今更どう足掻いたってどうにもならない



そんな事判ってる

だから期待しない


望みなんか持たない




でもただ


ただ、今だけは隣に居させて――――――――













「あ、丁度良い所に。玲」

「んぁ?」






玲が聞き慣れた声に振り返ると其処には刃友が居た
怪訝そうに顔を顰めて何事かと促すと紗枝はいつもの微笑みで口を開く






見なかった?」

?お前と一緒じゃなかったのか」





確か、昼休みもずっと一緒に居た筈だ
玲がそう言うと紗枝はため息を漏らしながら辺りを見回した




「それがさっき目を離したら居なくなっちゃったのよね」

「アイツも子どもじゃないんだ、そんなに心配する事ねぇだろ」

「そうだけど…」

「トイレにでも行ったんじゃないか」




最もな事を言うが、紗枝は納得いかないようで頭を掻く

過保護な彼女に玲は苦笑しながら木の幹に胡坐をかいて座り込んだ
肘杖を突きながら目の前にいる紗枝を見上げる




「まぁ放っとけば戻ってくるだろ」

「ん…」

「心配しなくともアイツはお前んとこ戻ってくるよ。いつだって」

「…うん、ありがと。玲」

「おう」




ニコリと微笑んだ紗枝に玲はふっと笑って手を上げた
けれど彼女はくるりと背を向けて校舎へと歩き出す




「でもやっぱりもう少し探してみるわね」

「……ったく…」





そんな彼女に玲は呆れた様にため息を吐いた


紗枝の姿が見えなくなった頃、玲は上を見上げる







「行ったぞ」

「…」





そう声を掛けると、


木の上からバサバサッと豪快な音をたてて何かが落ちてきた






「お前も何なんだよ、突然。紗枝に心配かけるんじゃねぇぞ」

「……考えたんだけどさ」

「んあ?」

「玲一の事」

「…あぁ…」





浮かない顔で彼女は玲の隣に腰掛ける


そしてしばらく塞ぎこんだ後、玲の袖を掴んで搾り出すように言葉を紡いだ












「どの道紗枝はあいつんとこ行っちまう…だったら…」















今、どれだけ紗枝を好きでいても




叶わないんじゃないか


だから……





















ガンッ――――――











「おい、





其処まで言いかけた時


玲がの胸倉を掴んで木に押さえつけた





けれどは別段驚いた風でもなく

慣れたように玲の瞳を見つめている







「お前、それ以上言ったら只じゃおかねぇぞ」

「…だって苦しいんだよ」

「苦しいのはあたしだって同じだ」

「だったら!!」

「でも!それでもアイツはお前を求めてるんだ!!」

「っ…」





目に涙を溜めて俯くの気持ちなんて痛い程わかってる


けれど求められてるのは自分じゃない

その悔しさから玲はを掴む手に力を加えた












「玲、を虐めないで」










紗枝の声がした2人が振り返ってみると

其処には怖い顔をした紗枝がいた


玲が慌てて其の手を離すと紗枝はに駆け寄って、抱きしめる




そしてあやすように背中をぽんぽんと叩く


するとはせき切った様に涙をぼろぼろ溢し始めた






「紗枝…」

「よしよし、泣かないの」

「…っく…」

「玲は昔から貴方を虐めるからね、困った幼馴染だわ」

「……ぅ…」

「さしずめジャイアンね」



「おい!!!!」







紗枝の一言に玲が思わずツッコミを入れるとがビクッと身体を揺らす


そんなを抱きしめ直してから紗枝は玲を睨む

すると玲はバツが悪そうに頭を掻きながら呟いた






「悪かったよ…でもそいつが勝手なこと言うから」

「勝手なこと?」

「お前を想ってても叶いっこないんだからいっその事…」

「……、そんな事言ったの?」

「だって!」






唇を噛み締めながら言う玲から目をへと向けなおして紗枝が問い詰めると、


は思いを吐き出すように叫ぶ

紗枝はため息を吐きながらの身体を離し、その顔を覗きこんだ







「ね、。私はどこにも行かないわ」

「嘘吐き」

「嘘じゃないわよ、私が嘘吐いた事ある?」

「いつも」






の返しに紗枝は再び深いため息を吐く


その後ろで玲が確かにと呟いたのを睨んでけん制して再びの瞳を覗き込む







「じゃあね、はっきり言うわ」

「…」

「私は貴方じゃないとダメなのよ。玲一さんなんかじゃダメなの」

「…」

「だから、私を想うのは無駄なんてそんな悲しい事言わないで…」





額をの肩に押し付け

もはや懇願に近い


そんな紗枝の行動には俯いていた顔を上げて紗枝を見つめる




其の痛々しい体勢には彼女の背中に腕を回して抱きしめた










「嘘だよ…」












「紗枝、もう想わないなんて嘘だよ…」












「ずっと、ずっとずっと君が大好きだよっ…」





















ごめんね、ごめん…



そう呟きながら彼女の細い身体を強く掻き抱くに玲はため息を吐いた

そしてその両拳をギュッと握り締める








「なぁ、紗枝。。覚えてるか?」



「「…?」」







顔を上げて此方へ向ける2人に玲は懐かしそうに微笑んだ










「小さい頃あたし達はいつでも一緒だった」




「…うん」

「ん」




「誓ったろ?紗枝、お前を守る。何があっても守り通す、ってあたしとで」














其れは小さい頃の思い出


テレビを見て、お姫様に憧れた紗枝に

玲とは彼女の前に跪き



まるで王子と騎士の様に




そして微笑んだんだ









『紗枝はお姫様だよ、あたし達の』

『だからこの命を懸けてでも守ってみせるよ』










数年が経ち


お姫様は王子ではなく騎士を選んだけれど






2人の心はあの頃から変わっていない







玲一は例えると魔王


お姫様を狙う悪役



少し玲一に悪い気もするけれど

そんなの関係ない







だって紗枝は生まれた時から

そしてこれからも




私達の姫なんだから




















「でも、姫っていうのはやめて欲しいわ」





が落ち着いた頃3人で芝生に座りまどろんで居た時

紗枝がふっと笑いながらそう言った


は首を傾げてそう言えば前に夕歩もそんな事を言ってたなと思い出していた






「あ?」




玲が眉を顰めて紗枝を見ると



紗枝は立ち上がり、2人の前で両手を広げながら言う









「私は守られるだけじゃないわよ?そうね、女騎士よ」







「…あ〜…確かにそんな感じだな」

「…怖いな」








玲とが苦笑しながらそう言うと


紗枝は声を上げながら笑い始めた






楽しそうな紗枝に2人とも釣られて笑い出した











この楽しい日々がいつまでも続けばいいのに






3人で



星をとって


天地を手に入れて





ずっと、3人で笑っていけるといいのに










ひつぎは強敵だし

変だけど優しいし


好きだから




ひつぎから天地を奪うのは気が引けるけれど







それでも紗枝と玲と一緒に居たい






















はそんな事を考えながら目を閉じた



青い芝生の匂いが鼻を掠める

風が髪を揺らしていく

木々のざわめきが耳を擽る







そんな中


はとても幸せそうに2人の笑い声に耳を傾けながら意識を沈めた―――――――






























































そして目を覚ます事はなかった









































































「知ってた?、2年前から病気だったんだって」


「…否、知らなかったな」









白い服に白い布を顔に被せたを見つめながら

紗枝と玲は暗い慰安室の中で言葉を交わす


其の周りには見知った顔が沢山ある




ひつぎに静久

紅愛にみのり

順に夕歩

綾那にはやて

槙にゆかり





皆と仲が良かった


皆に好かれていて


皆が苦しい時側に居て励まして


皆が嬉しい時に一緒に喜んでいた




そんなの側に今人がこんなにも居るのはそのお陰






誰しもがを好いていた








紗枝を快く思わない人も天地には沢山いたけれど


その度にが宥めていた



其のうち紗枝を嫌うものなどいなくなっていた











「どうして…こうなるのよ」

「あの時アイツが言ってたのは…離れていくのはお前じゃなくて自分だったから」






だからあんなに不安がっていたんだな、と


玲の呟きに紗枝はの冷たい身体に手を添える






そしてどんどん涙が零れてくる





顔を覆ってる白い布を剥がしてその綺麗な顔を覗きこむ













「起きて」












「起きて、
















「騎士なんでしょう?私を守ってよ」



























けれどは起きる事なくただ幸せそうに微笑んでいた





そんな紗枝を見ていられなくなったのか顔を逸らす友人達


玲だけが紗枝とを見守っていた

























『何言ってるの』
















紗枝は女騎士なんでしょ?


守られるだけじゃないんでしょ?








だったら



この先



戦ってよ




自分の幸せを掴み取るために、戦って













そして疲れたら玲に助けを求めて





















が無邪気に笑いながらそう言うのが聞こえた―――












さよなら、






忘れないわ





愛してたわ

















女騎士は、


騎士の亡骸を背に


空を見上げながら


髪を靡かせながら



涙を堪えながら











歩き出した―――――――――















fin