お、お腹減った…
「はぁ〜〜…」
「ちゃん?どうしたの、溜息なんかついて」
「ああ……」
5時間目が終わって訪れた休み時間、思わず机に突っ伏していると祐巳ちゃんが心配そうに聞いてくれるけど…
無理。脳ミソに栄養が回ってないから返事をする事も出来んよ…
今日は月の終わりも近い金曜日。世間一般様で言う給料日前だ。
かくいう私もお金が入る少し前だったりする。
「本当に大丈夫?心なしかやつれたような…」
「うん……ここ2日はまともなご飯食ってへんから…」
「え!?ど、どうして!?」
「それは…話せば長なるんやけど…」
まあ、アレだ。
実は2日前にどーしても欲しいゲームソフトがあって…それを買ったら生活費が無くなったというオチなのさ。
しかも寝る間もご飯を食べる間も惜しんでゲームしてたからだったり。
…うん、まったく長くないね。と、言うかアホだね、アホ。
「とにかく……今はお腹がペコリーナなんやよ…」
「ペ、ペコリーナ?」
「うん、ペコリーナ」
「……そうなんだ」
ああ…祐巳ちゃんの憐れみの視線が痛い…
面白い事が言えない私なんて蛸の入ってないタコ焼き…ただの小麦粉焼きだよ…
そんな私を哀れに思ってくれたのか祐巳ちゃんが喉飴を一つ差し出してくれた。
「とりあえず…飴でも舐める?」
「…ありがと……ごめん、口の中に入れて…」
「分かった。…はい、あーん」
「あー…」
包み紙を開ける力も無かったから祐巳ちゃんに開けてもらって口の中に入れてもらう。
うぅ…久しぶりの糖分だ…
口をモキュモキュさせながら喉飴を味わう。
「ちゃん…もしかしてお昼ごはんも?」
「食べてない…」
「私のお弁当はもう食べちゃったし……お金、貸してあげようか?」
「………いや、それはいいわ…」
少しだけ心が傾いたのは内緒だ。
…駄目だ、幾らお金が無くてもそれだけは駄目だ。
「私はいいんだよ?」
「や……あと1時間で帰れるし…今から薔薇の館で寝るから…寝たら空腹は感じんし…」
その前に減りすぎて寝られん可能性も大やけど…
そう言って立ち上がる…あ、眩暈が…
フラフラと教室から出ようと扉へと向かう。
「付いて行こうか?」
「ううん…平気…」
「でも…」
「ホンマにいけるから…」
付いて来てくれようとする祐巳ちゃんを止めて覚束ない足取りで薔薇の館へと向かった…
…お金、借りればよかったかな…
お腹が空き過ぎて倒れそう…ああ、『空腹で女子高生死亡!』なんてカッコ悪いなぁ…
イチョウの木に片手をついてゼィゼィと息をする。
…生命維持までヤバクなってきた…
「?」
「……志摩子さん…」
「顔色悪いけど…どうかした?」
「…由乃ちゃん…実はお腹が空いて…」
生命の危機を感じていると後ろから声がかかり、やっとの思いで振り返るとそこには志摩子さんと由乃ちゃんが立っていた。
「お腹が空いたって…お昼ご飯は?」
「今…お金が無くて…」
「…何も食べてないの?」
「うん…とりあえず次の時間はサボるから…」
「待って!…えーと、あったあった。お腹の足しになるかは分からないけど…」
「私も、これしかないんだけど」
そう言って由乃ちゃんはミント系のガムを1枚、志摩子さんはクッキーを1枚くれた。
…2人がマリア様に見えるよ…
「ありがと…」
「館に行けば何かあると思うから、それを食べるのよ」
「分かった…じゃあ…」
「気をつけてね」
「ふわーい…」
元気の無い返事をしてから2人に背を向けて歩き出す…体が重い…
は、早く館に行かないと……
「………」
何でアンタがこんな所に居るんだよ…
ソファーが置いてある物置部屋に行くと先客が居た。
それは間抜けな顔をして寝ている全校生徒の憧れ、白薔薇さまこと聖さんだった。
…人の事言えないけど…聖さん、一応受験前なんだから授業に出ようよ…
しかし…彼女を起こさない限りは私の寝るスペースが無い。
…起こすか…
「聖さん…起きてよ…」
「んー…」
んー、じゃないよ。
頼むから寝かせてくれよ…もう限界だから…
強く揺さぶろうとしても空腹のせいで力が入らない。
もう…駄目だ…こうなったら最後の手段…
「お邪魔します…」
ヒョイと聖さんの腕を退けてから彼女の懐に潜り込む。
ひっつかないと落ちるから出来る限り体を密着させてから目を瞑る。
ああ…温い…
そんな事を思いながら私は深い眠りに落ちていく。
…このまま永遠の眠りに付かないことを祈りながらだけど…
「……ちゃん、ちゃん」
「……?」
「、大丈夫?」
誰かの呼び声が聞こえて薄っすらと目を開けると、そこには令ちゃんと祥子お姉ちゃんが心配そうに私を覗いている。
「気持ちよく眠ってる所悪いけど…そろそろ離れて貰ってもいい?」
「あ…ごめん…」
「私としてはこのままでもいいんだけど…あそこで怖ーいお姉さんが睨んでくるから」
「聖!余計な事言わないの!」
「ちゃんが聖に縋るほどお腹を空かせてるなんて…面白いわ」
申し訳なさそうに言う聖さんと、聖さんの言葉に怒鳴る蓉子さん。あとは…面白そうに笑ってる江利子さんまでもが居た。
…ああ、もう放課後か…
ムクリと重い体を起こそうとしたら…クラッときた。
…ヤバイ…貧血…
「おっと!」
「…ありがと…」
「どういたしまして。それより…こんなになるまで我慢してたの?」
「……ごめん…」
滅多に見ない聖さんの厳しい表情に私は体を支えて貰いながら謝る。
彼女が怒るくらいなんだからよっぽど顔色が悪いらしい。
「、これ食べて」
「…令ちゃん…コレ…」
「由乃に聞いたよ。何にも食べてないんだって?とりあえず家庭科室借りてスープ作ったから食べて」
「でも…」
「心配なのよ、皆。元気の無いちゃんは見たくないの」
「祥子お姉ちゃん…」
令ちゃんが目の前に湯気がたっているスープを差し出してくれる。
少し戸惑っているとお姉ちゃんが頭を撫でながら言ってくれた。
チラリと蓉子さんと江利子さんを見るとニッコリ笑って頷く。
「…いただきます…」
「どうぞ」
スプーンを握ってスープを一口だけ掬い、そっと口に運んで…飲んだ。
……久しぶりの食料に胃袋が喜んでるよ…
1度手を付けたら止まらない。私はあっという間にスープを平らげた。
「美味しかった?」
「うん。ありがとう、令ちゃん」
「さて…食べたなら家に帰ろうか?」
「え?でも……うわ!?」
聖さんが急に私の体を抱いて立ち上がった。
急だったし、少し食べたとは言ってもまだまだ体には力が入らないから抵抗する間もない。
っていうか…私の体、持ち上げられるほど軽かったんだ…
「蓉子が晩御飯、作ってくれるって」
「…蓉子さんが?」
「大したモノは作れないけど…食べないよりマシでしょう?」
「……うん」
「話が纏まったところで…行こうか」
「そうね」
それは嬉しい。嬉しいけど…降ろして欲しいなぁ、なんて…
……無理やろうな。この人たち物凄く過保護やし。
そうやって、私は半ば諦めながら聖さんに抱かれたまま運ばれた行った…
「んはー!美味しかった!」
家に着いて直ぐに蓉子さんはご飯を作ってくれた。
何も食べてなかった私の事を考えてくれたのか、メニューは胃に優しくて、尚且つ量の多いモノだった。
満足の行くまで食べて栄養の回りきった体をソファーに沈める。
「これからはあんな事になる前に言いなさい」
「うん」
「私も聖も、皆も…何とかしてくれるから」
「うん…ごめんなさい」
「分かってくれればいいのよ」
優しい笑みを浮かべて蓉子さんは頭を撫でてくれた。
聖さんも笑いながら私の隣に座ってギュッと抱きしめてくる。
「うんうん。元気になってよかった」
「聖さん…」
「私達、今日はこのまま泊まるからね」
「え?」
その言葉に目が点になる。
蓉子さんが反対しないところを見ると、もう決定済みのようだった。
「明日は休みだし、このまま放っておくとまた倒れそうだしね」
「でも…」
「たまにはいいじゃない。明日になれば皆が何かしら食料を持って来てくれるって言ってたからさ」
「………」
…優しいなぁ…
皆の優しさに感動してると、また聖さんに体を抱かれてベッドへと連れて行かれた。
そして、当たり前のように聖さんが隣に寝転び、蓉子さんがその反対側に寝転んだ。
「あの…」
「は体力を回復させるのが先。一緒に寝てあげるから」
「いや…そういう事じゃなくて…」
「大丈夫。途中で帰ったりしないから」
「蓉子さんまで……」
……ま、いっか。
ベッドは大きいから3人で寝ても問題はないし…それにこうやって誰かと一緒に寝るのも久しぶりだ。
父さんや母さんが生きてた時は当たり前だったしね。
私はとりあえず何もしてこなさそうな蓉子さんに体をひっつけて目を閉じた。
…聖さんとは違った温かさに安心する。
次第に瞼が重くなってきて…眠りに入る直前、蓉子さんの優しい声が耳に入る。
「おやすみ…」
お腹が空くのは嫌だけど…誰かの温かさを感じて眠るのは悪くない。
また…こうやって寝たいなぁ。
そう思いながら、私は安心して眠りに落ちた…
FIN。。。『お腹空いた』