尸魂界


死者達が集うこの死後の世界では年齢なんて無いに等しい

自分が何歳なのかも忘れている人だっているくらいだ



けれど人々は其れでも死後の世界を楽しんでいる


其れは生きてる頃と何にも変わらない世界だった











其の中で名を馳せる貴族のひとつ


朽木家

其の家の者達を敬い恐れる者達の数は計り知れない



其処へ養子でやってきた小さな死神は其の目が苦手だった

流魂街出身の彼女からしてみれば今までの生活とは天と地の差がある



ルキアはいつも孤独だった



親族となった兄、朽木家の当主とも上手く交流できず

流魂街の頃の友人とも距離を感じてしまい




ルキアはいつも孤独だった……








けれどそんな彼女に声を掛けた1人の死神が居た






『やぁ、君がルキアだね?』






四番隊の隊員




長身に物静かな佇まい

柔らかい笑みにルキアは惹かれた




駒村隊長を連想させる金色の髪は短く揃えられている

後ろへと流れるように整えられている其の髪は常に清潔さを保っていた



ルキアは彼女が怒った処を1度も見た事がない

死神だというのに刀を抜いた処も見た事もない



其れほどに彼女は平和主義者で優しい存在だった―――――――――






















「えっ、殿って卯の花隊長の妹なんですか?!」






目を丸くしている部下に穏やかに微笑みながら隊長は頷く






「うん、そうだよ。実力は隊長格だしね、救護の方も腕は良いよ」

「そんな…知りませんでした……」







そんな凄い人に自分は良くして貰っていたのか、と

生真面目なルキアに浮竹は苦笑いを浮かべる


身体の弱い彼は四番隊に安静を命じられ、
少し横になって休息を取っていたところ書類を届けにきたルキアがやって来たのだ


慌てておいとましようとする彼女を呼びとめ、

一緒にお茶でもしようと誘ったのが浮竹だった



自然と話の流れはルキアと親しいの事になる


そして明かされた真実にルキアは開いた口が塞がらないのである










「まぁ、いいじゃないか。彼女は力があるとはいえいち隊員なのだし、これからも仲良くしていきなさい」

「でも…っ」

君は君の事とても可愛がってるよ。其の君が謙遜しちゃったら…その気持ちは君が一番知ってるだろう?」

「……そう、ですね」







失礼致しました、と頭を下げるルキア


浮竹は微笑みを絶やさずに小さな部下の頭をひと撫でしてやった

そして何も話をしない静かな時間が少し流れた頃


ルキアは再び口を開く






「でも…そんなに実力がおありなのに何故隊長になれないのでしょうか…?」

「それは…そうだね、本人に聞くべきだな」

「…あ……」






もしかしたら触れてはならぬべき処だったのだろうか、と不安げな表情になるルキアに浮竹は笑った






「大丈夫、君にならちゃんと話してくれるよ」
























殿は瀞霊廷中に人気がある人物で

そんな素晴らしい人が何故自分なんかを気に掛けてくれるのだろうと常々思っていた



けれど殿はこうおっしゃった






『ルキアが1番可愛いからだよ』








冗談だ、と思っていた


けれど殿はいつもと変わらない笑みでそれ以上何も言わなかった

正直に言うと本当は凄く嬉しかった


自分より魅力的な女性は沢山いる

松本副隊長なんか其の代表といっていいだろう


けれど殿は何もないとおっしゃる



私は不思議でたまらない

現世への出張命令が出されてもいつも殿は断っていた


理由を聞けば刀を抜きたくないから、と



最初は其れでも行けと上層部に命令されていたが、

頑なに断り続けているうちに自然と彼女に虚退治の命令は出されなくなった










そんな事を思案しながら瀞霊廷の廊下を歩いていると、


私の目の前に白い袋が現れた

ぎょっとして足を止めるとその袋は上から吊るされている





「プレゼント」

「…殿!?」



上から降ってきた声に私が声を上げると白い袋の陰から彼女は顔を覗かせて笑っていた





「はい、白玉粉」

「あ、有難う御座います」

「ルキアの白玉は好きだな。私にも作ってくれる?」

「ええ、もちろんです!」

「ありがと」





ニコリと笑う彼女に赤面してしまう私


気づかれてないと良いのだが…

けれど優しい殿は何も言わずに私の隣に立ってくしゃくしゃと頭を撫でてくれる






「あの…」

「ん?」

「お仕事はどうなさったんですか?」

「…はっはっは、野暮なことは聞かない」

「……抜け出してきたんですね」






乾いた笑いを浮かべていた殿の顔から笑顔が消えた


うつろな眼をして知らぬ素振りをする彼女に私は苦笑いをするしかなかった

嗚呼、きっと四番隊の副隊長殿が血眼になって探していらっしゃるのだろうな、と





ま、いいじゃない


殿は私の腰を抱きかかえ、足踏みをする








「え?」


「花見、行こ」









そう言うなり殿は瞬足を使い、あっという間に私を瀞霊廷から遠ざけた











さん!仕事サボら……」





たった今其処に居た場所には四番隊の副隊長が現れた

けれど声が確かにしたはずなのに居ない事に対して首を傾げている
















其処から大分離れた場所



移動中は喋ろうものの舌を噛みそうだったので私はじっと目を閉じて到着を待つしかなかった

しばらくしてから身体にかかる引力がなくなり、
そろそろと目を開くと目の前に満開の桜並木が広がる





「うわぁ…っ」





其の下を歩けば花弁が雪のように舞い落ちてくる


両腕をぶんぶんと振りながら後ろに居る殿を振り返れば彼女も笑顔で応えてくれた





夢のような風景しばらく楽しんだ後


私は死神なのに迂闊にも背後を取られている事に気づかなかった

そして殿は浮かれている私の頭に手を伸ばしてきた


きょとんとする私が彼女を見上げると、

彼女は直ぐ近くで柔らかく笑った





「花弁、付いてるよ」

「…あ……ど、どうもすみません!」

「違うって、こういう時は"有難う"でしょ」

「……有難う御座います…」

「ん」





よし、と微笑みながら花弁を取ってくださる


私は彼女の顔を見上げながらふと疑問に思った

どうして、いつもこんなに優しくしてくださるのだろう



それは幾度も幾度も思った事

での其の度に殿は私が1番可愛いからだとおっしゃるけれど



正直言うとこんな頑固で田舎者の私の何処が良いのかが理解できない








ふと、



浮竹隊長の言葉が頭の中を過ぎった















「……殿…」

「ん〜?」





搾り出すような私の声にも、
花弁を指先でくるくる回していた殿は返事をしてくれる










「私の事、好きですか?」

「うん、大好き」

「…じゃあ…私の尋ねる事に答えてくださいますか?」

「もちろん、何でも聞いて」

「……どうして隊長にならないのですか?」





へ?と目を丸くして此方を見る殿へと私は真剣に食って掛かる






「隊長に聞きました、隊長格にも負けないくらいの実力がおありになると」

「…そんな事ないよ」

「其れにっ!私の事を好いてくださる割には私には何も話してくださらないじゃないですか」

「え?」

「卯の花隊長の妹君だという事も知りませんでした…」

「ああ…」










そして殿はため息を吐いてしまう


こんな私に飽きたのだろうか

軽蔑したのだろうか


もしかしたら…嫌いになってしまわられたのかもしれない





そう思うと胸の奥がギュッと締め付けられた













「なんだ、そんなこと」

「そんなことって…」

「別に聞かれなかったから言わなかっただけだよ、それにルキアにあえて隠し事をしようなんて思っちゃいない」

「……じゃあ教えてください」

「どっちを?」

「…両方です」

「ふむ」







頷くと彼女は近くにあった桜の木の下に腰を掛けた


其の隣をぽんぽんと叩いて促してきたので、
私も恐れ多くも座らせて頂く


そして殿は私の頭から取った花弁を口に含んで咀嚼しだした





「っ殿!?」

「…うん、食べれない事はないな」

「でも汚いです!」

「そんな事ないよ」




ケラケラと笑い、

また私の肩にあった花弁を取って口に入れようとするのを私は必死に止めた


私に阻止されるのが楽しいとでもいうように笑いながらさり気無く殿は話を戻す







「烈は私の姉であり母のような存在でね、私が小さい頃に捨てられていたのを拾って育ててくださったんだ」

「…あ……」

「そんな知られてない話じゃないんだけどな、まぁたまたまルキアの耳に入ってなかったという訳だね」

「そう、だったんですか…」

「そして隊長にならないのは、隊長は仕事が多いから断ったの」

「……はい?」







真面目な身の上話から一転して、気の抜ける台詞を聞き私は脱力した


しかし殿は至って真面目な顔だ




…まさか本気だというのだろうか


























「っていうのは嘘で、私は身体が弱いから着かせて貰えないんだ、烈にね」

「えっ!?」







ペロリと舌を出して其の上に桜の花弁をちょんと乗せながらなんでもないように殿はそうおっしゃった


驚愕に目を見開いてる私に、彼女は話を続ける








「私が現世への任務を与えられないのも、烈が総隊長に掛け合ったから」

「そんな!大丈夫なのですか!?」

「何が?」

「それなのに出歩いたりして…」

「うん、大丈夫。ちゃんと適度に休暇は頂いてるし、毎晩1番信用出来る医者に視て貰ってるし」

「……そう、なんですか…」

「それに最近はすこぶる体調が良いんだ、恋してるからかなぁ」

「恋ですか!?」








これまた何でもないような言い草で爆弾発言をなさった彼女に私が叫ぶと、


殿はふっと笑い、
私の肩を抱き寄せてきた















「うん、ルキアにね」



















…嗚呼、そういう事なら納得できる



こんな凄いお方が私なんかを気に掛けてくれていた理由が
















「ルキアがずっと傍に居てくれたら私はずっと元気でいられる」





























だから、傍に居て?








と囁きかけてきた彼女に私の答えは決まっていた




















「微力ながらも私の力でそうできるのなら、是非とも力にさせてください」











殿は、固いなぁ、と


また笑ってから










桜舞い散る景色の中で夢のような口付けを贈ってくださった―――――――――――






























殿!仕事しないと虎鉄副隊長に怒られますよ!!」

「勇音なんて怖くないもん」

「…卯の花隊長に怒られますよ?」

「うっ……」












今日も尸魂界は平和だった








今日も桜の花弁は散り行く…


貴女と私の思い出を抱えて――――――――


























fin