『祥子姉ちゃんてさ、疲れるよね』









高校生時代に
ありったけの勇気を出してに告白したのよ



その時返ってきた言葉




それがコレだったわ









呆気に取られた私を、は苦笑しながら頭を掻き毟ってたっけ


そして少し空を仰いでから、


『いいよ』と答えてくれたの









あれから数年の時が流れたけれど

今でも判らない




貴方の発した言葉の意図が








ねぇ








私と一緒に居ると疲れるって事?












だとしたら…


あの時YESと答えてくれたのは、

仕方なく?












この頃ふと思う





こんな事考えていても仕方ない、と



何度も頭の中で掻き消すのだけれど







でも気を抜くとすぐに思い出してしまうの





















「祥子?何ボーッとしてんの」







目の前に、手の平が見えて思考が現実に引き戻された



夜更けの時刻
の家で久しぶりの休暇を思いっきり楽しんだ私達は

静かなひと時をベッドの上で寄り添うように座って過ごしていた



隣でコーラを飲みながら漫画を読んでいたが何時の間にか私の顔を覗き込んでいる


振り続けられる手を押さえて、

何でも無いわと首を横に振ると、



訝しげに眉が顰められた








けれど追求する気はないらしく

再びその灰色の瞳が本に戻る




スッと鼻筋の通った綺麗な横顔を見ていて
自然にその髪に手が引き寄せられた





その髪の感触を楽しみながら指を通している間も

は本から目を離さなかった





好奇心でこの髪に触れたがる人は大勢居るから、



髪を弄られる事には慣れていると前に言ってたっけ







「ねぇ、…」



「…何?」








「貴方、本当に私の事好きなの?」








呼びかけてもこちらへ向けられる事の無かった目が、


真っ直ぐに私を見据えた





普段の虚勢を崩さないよう必死で平常を保っている私の表情に、

気付いたのか気付かなかったのか



ただ口を薄く開けて「はっ」と笑う












「何それ」












本が、ぱたりと閉じられる音が部屋に響く


夜の静寂を、の言葉が遮る







私の、心を

が乱す















「まだ私は好きじゃなくてもキスとかSEXすると思ってる訳だ?」






「………」








「湊を傷つけたような事は二度としないって心に決めているんだけど?」









「……怒ったの?」










瞳の奥に宿る芯の強い炎に、私は気付いた



は本を床に投げ捨てて私と対面するように座りなおす










「怒っているの、だって?当然だろ。突然そんな事言われたら」




「……そう。でも私はその事ばかりで、ずっと頭から離れないのよ」





目の前の人物から目を逸らして、そう呟くと




ため息を付いた後、の口からあの日聞いた言葉が漏れた










「祥子ってさ、疲れるよね」











目を見張ってを見つめると、

何?と冷たく返された





まだ?



まだそう思われていたの?






せめて少しは無くなっているように、と毎日祈っていたのに



まだそれは存在していたの?貴方の中に





私と居ると疲れる、と












一筋、涙が頬を伝う



そっと、手を差し伸ばされた




その細い綺麗な指が私の頬を拭う


温もりが嬉しくて

切なくて

儚くて




涙は止まる事を知らず、溢れかえった











「多分、さ。祥子が考えている事は違うよ」





気付けば、の顔は微笑みに満ち溢れていた

優しく、私が安心できるように


精一杯の笑顔で微笑んでいてくれた










「疲れる、ってのは祥子と居る事じゃないよ」


「……え?」





「祥子は疲れる生き方をしているね、って事」






「…生き方……?」









「自分に素直になれなくてさ、遠回りしがちでしょ?」








「……あ…」













いつか、お姉さまや祐巳に言われた言葉






目の前のがそう言った事に私は少なからずとも驚いた











「でもっ…私達が付き合う事になった時も、そう言ったじゃない」






「…ふふっ、あれはね。『やっとか』って思っただけ」



「?どういう意味よ?」





私の頬を唇が這う

涙を拭ってくれているのだと、わかった



数秒そうした後、再び離れてが囁く








「だって祥子、ずっと私の事見てたでしょ?多分皆判ってたよ」





「…っ皆!?」






「うん。だから何時になったら告白してくれんのかなって思ってたんだ」









ニヤリ、と悪戯っぽく微笑むの顔が


とても憎たらしく思える









「だったら貴方から告白してくれれば良かったじゃない」





「…あのさ、何度も言ってるんだけど。私。好きって」




「……えっ!?何時!??」







「…………毎日」









今初めて耳にした真実に、

私はマジマジとの顔を見つめる



するとその顔は苦笑に変わっていった








「毎日さぁ、好きだよ、って言ってた。薔薇の館でも、皆の前でも」






…何それ!









「でもいつも祥子は冗談だと受け止めていたからさ、諦めたの。こっちから言うのは」








……うっそ!?









「そしたらさ、告白してくれたのって祥子が卒業する寸前だったじゃん?だからそれまで私はずっと待ってたんだよ」








「…それでやっと、って訳ね」







「そう」










の、その色素の薄い肌に口付けた



くすぐったそうに身を捩る彼女に、笑みが零れる










「悩み損じゃないの、私」


「だから、さ…いつも考え過ぎてるんだよ」


「貴方はもう少し考えた方が良いと思うわ」






「ヒドイなぁ」






















だから、さ











頭であれこれ考え過ぎると、いざとなると行動に移し辛いんだ







もう少し自分に素直になればいいんだよ











ね?祥子姉ちゃん













私をゆっくり押し倒しながら、

はそう囁いてくれた
















fin