乱菊って、太陽みたいだよね








そう言ってくれたのは、

それと対称的に輝く美しい月みたいな彼女だった





夜がとても映える、

暗闇の中ですぐに見つけ出せる、


心細い闇の中でいつも側に居てくれるから









月の方が好き





























「う〜ん……」





「…、アンタ人の職場で何やってるの」





正確に言えば隊長の席だけど、

そこでは腕を組んで何かを必死の形相で見ていた



ここには誰も居ないはずなのに、

彼女が居てかなり驚いたのは言う間でもない




隊長の机の上にあった頼まれた資料を取るついでにその何かを覗く







「……図鑑?」



それはたくさんの花の写真が彩られたものだった

一言口から出てしまった私を、は見上げてただ「うん」と頷いた





この子花なんか興味あったっけ?




自分の恋人ながらも彼女の性格は理解はしているつもりだ



その中の1つ




美しいもの、可愛いもの

特に目を惹かれるだろうものには




全く興味がない






いつも人の内面を見ているから、

だから外面だけで物を言う人間では無いから




確か桃が前に桜を見て「綺麗だね」と言ったのに対して


はちらりと一瞥をくれてやっただけだった







無視されて泣きそうになった桃は隊長がフォローしていたけど


それでもは桜に興味を示さなかったくらいだから










「ん〜、正確には花言葉図鑑」



「花言葉?」






そう聞き返すと、は図鑑を持ち上げて机の前にある大きめのソファへ腰を下ろした

私もその隣に座って未だに目を離していない図鑑を眺める



確かに、それぞれの花の写真の下にその名前と花言葉らしきものが正確につづられていた








「うん。菊って何だろうなぁって思って」




「…菊?」






何でまた…と言うとは苦笑いをして私に目を向ける









「乱菊の菊」











「……ああ、そういう事…」











私が納得したのを見届けてからは再び図鑑へと目をやった





「乱菊だなんて珍しい名前だからさ、どんな意味なんだろうってさっき歩いてたらふと思った」







そりゃまた突然な…











の頭を抱き寄せて、白い髪に指を透しながら訪ねる








「で?どんな意味だって?」






図鑑を手放さないまま私の膝に背中を預けるは、


未だに唸っているだけだった








「そんなに納得いかないものだったの?」









「納得できないっちゃできない、……うん、変だもんコレ」







名前を変だなんて言われたら誰だって落ち込むと思うわよ?



それに変わった名前を持ち得ているのなんて私だけじゃないんだし









「…清浄、または高潔………」



「あら、ピッタリじゃない」




「……昼間から酒瓶を手にしている年頃の女が?ピッタリ?」






軽く頭を叩いてやると、ケラケラと笑い始めた


ようやっと図鑑を机の上に戻して腕枕を組む






「そんでさ、菊の前に乱があるじゃん」




「ええ、そうね」









「だからさぁ、つまり正反対の意味なんだよ、乱れると高潔って…」












あぁ、なるほど



それでずっと唸っていた訳だ


その意味が腑に落ちなくて








「どっちなんだろうなぁ…」




「ふふっ、響きじゃない?響きで名付ける親なんてざらに居るし」





「ふ〜ん…そういうもんなのかな」





「そういうもんよ」












白い髪から覗く白い肌に吸い寄せられるように額に口付けながら、

小さい子どものように納得いかない顔をしているを宥めた




案の定考えるのを止めたらしいは寝返りをうって私の顔が見える位置に横になる










「前に私の事太陽みたいって言ってくれたじゃない?」



「…言ったっけ?」




「言ったわよ、…それで私は対称に思ったの」







「何を?」









「貴方は月みたい、って」










「……そうかな」









「ええ、真っ暗な闇の中で私達の支えとなるのは月だけなのよ」














そこまで言うと、


そっと唇に感触を覚えた





少しして気付いたことだけど、が頭を持ち上げてキスをしていた












そして、







ゆっくりと離れながら微笑む





の唇からは、










たった一言紡がれた















「月は太陽に照らされて輝いているだけだよ、太陽がなきゃ生きてけないんだ」






















何を言っているのかしら、この子は








皆が貴方の光を求めて彷徨っているというのに…













1人きりでは暗闇は不安で



常に誰かを探しているけど




それでも誰も居ない時は











皆空を見上げるのよ
















貴方がいつもそこで微笑んで優しく存在していてくれるから、









だから皆も笑顔になる











それまで渦巻いていた不安も何処かに吹き飛んで
















全ての思いを告げるために








私はもう一度愛しい恋人に口付けを落とす

















太陽と月







対称となるものだけど




一心同体なのよ、あの星達は…






















fin