…困った







否、困ったのは今に限った事じゃないけれど――――
















よし、此処は心を鬼にしてやるしかないか!


という訳で支倉 令出陣します





















〜、ご飯出来たよ。食べよう」



「うぃ〜…」



「その返事親父臭いよ」








苦笑しながら助言しても、
目標は我関せず顔で頭を掻きながらソファから立ち上がり硝子張りのダイニングテーブルに着いた


さり気無く例のブツを目標の前に並べていく




テレビを見ながら眠くなっていたのか、眠たそうだった顔が食卓に並べられていく料理を見るにつれ輝いてきた


料理をする人としてはこういう素直な反応をしてくれる人が居るというのは心底嬉しいものだ











「いっただきま〜す」








語尾に音符でも付きそうな勢いの満面の笑みで早速料理達に手を伸ばす…



ちょっ!!









「ちょっと待って!!!箸!箸使おうよ!?」







その手首を掴みながら叫ぶと、は迷惑そうに眉間に皺を寄せる

そして小さく舌打ちをしてから何処かにあったフォークを手にした




再びその手首を掴む














「お・は・し!!箸!!!」







「…うるせぇババアだな」












聞き捨てならん事を聞いた

そうかそうか




ババアね


そのババアと1歳しか違わない君はオバサン辺りか?












「あ、そ。じゃあ食べなくていい」






が手を伸ばしていた辺りにあったのは、必ずご飯の時に真っ先に手をつける物があった


大好物のひじき


…何でひじきが大好物なのかは果てしなく謎だけど健康に良いんだからいっか





とにかく、それが盛り付けてあったお皿をの手から遠避ける








「あっ……判ったよ、使うから。返して」



「返して、じゃなくて」



「すみません、食べさせてください。令ちゃんの作るひじきが1番好きなんです」



「よし」









そのお皿を再び手の届く範囲に戻してあげるとパッと顔を輝せる



そんな光景に微笑んでしまいながらも、

やっぱりフォークを使わせてあげてしまう処は私はこの子に甘いんだろうか











「ご飯食べ終わったら練習しよっか、箸の使い方」



「…嫌だ、苛々する」



「慣れれば大丈夫だよ、他所のお宅に行った時に使えないなんて恥ずかしくて言えないよ?」



「……清ちゃんはいつもフォークとスプーンを常備してくれるもん」



「それは祥子の家に行った時だけでしょ、清子小母さまはに甘いんだから」










甘いのは私もだけど…でも恋人だから良いよね?

あ、そんな事言ったら清子小母さまはの母親代わりなんだから良いんだっていう筋になるか








「もう〜、いいじゃん。食べさせてよぉ」



「はいはい、召し上がれ」



「いただきまぁす…」









とうとう懇願する目つきで見上げてくるに、

私は微笑んで食事の開始を促す




すると嬉々として他の料理達にも手をつけていく






…勝負はこれからだ










何の勝負かと言うと、

ずばり"にピーマンを食べさせよう作戦"なのだ

これはギャンブルと同じくらいの賭けだから




今まで幾ら判らないようにしても嫌いなものの入っている料理に必ずは手をつけなかった


食べたら食後にアイスをあげる、と物で釣ってみても絶対無理だった








あ!






とうとうのフォークがピーマンをこれでもかって云うくらいに微塵切りにして、

匂いを消すためにあれこれ加えて

無いと思うけど一応苦味を消すためにあれこれと加えて



…ぶっちゃけ会心の出来の1品







よし!

フォークに刺して、顔の前にまで持ってくる所までは行った








犬みたいに用心して匂いを嗅ぐ…これも何とかクリアしたようだ








それが口に運ばれる……じっと見てたら変に思われるかもしれないから味噌汁を飲みながら盗み見る事にした

























「……げろっ」





















っっ!!!!!!!!!!!!!!!!



















吐いた!!


今まで誰にもやられた事の無い事をっ!






由乃にでさえ嫌いなものを食べさせるために努力して、美味しいと言って食べて貰えた程の腕前の私が!








噛みもせずにたった今しがた口の中に放り投げられたものが皿の上に落ちる



何か…ヘコむ

自信喪失
















「…おぇ」




「『おぇ』って…」




「あれ程入れるなって言ったのに、この男女野郎」









麦茶で口内の味を消しながらが睨んでくる

私は同じ料理を食べてみるけれど、
これに本当にピーマンが入っているのか信じられない程全く味なんてしない

匂いも感触ももちろん


美味しいのに…










「ん〜、美味しいのになぁ。何で判ったの?」



「…入れるなっつぅの、どんなに誤魔化しても駄目だよ」



「でもさ、少しは食べないと身体に悪いよ?」



「大丈夫、食べなくても今日まで生きて来たんだから」



「そういう問題じゃなくて」













もう1度ひじきをもぐもぐ頬張りながら言うの言葉に私は苦笑する

ある意味由乃よりも手の焼ける子だな




こうなったら…おねだり作戦か















「ねぇ、ちゃん。お願いだから食べてみて?もしかしたら美味しいかもしれないよ」




「断る」












一刀両断

少しは考えてくれてもいいのに







次の作戦

所謂プランCといったところか











「食べな、我侭言わないの」



「突然態度変えるの止めたら?馬鹿みたい」











くっ


馬鹿みたいとまで言われた




もうこうなったらヤケクソだっ
















「じゃあ食べないなら食べるまで夜の営みは無しだね」



「…は?」



「悪いけど望む事ばかり叶えてあげられないよ、嫌な事も多少は我慢しないと」



「多少じゃないんだって、私にとっては」



「それは個人の問題だから個人で問題の大きさなんて違うのかもしれないけどね…あ、言っとくけどキスも無しだから」



「ちょっ、令ちゃん…」



「じゃ、そういう事で」












我ながらとんでもなく恥ずかしい事を言っているのは判ってる

目の前で口を開けて呆気に取られているを見れば嫌でも判るけれど…


こうでもしないと食べてくれないじゃない?







しばらく1人で食事を進めていると、


深く吐くため息が聞こえた

















「判ったよ、食べるから…」




「…………」




「ほら、令ちゃん。食べるから」









返事もしない私を、本当に怒っているのだと判断したのか

小さな子どもみたいに先程吐き出したとはいえ噛んでも居ないお陰で全く形の崩れていないそれをフォークで目の前に持ってく



黙ったままその様子を見ていたら、

逃げられないと観念したらしく
勢い良く口の中に放り投げた












「んぐっ」




「…不味い?」




「んぐ…んぐ、んぐ。…否、大丈夫。美味しい」









とはいえ涙目なんだけどなぁ



其処まで嫌いなものを頑張って食べてくれている様子に

先程までの意味の判らない怒りなんて消え失せていた








とうとう最後まで飲み干したを見て、私は感激したあまりにその頭をくしゃくしゃと撫でてあげていた












「うぅ…これでキスしてくれる?」


「うん!もちろん、良く頑張ったね〜。偉い偉い」


「……その、令ちゃん曰く夜の営みも?」


「え?………まぁ、…うん」












それだけ頷いてから、


私は身を乗り出してその唇に軽くキスを落とした





照れたようにはにかむを見て

やっぱり大好きだなぁ、と改めて思う





















隊長!!



やりました!



任務完了です






…隊長って誰だろ


お姉さまじゃないし、祥子でも無い




あ、蓉子さまだ





うん、きっとそうだ






































「にしても夜の営みは無いんじゃない?何処の漫画の世界だよ」





「少女趣味で悪かったね」































fin