「こんな猫被りの何処が良いんだか」


「全くもって同感だ」


「ねぇ、ストロベリー。お前もあの猫被りに想いを寄せてたりする?」


「ストロベリー言うな、テメェ!…んな命知らずな事しねぇよ」


「それは賢明だ、ストロベリー」


「ぐっ…」













とある晴れた陽気な日の事

仲が良いのか悪いのは半信半疑である2人が弁当箱を広げながら教室の窓際でそんな会話を繰り広げていた



その様子をキャラの強い友人達が温かい眼差しで見守っている










「織姫、其れちょっと頂戴」

「えっ、ちゃん此れ食べたいの?」

「…アンタ意外とチャレンジャーだよね」

「そんなチャレンジャーなアンタが好き!!どう?!今日の放課後辺りに体育館で一発!!」

「死にさらせ!!!!」









織姫の今日も得体のしれない昼食には手をさし伸ばして催促する

そんな彼女を見て織姫の親友であるたつきが苦笑しながら感想を述べると、
懲りもせずに昼間っから破廉恥な言葉を連発する千鶴にたつきの正義の拳が降りかかった



相変わらずな2人の友人を見ながらと織姫は顔を見合わせて笑う

ストロベリーこと一護も茶渡と呆れた目で幼馴染を見ていた






其処に違うクラスの男子から呼び出しを喰らっていた我等姫ことルキアが戻ってくる
















「おかえり、ミス猫被り」

「よぉ、ミス猫被り」

「おかえりっ、朽木さん!!」








、一護、織姫の順番にそれぞれの迎えの言葉を投げかけると

ルキアはわざとらしく頬に手を当てて高らかに笑う









「皆様、お待たせしてしまって申し訳ありません。何処かの脳みその足りない馬鹿2人の言葉に刺々しさを感じますけど気にしない事にしますわ」


「気色悪」







ゴスッ










ボソリと呟いた悪友兼恋人であるの足を遠慮無く踏みつけながらも、
ルキアの顔は笑みを絶やさずにの座っていた席に座る

当のは恋人の余りにも遠慮の無い攻撃に呻きながら床を転げまわっていた

そして女子軍と談笑を交わす彼女を見て、
傍らで心優しき男子軍はに救いの手を伸ばす








「だ、大丈夫か…


「む…、郷に入って郷に従えという言葉が、ある」


「あり、がと…ストロベリー、タイガー」


「ストロベリー言うな!!可愛いじゃねぇかよ、その名前!あぁ?めっちゃ可愛いじゃねぇか!!」


「とにかく、…起きろ。汚れる」







は心底痛いのか、呻きながらも減らず口を叩く
けれど茶渡の方はその愛称を気に入っているらしく、何も言わずにその身体を抱き起こす


軽々と片手で掴まれて宙に持ち上げられたは何故か急に笑い出して喜ぶ


そんな彼女を談笑していた女子軍も言葉を止めて見上げる











「あははははっ」


「…な、何を笑っておるのだ。貴様は、不気味だぞ」


「あっはっはっはっはっはっ」


「怖ぇから止めろ、その意味不明な笑い」


「うはははは〜」


ちゃん、どうしちゃったの!?」


「げひゃひゃひゃ」


「織姫の餡子入りメロンパンが中ったか?」


「だぁ〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!!」


「ぬっ…ど、どうした……」












ルキア、一護、織姫、たつき、茶渡が声をかけるものの

はただ腰を持ち上げられたまま高笑いをし、とうとう最後には叫びだした




教室中が何事かと目を見張るが、
は茶渡の腕を掴み返してその上を一周し、身軽に床に着陸する

それはまるで体操の鉄棒のように、身軽な事この上ない













『……っおぉ〜〜っ…』















クラスメート達から感嘆の声が上がる中、

は胸を張って思いっきりVサインをしてみせた




しかしその笑顔はすぐに消え、一護の胸倉を掴む














「てめぇっ!!私はああやって持ち上げられるのは嫌いなんだよ!」


「いやっ、俺じゃねぇし!!」


「あれはな、あの総隊長のジジイに良くやられてて…っ怒られていた記憶が蘇って駄目なんだ!!」


「だから俺じゃねぇし!っていうかお前あの爺さんに怒られたりしてたのか?」


「…っああ、護廷十三隊に入ったばかりの頃良く悪さして……」


「何をやらかしたのだ、貴様は…」










理不尽な怒りを突きつけられて冷や汗をかきながら怒鳴り返す一護を他所に、
蒼白な顔で項垂れるの顔をルキアは覗き込んで怪訝そうな顔を見せる

するとは突如ルキアの手を握り、迫る









「お前にっ…会いたい一心で白哉に夜な夜な奇襲を掛けていた」


「……貴様は本当にろくな事をせぬな」


「ルキア、君にはこの身も心も全て捧げる。だから…」


「とにかく離せ、よくそんな歯の浮くような台詞を言えるものだ」


「だから他の男共に呼ばれても行っちゃ駄目だ!!無論女も駄目だ、本匠は特に駄目だ!」


「…其れは妬きもちか?」


「そう」




















「熱い、離れろ」







真剣な眼差しでルキアを口説くと、
そんな恋人に不覚にもトキめいてしまったルキアの身体を一護の腕が引き剥がす












が、引き剥がされてすぐさまは一護の脇に蹴りを入れる





が、尸魂界で幾度ものの激戦を繰り広げた一護もそう簡単にやられる筈もなく寸のところで交わす






が、あの俊神の夜一と同等の、そして十番隊隊長である冬獅朗の姉であるの実力はそんな一護をも捕らえて離さない












そのまま交わされた蹴りを軸として反対側の足を上げて顔面にクリーンヒットする








ドゴッ











「がっっ!!!!???」
















華麗に飛び降りたを、友人達が拍手で迎える









「ったく、此れだから餓鬼は。場の空気というものを読めていないんだ」


「ってぇ〜〜〜っ!?っ俺はその場の空気を読み取ってこの教室の奴等のためにそれを制してやったんだぞ!!!?」


「あぁ?テメェが私に歯向かうなんざ1000年早ぇ」


「そうだな、一護。貴様では到底叶う相手ではないぞ、は」


「なっ、お前等こそ子どもじゃねぇかよ!!」


「誰が?」


「誰がだ?」













160歳以上と、

150歳以上の、




2人に見下ろされて15歳の一護は言葉を詰まらせる













事情を知っている織姫と茶渡、そして教室の隅から眼鏡を光らせて観察していた雨竜の唇の端が上がった


仲間外れにされて何やら騒いでいる啓吾と鋭いツッコミをしていた水色が雨竜の珍しい姿に目をシバシバさせる















「……あ、虚だ」


「む?…今更伝達が来たぞ、相変わらずお前は虚の気配を読むのが早いな」


「よし、じゃあ俺が…」


「ストロベリー、お前は昼飯を食ってろ。ルキアもだ。私と乱菊で行ってくる」


「あ?乱菊さん?」









一護が眉間の皺を増やして訊ね返すと、
は窓の外に植えつけられている大きな木を指す

其処には乱菊が現世用の際どい服を着て立っていた













「お前等は学生なんだ、本分である勉強に励んでなさぁい」


「あっ、!貴様逃げる気だろう!?」


「もちろん、英語嫌いなの。ばいちゃ」


「待て!!!」














尸魂界に有るまじき軽い口調で窓から飛び出し、
乱菊と手を打ち合わせるとひらりと大きな木から飛び降り校庭から外へ向かって走っていく



ルキアは捕まえようと伸ばした手を窓の淵にかけ、項垂れた




もうクラスメート達やたつき、本匠、啓吾、水色は奇想天外な出来事に慣れてしまった傾向があるらしく何事も無かったかのように昼食を再開している























「あいつの軽率さにはほとほと呆れるわ…」


「まぁ、今更どうのこうの言っても仕方ねぇんじゃねぇか。そのお陰で俺は平穏な学生をやれるんだし」


「そうだね〜、ちゃんと乱菊さんや尸魂界の皆が来てくれてから私達は楽させて貰ってるよね!」


「感謝、するべきだ」


「あのな、一護、織姫、茶渡。貴様らはそうは言うが…あいつは単に此方の世界の勉学をサボりたいだけだ」


「でもあいつ成績は良いんだから別に良いんじゃねぇか?」















一護の言葉をバック音に、

もう姿の見えない死神2人の姿を求めて窓の外に向けた目を青空に向ける




空は快晴

雲ひとつない








けれど遠くの方に黒い雲が見えていた――――


























ルキアの心のざわめきに比例して、夕方になると街は暗雲が立ち込めて

数刻もすれば雨がポツポツと降り出し
それから街中は灰色に覆われて滝のように豪雨が襲った






ルキアはとっくに黒埼家へ帰宅しており、窓の外から黒い空を見上げていた

その隣で一護は我関せず顔でベッドに座って雑誌を読んでいる










「…遅いと思わないか、程ともあろう者が」


「さぁな、帰りにどっか途中で乱菊さんと遊んでいるんじゃねぇのか」


「でもあいつなら連絡の1つも寄越すはずだ」


「ったく、お前はの事となると冷静じゃなくなるよな」


「そ、そういう訳ではないが…もしかしたらって場合もあるだろう?」


「へぇへぇ、まぁ夕飯の時間になれば帰って来るだろ」


「そんな、猫じゃあるまいし」










ルキアがあまりにも無関係な顔をする一護にムッとして振り返ると、

丁度一護の携帯が着信を知らせた



其れを開いて画面を見ると其処には織姫からの電話だと告げている










「あ?井上か?…もしもし、どうした井上」



(………!!)



「え?!が?…今お前ん家に居るのか!?」



(………!)



「ああ!判った、直ぐにルキアとそっちに行く!!」













どうやら緊迫した状態で、
其処にの名前が出たものだからルキアは一護に詰め寄って何事かと訊ねる


一護はジャンバーを羽織り、ルキアの分のコートも投げ出して事情を説明する












がしくじったらしい、今井上の所に乱菊さんが連れ帰ったそうだ」


「なっ…怪我でも負ったというのか!?」


「知らねぇが井上のあの声色だと相当なものらしいと思うがな」


「っっ……行くぞ、一護!!!!」


「ああ!!」











それを聞きつけるなりすぐさま部屋を飛び出すルキアに、
一護は少し微笑んでから真剣な表情に戻りその背中を追う


雨が降り続く中を一護が大きな傘を差し、その下でルキアは全力疾走をしていた








織姫の家に着くと、ルキアは玄関まで行き礼儀正しく入るのがもどかしいらしく

窓から飛び込んでしまう



けれど一護は生身の身体で其処までの身体能力は持ち合わせておらず、

傘を畳んで水滴を振り払ってから玄関から入り込む








突如窓からの侵入に驚いた織姫は一瞬身を怯ませたが、

直ぐに受け入れて別の部屋に誘導する



其処には現世へ派遣された死神達が勢ぞろいして1つのベッドを覗き込んでいた



ちらりとルキアの到達を見届けた日番谷が目を伏せてベッドへの道を開ける










っ……」


「心配するな、傷自体は大したものじゃない」


「あ…ルキアちゃん」







安心させるように言葉を投げかける日番谷に次いで乱菊がルキアを見つけるとベッドの脇から退いてを見せる
ベッドの上で呻きながら眠るの姿を視界に捉えて、ルキアは駆け寄った










!どうした、お主とあろう者がこんな傷如きでやられる玉ではなかろう!!」


「っ……うぅ…」


「しっかりしろ!」


「…はぁ……」


「一体どうしたというのだ!?」









意識はない

けれど傷が相当深いのだろうか、無意識に呻いている


そんなの額には汗が流れきっていて
乱菊が濡れタオルで拭っている












「大丈夫よ、今尸魂界から救護班が駆けつけてくれているから」


「っ何があったというのだ!?」


「気配を隠せる虚だったの、それで背後から突然襲われてなす術も無くね」


「でも程の腕の持ち主なら不意打ちも相手にならない筈だろう」


「気を抜いていたのよ、…私と話をしていたから。でも虚は倒したわ」


「そなたのせいか!?ふざけるなっ、はいつもは戦いの場に出向く時はそんな気を緩めたりなどせん!」


「……ごめんね、ルキアちゃん」


「っ……」
















「松本、謝る必要はない。気を抜いたのは本人、自業自得というものだ」











「………っ、貴様其れでもの弟か!?」


「お前にだって良く判っている筈だ、戦いの場では自分の身は自分で守る物」


「…は……」


「朽木さん、もう…」


「身内だからと甘んじる事はしない、其れが尸魂界の掟だろう」


「…くっ……」












冷酷にも言い放つの弟に、ルキアは悔しそうに唇を噛み締めて耐える

織姫がルキアの肩に手を添えて励ますが
ルキアはそんな織姫の優しさに気付かない程にを見つめていた






ふと、の身体が動く












「んっ……」


!!?、しっかりしろ!」


「あ〜………参ったな、身体中が痛いや」










ゆっくりと目蓋を開けて、
現状を把握するとは苦笑してルキアに目をやる

安堵したのか、その大きな瞳から涙が零れているのを見て再び笑う












「ルキアまた泣いてる。最近涙脆くなったんじゃないの?」

「戯け!貴様が心配ばかりかけるからであろう!!」

「あぁ…ごめんね……ちょっとばかしナメてたな、最近の虚は強くなってるねぇ」

「そんな軽く言う事か!今の現状を判っているであろう、最近は何処も物騒なのだぞ」

「はいはい、皆もありがとね。わざわざ集まって貰っちゃって」









放っておけば何時ものように説教モードに入りかねない恋人を制して、

ルキアの後ろに控えてホッとしている仲間達に手をひらひらと振る



乱菊の隣に居た我が弟に目が行くと可笑しそうに指差す








「あれ、冬獅朗まで涙ぐんでる」

「なっ、馬鹿言うな!誰が…」

「まぁ何だかんだ言って冬獅朗もまだまだお姉ちゃんっ子だからね」

「お前な!ちっ、心配して損した」

「ははっ」









先程まで冷酷にあんな事を言っていた人が、
心なしか目元を紅くしてそっぽを向いている事にルキアは少なからずとも驚く

乱菊がこっそりルキアの腕を掴んで、部屋から引き連れる


目覚めたばかりのから離れたくない気持ちと裏腹に乱菊が自分に何の用なのかと眉間の皺を深くした



扉付近で一護と織姫が目配せをしてきて、

ルキアは小首を傾げる






織姫宅のリビングに通されると慣れた手つきでお茶を淹れて貰い、
食卓に着く乱菊に向かい側に座るように促される












「……?何だ?」


「まぁいいから、も目を覚ました訳だし安心して、ね?」


「う、うむ…」


「隊長も何だかんだ言っての事大事に思っているんだから」


「…そうだな、姉だしな」


「それで1つ言っておきたい事があるのよ。ルキアちゃんにとっておきの情報」


「は?」










にやりと妖しい笑みを浮かべながら、
乱菊は肘杖を着いて小さなルキアの顔を見下ろす

お茶を両手に、ルキアは呆けて乱菊を見上げる






そしてしばしの間


















「……虚に襲われた時と私は話をしていたって言ったじゃない?どんな内容か知りたくない?」


「いや、特に」


「知りたいって言いなさいよ、其処は!可愛くないわねぇ」


「…可愛く、って言われても。雛森と一緒にしないで欲しいものだが」


「……はぁ、いいわ。知りたくなくても教えるって決めた」


「そうか」


「実はねぇ、ルキアちゃんのことを話していたのよ?」


「私の?」










織姫の部屋が騒がしい
恐らく意識を取り戻したと、現世派遣組である一角と弓親と恋次辺りが騒いでいるのだろう

時々一護と冬獅朗の罵倒と、

織姫の慌てふためく声が聞こえてくる
















「そう、簡単に言えばがルキアちゃんとの事を惚気てたのよ?」


「………はい?」


「嘘なんかじゃないわよ、もう延々とルキアは意外と接吻がうまいとか…」


「…はい?」


「結構甘えん坊で2人だけの時は人が変わったかのようにデレデレしているとか」


「………」


「もう聞いているこっちは苛々したわ、本当に」


「…松本副隊長殿」


「はい」


「もう1度眠らせてきて宜しいでしょうか?」


「はい、どうぞ」















ガタリと席を立つルキアに、乱菊は面白そうに手を部屋に向けて催促する
再び部屋に消えていったルキアの背を見つめながら、
乱菊は小さく肩を震わせて笑う


ルキアと入れ違いにやってきた冬獅朗がそんな部下を見て小さくため息を漏らす

















の叫び声が聞こえてきたのは其れから直ぐの事だった……









皆が騒ぎながらルキアを止めている声も聞こえてくるが、

は何が可笑しいのか変に高笑いをしているものだから
ルキアの怒りを更に煽ってしまい、


瀞霊廷実力者幹部達でも止められなかったと一角が呟いていたのは後日
















「貴様なんかもう1度虚に喰われてしまえ!!!」



「そしたらまた泣くくせに〜」



「泣かんわ!!大喜びで貴様の骨を拾ってやるとも!」



「またまた強がっちゃってぇ〜」



「何ならこの手で切り殺してやろうか!?」



「無理だよぉ、ルキアの鈍い動きじゃこの私は」



「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!!!!!!」





















一護「ルキア!!その刀仕舞え!!!も煽るな!!」



一角「もまだ傷が癒えてねぇだろ!大人しく寝てろ!」



弓親「あぁっ、朽木隊員の刀が僕の顔に当たる!危ないっっ」



織姫「朽木さん!落ち着いてっ!この家がめちゃめちゃになっちゃうよぉ!!」















ルキア「死ね〜〜〜〜〜〜〜〜っっ」



「死にません〜〜〜〜〜っ、貴方がぁ、好きだからっ!!!!!」




















一護「何でそんな古いネタをお前が知ってんだよ!!!??

































今夜も空座町は平穏であったとさ―――――ー





余談

翌日近所から騒音苦情が来てこってり絞られたのは実は今回1番の被害者である織姫だった



























fin