見て蓉子の背後にどす黒いオーラが漂っていた・・・

つまり私は、良い事をしたのか悪い事をしたのか、それは誰にもわからない




はぁ、もうマジで嫌だ……






は可愛いし、蓉子は好きだけどさ、……ついでに凸ちんも一応友達として好きだけどさ、
友達でも限度ってもんがあるんだよ?











fin