「ルキア」




「ん?何だ?」












今日の尸魂界はいつになく快晴だった

庭でまったりとしていた恋人に声を掛けると、ルキアも今日の天気が嬉しいのか


何処かしら嬉しそうに振り向いてくる





久しぶりに見た子どもっぽい笑顔を見て、やっぱり可愛いなぁとか思ってしまう


















「墓参り、行かない?」


















私の言葉にルキアは私の手を見る

そして其処に握られている花束を見ると静かに微笑みながら頷く
























「もうさぁ、何年経ったんだろうね」



「さぁな、死んでから数えた事はない」












流魂街を歩きながらルキアと会話を交わす

それだけなのに嬉しくて幸せな気持ちになる



瀞霊廷の死神が通る事自体珍しいのか、街の人々は建物の影に隠れて様子を窺がってる








けれど街はやっぱり人々はボロボロの服を着ていて、

子ども達は高級な成りをしている私達に物欲しそうな顔をして近づいてくる



ルキアは優しいから、懐に入れて置いた金平糖をあげていた

私はその後ろでその様子を眺めながら再び口を開く










「そのために準備しといたの?」


「無論だ、金平糖だなんて私は此処にいる時は食べた事も見た事も無かったからな」


「まぁね、でも丁寧に1人分ずつ紙に包んであげるなんてルキアぐらいじゃない」


「少しでも美味しいもの食べさせてあげたいではないか」


「ルキアは優しい」


「お前こそお菓子をあげている時があるだろう、こっそりと瀞霊廷を抜け出して」


「……バレた?」














包みを受け取ると嬉しそうに離れていく子ども達の顔を見ると、

やっぱり子どもなんだな、って思う



美味しい物が食べたいし

お菓子も食べたいし

でもお腹いっぱい食べたいだろう





私達もそうだった











恋次とルキアと私


何時もツルんでた






1人で苦労して盗み出した握り飯を1人で食べる事などせずに、

ちゃんと仲間同士で分け合っていた


そのせいで自分の取り分は親指の先くらいしか無くなっても





其れでも、私達は互いを大切にしていた…










けれど大切な仲間達は段々消えていった



私達は其れを判って居ながらも、もう既に暗黙の了解となっていて









大切な仲間の死に慣れる自分が嫌で嫌で仕方なかった――――
























「ほれ、酒。お前等飲んだ事ないだろ、特別に分けてやる」
















瀞霊廷の中のように立派な物じゃなく、

只木を供えてあるだけのみすぼらしい幾つかの墓に持ってきた酒をぶっ掛ける






とくとくと流れていく其れを見ながら、散っていった昔の仲間達との思い出を掘り返す




手を合わせて目を瞑り、何やら祈っているルキアの顔を盗み見る











コイツ等と恋次と、ルキアの取り合いをしたの今となっては良い思い出かもしれない


















『何やってんの、こそこそと』


『げっ、。テメェこそ邪魔すんじゃねぇよ』


『あん?邪魔だと?誰に物言ってんだ、此の悪人面』


『うるせぇ!生まれつきなんだよ、文句あっか!!』


『で、何をこそこそ喋ってたのかな?此のさまに喋ってみなさい』


『ちっ…ルキアには内緒だぞ。あのな…』


『あ?誰がルキアを嫁にするか?』


『声でけぇよ!!』


『阿呆かおめぇら。決まってんだろ、んなもん私だ』


『…阿呆はおめぇだ。女同士で結婚できる訳ねぇだろ』


『じゃあ聞いてみろよ、ルキアに。此の中で誰が1番好きか』


『ぐっ……』


『間違いなく私って言うのはおめぇらも判ってんだろ?じゃあ無駄な妄想は止めてさっさと食料調達して来い』

















子どもの頃はあんなに自信満々に言っていた自分が凄い



でもあの頃は本気でそう思っていた

ルキアは私が好きなんだと
私もルキアが好きなんだと



だから2人は結婚するんだ、と









でも大人になるにつれ判った



死神になってから、判った

どんなに好き合っていても決して一緒になる事は出来ない




以前真剣に乱菊さんと七緒さんに相談したら笑われた
















だから、恋次に任せると告げて別れようと言った時


ルキアは言ってくれた









世界中で1番が好きだ、と



が居ないと生きていけない

寂しくて不安で生きていけない


何時から私はこんなに弱くなったんだろうな、と







そう言ってくれて、涙が出る程に嬉しくて



嬉しくて、嬉しかった























?何を考えているのだ」



「ん〜?あぁ、昔こいつ等と話した事」



「そういえばお前等はいつも私に隠れて何か話していたな、今ならもう教えてくれても良いだろう」



「…そうだね、ルキアには言わないって約束ももう時効だな。教えてあげよう、こっそりと」



「何だ勿体ぶってないで早く教えろ」



「誰が我等の姫をゲット出来るか話してたのさ」



「姫?そんな女居たか?」



「………君だよ、君。我等の姫もといアイドルのルキア嬢」



「私かっ!?…其れでいつも誰が私モノに出来るという結果になったのだ?」



「もっちろん私〜。皆承認の上で私が勝ち続けてたよ」












なっ、と微笑むと彼等が無邪気に『うん!』と微笑む姿が見えるようだった


そして、ルキアが隣に立つのが気配で判る

腕にそっと腕が回され、寄り添ってくる


















「無論だ、昔も、今もこうして傍に居るのはお前じゃないか」



「其れを聞けて安心だ」



「お前が死神になって私達の元から一足先に去っていってしまった時は泣いたんだぞ、生まれて初めて」



「其れは初耳」



「だから私も死神になろうと思った、お前に会うために。…何で私達の元を去った?」



「…早く皆に美味しいご飯を食べさせてやりたかった、死神になれば其れが叶うと思ったんだ」



「……馬鹿だな、私と恋次はもうお前と対等の場所に居るぞ」



「そうなんだよね〜、握り飯沢山持って此処に来たら誰も居ないんだもん。聞けば2人とも死神になったっていうし」






















、貴様は……何時も人の事ばかり考えているな」







「否、そうでもないよ。ルキアの事しか考えてない」


















ルキアの綺麗な唇に唇を重ねる


目を閉じて受け入れてくれるのが嬉しかった









けれど昔の仲間達の墓標を前に行為を進める事は出来ない


だから、頭角を現し始めた自らの欲望を抑えてルキアの肩を抱き育ってきた流魂街を見下ろす





遠くには瀞霊廷が見える
























「何かあったら私に言えよ、守ってやるから」




「もうお前に守られる程ヤワじゃないがな、でもどうしても辛くなったらお前に言う」




「うん…それでいい」






























小さい頃交わしたささやかな約束


もうルキアは覚えてないかもしれない










でも私はその日を境目に、ルキアを愛しいと思えるようになったんだ



汚い街を共に生きる只の溝鼠仲間じゃなくて、

1人の女の子として見られるようになったんだ―――






























『ルキア、お前何か最近痩せてきてないか』

『気のせいだ、それよりさっさと食料調達に行くぞ』

『…やっぱり』

『なっ、何だ?』

『皆に食料を分配し過ぎて自分の取り分が無いんだろ』

『…それは違う、女の子より男の子の方が沢山食べるしあれだけでは足りないと思ってな』

『はぁ…あのな、幾ら男より食わないとはいえ全く食べなかったら身体が持たないじゃないか』

『……仕方ないだろう、少ないんだ。食料が』

『仕方なくなんかねぇよ…判った、私がもっと沢山食べさせてやる。ルキア、お前の腹が膨れるくらいに食べさせてやる』

『無理だ、其れは。何をする気だ?盗むにしても元々この地域には盗む物さえ無いぞ』

『大丈夫、沢山ある所から調達してきてやる。だから少しの間だけ待ってて』

!待て、貴様は…恐らく私以上に食べてないんだろう?』

『大丈夫大丈夫、私は草食系なんだ。雑草でも食えば凌げる』

『なっ…』

『安心して、ルキア。君は私が守るよ』






































fin