「…あのさ、これは何かな?」



現在江利子の家
大学生になって一人暮らしを始めた江利子の家に招待されたのだ
そこで私は何をしているのかって言うと、
何もしてない

上には恋人
下にはソファ


この体勢はどう考えてもマズイ
まだ昼間でさっき私手製の昼ご飯を二人で平らげたばかりだってのに

コイツは昼間から何を考えているんだ?



「見てわからない?」
「わかりませんね」
「あら、じゃあわからせてあげるわ」

そう言って私の顔に覆い被ってくる

慌ててその肩を押しのけて、抵抗した




「じゃあなくてっ!何でこうなるかってんだ!」



お昼ご飯を食べた後、ソファで二人で寛いでいたら何か眠くなったんだっけ
私は睡眠欲と食欲で生きているようなもんだから
間違っても性欲で生きているようなこの狼とは違う
断じて違う

いつもそうだ
家に行くと何か芸をやれとか言われて、
無論断るとこうして強行手段にてSEXに及ぶ
私としてはもう少し雰囲気を大事にして欲しいんだけどね
ロマンなんて求めてはいないけどせめて昼間から襲ってくるソレはどうにかして欲しい





「だってつまらないんだもの」



「つまらないからってお前はこんな事してんのか!!!」
も好きでしょ」
「好きじゃねぇよ!特に暇つぶしでする時は最悪だ」


女の癖に女心がわからない女だ、この人は
普通に暇つぶしと言った
ありえなくない?
普通男が女にそんな事言ったら一生末裔まで恨まれるに決まってる
まぁ、女同士や男同士でも同じだろうけど


とにかく江利子を押しのけて倒れていた体勢からソファに座りなおす

不満そうな顔はもう無視して、携帯に手を伸ばした


不思議そうな顔になった江利子の前で私はある人へ電話をする事にしたのだ



「蓉子〜!?助けて!江利子に犯される」


「…………


「……うん、うん、お願い、んじゃ、後で」


「……………」



ピポパピピポパッ



「聖!!助けて!江利子に殺される」



「………いや、殺しはしないわよ」



「…うん、そう、ありがとう、すぐね、じゃ待ってる」




ピッ





私は携帯を切ってベッドに投げつけると、
立ち上がってキッチンへ向かった

江利子がそれを追う

「呼んだの?二人」
「そ」
「…何故」
「このまま二人きりだったら何されるかわからないじゃない」
、甘いわね。私が邪魔が入って素直に止める太刀じゃないの知らなかった?」


「………………っ嘘、ぎゃぁぁ〜〜〜っっっ!!!」



そう言ってキッチンでまた覆い被さって来る
一応有段者なんだから技を使えば逃げる事はできるけど、
それを江利子に使ったら師匠でもある幼馴染の令に何を言われるかわからない

前にシツコイ三薔薇相手に使おうとしたら怒られ、その挙句の果て正座5時間させられた




だから、

つまり、


あれだ




私は自分の身を守る手段が無いと…













「「何やってんの(よ)!!!!!」」



あぁ、天の助けとはこの事か

後少しで上半身を全部剥かれるって所で救世主が現れた




二人は江利子から私を引き剥がす


聖は江利子を抑えており、

蓉子は私を抱き上げてくれた







「大丈夫?
「ふぇぇ〜っ、怖かったよ、蓉子ぉ…」

マリア様のような蓉子に抱きつくと少しマジで涙目になってた顔を押し付ける


から大体は聞いていたけどまさかここまでとは思わなかったよ」
「だって可愛いんだもの、聖だって絶対我慢できないわよ」
「それは反論できないけど」


「できねぇのかよ!!!」




思わず体質なのか、ツッこんでしまう
「蓉子は好き〜、あの二人とは違って野暮な事しないもんね」
蓉子の肩に顎を乗せて甘えるように更に強く抱きつくと、
とんでもない言葉が聞こえた

「蓉子だって人間なんだから性欲あるわよ?」




「……江利子」
「…………………」


私は、さりげなぁく、そう、さりげなぁぁく蓉子から離れる
蓉子には悪いけど、江利子の言うことも一理あるわな






「あなたねぇ、真に受けちゃったじゃないの…」
「まぁまぁ、とにかく適当にアルコール買って来たから飲もうよ」

そう言って一行をキッチンからリビングへ押し出す聖の腕にはビニール袋が掲げられていた
本当に適当だったらしく、いろんな種類のお酒がそこには入っている
それを全て机の上に並べながら、私は三人のやり取りを尻目に見ていた


「江利子も昼間っから節操なしだと思わないの?」
そうだそうだ、もっと言ってやれ、蓉子

「別に、昼だろうが夜だろうがしたい時にするわ」

よくそんな恥ずかしい事真顔で言えるな、おい

「そこにちゃんの判断は含まれて無い訳?」

論点はそこだと思う
あなたは正しい、聖






「無いわ」

即答…
もういっその事この缶ビールで広いデコを叩き割ってやろうか・・・・



「何でそうなるのよ?にも人権ってものはあるのよ」
人権…程遠いな、この人と居ると

「そりゃ蓉子や聖がこんな事したら人権に問われるわね」
………?
「江利子はどうなのさ?」
うんうん
「私はいいのよ、恋人なんだから」



…………江利子サン、理不尽だよそりゃ





全て並び終わった缶の中から適当に1つ選んでそれを開けながら江利子は言った




「恋人って事はお互い肯定している訳じゃない?だから別にSEXに及ぼうと問題は無いはずよ」


「ぐっ……」
「…確かにそうね」


あ〜あ、珍しくこの二人が言いくるめられちゃったよ
2、3個入ってたツマミの袋を開けながら私はジトリと頼りない二人を睨む
苦笑いしながら肩を竦めてみせる二人の手にも缶が握られた

「親しき仲にも礼儀ありって言わない?」




「あら」
「へぇ」
「おぉ」


……何だよ、その反応は



「良く知ってるわね、そんな言葉」

江利子の一言にムカッと来る
いくら勉強嫌いでもそのくらいは知ってるわ!
そう怒鳴りながら私も空いている江利子の隣に座りながら缶の山から1つ手にする


「じゃ、意味を言ってごらんなさい」
丁度タブを起こそうとしている時にその缶は江利子の手からお酒の山に戻された

少し苛つく
それでもめげずに別の缶を手に取る


「そのまんまの意味」

「だから具体的に言ってごらん」
今度は向かいに座る聖の手によってそれは奪われた
更に苛つく


ここまで来られると引けないのが人間てものだ
次は比較的自分の近くにあった缶を手にする
取るなよ、という念押しの視線を三人に投げかけて、
そんな様子はないとわかりそのタブを開けた
もう本当に邪魔するものはいないと安堵した私はそれを口元に運びながら言う


「いくら仲の良い者同士でもやっていい事といけない事があるって事でしょ」
「そう、その通りよ、判りやすい例えだわ」


…ぐっ……、今度は蓉子にまで奪われた
しかもあとちょっとで飲めるという快楽を奪われた


堪忍袋の緒が切れた私は立ち上がって3つ缶を腕に抱えてソファまで即行した
これであの三人とは3メートルは離れた
もうさすがにわざわざ没収しに来ないだろう




「これでも一応学年主席なんで!」




今度こそ飲める!と逸る気持ちで缶を開ける
が、考えは甘かった
あろう事がなしに三人とも席を立って、こっちへやって来た
それぞれの飲みかけの缶を手にして
聖なんて空いている片手でツマミを持って

どう見てもこちらで飲み明かしましょうって気満々じゃないですか!




私はできるだけ三人から離れるようにソファの最端に寄った





「は〜い、君は飲んじゃダメでしょ」

そう言いながら私の手からまたもや奪われる
三人がそれぞれの定位置に納まったという事は、横には聖が座る訳だ
ついでに向かいには江利子、ソファにもたれるように床に座るのは蓉子



「何でっ!?さっきからヒドイよ!私だけ!!」




もう堪えきれなくなった私は三人に向かって叫んだ
私から奪った缶を飲みながら聖が困ったように笑う

「だって、前に悪酔いしたじゃない」
「前?」
「そう、新旧山百合会の同窓会でとんでもないことになっちゃったでしょう?」
「…あぁ、この間?そういや途中からの記憶がないんだけどな」
「それにしても面白かったわ、あんななかなか見れないしね」
「……え?私何したの?」


それぞれの口から漏れる言葉に私はだんだん青ざめる
悲惨、とでも言うような顔をする三人…いや一人は面白そうな顔だけど
そんな雰囲気からして相当なものだったんだろう
それにしても覚えてない……


「あなたって酔うと誰かれ構わず襲うのね」




「……………………………………はい?」





私がですか?
誰かれ構わず?

襲う!!!!????




「嘘っ!!!」

「嘘じゃないわよ、まだこれ消えないのよ」
そう言いながら鎖骨を見せる蓉子
そこには多少薄くはなっているがハッキリ見てわかるキスマークというもの
「私は胸触られたねぇ」
遠い目をして語る聖

嘘……

「……ちなみに江利子サンにも何かしたんでしょうかね?」



恐る恐る訪ねると、江利子はニッコリと気味の悪い笑顔を浮かべた


「ええ、したわよ、公衆面前でディープキス」





「えええええぇぇぇぇぇぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!!!????」







あ、頭が痛い…







「マジで…」
ソファの肘掛にうもたれながら私は泣きそうになってくる目尻を押さえる

「あ、でも安心して。事に及ぶ前には令が鳩尾で気失わせてくれたから」




「さいでっか」


もうあまりフォローになってない聖の言葉に気の抜けた返事をした
だから最近まで腹が痛かったんだ…
覚えもない痣があった
まぁ、また江利子の変態プレイで何か知らないうちにやられてたのかと思ってたけど

……令ちゃんか




「だから、あなたは飲酒は禁止よ。もちろん外でもね」
「う〜っ…、でも家の中でぐらいならいいんじゃない?」

蓉子に釘を刺されて、奈落の底に突き落とされた私は僅かな望みだけ問うてみる
すると向かいから腰を引き寄せられた
「え、江利子?」
顔が非常に近い場所で江利子の顔は笑みでいっぱいだった
まさか二人がいる場所でまた事に及ぶとは思わないけど

「私と二人きりの時は飲んでもいいわよ」





つまり、それは襲えってことか!!!





「嫌だ!!!!!!!」


こうして私は禁酒を心がけた

でも懲りずに飲んでしまって気付いた時には二日酔いの頭を抱えながら激しく後悔するだけだった


何故なら周りにはどう見ても私が江利子を襲った形跡がありまくりだったから……




「こういうのもたまにはいいわね」




くっ、この笑顔が憎たらしい
隣でシーツに包まりながら楽しそうに笑っていた江利子をジトリと睨んでやった

でも何だかどうでも良くなって顔にかかっている髪を掻き分ける
そして現れた、彼女が一番気にしている額に口付けた

擽ったそうに身を捩る江利子を抱き寄せると、お互いの額を当てて至近距離で微笑み合う








恋人は羊の皮を被った美しい狼




でも好きなんだ
こうやって普段はつまらなさそうな顔が私といると笑ってくれるのが


私は一度、江利子の唇に口付けを落とした







fin