「聖とちゃんはどっちが受けなの?」



昼下がりの薔薇の館
江利子の突拍子もない質問に、
紅茶やコーヒーを噴き出す人が殆ど


冷静なのは

その質問を投げかけた本人と、

根っから冷静な志摩子と、

普段から感情の岐路が狭いだけ





何、何っつったコイツ






「ねぇ、どっち?」






「っ…いきなり何を言うかね、君は」



江利子なんてシレッとした顔つきでサラリと言うもんだから、
私は口からボタボタ滴り落ちるコーヒーを手で押さえながら問い返した






「気になったのよ、昨日風呂に入っている時に」


「何で風呂」


静かにそうツッコミを入れてあげるのはのせめてもの優しさか…






「嫌ね、想像しないでよ」


「シテマセン、シタクモアリマセン」




棒読みだよ、台詞が


その無表情が怖い





「だって皆も気にならない?」

「どっちが受けか攻めか、って事ですか?」


何とか口元で押さえられたのか、口に手を押さえたまま祐巳ちゃんが確認する
そう、と頷く江利子を見て明らかに呆れる山百合会

でも黄薔薇は違った
黄薔薇の蕾のその妹

由乃ちゃんだけノリノリで一緒に考え始めてしまう




「確かに気になりますね、と聖さまも二人共攻めでしょうし」




「…確かに」





祥子…口から紅茶垂れ流して固まったまま受け答えしないで欲しい
どっかのコントみたいだから

あ、令もだった





「そんな論議しなくていいから」

せめてもの願いをかけて止めてみる
あっさり無視された

を見ると『今更…』というように流し目をされ…





「蓉子!この神聖な薔薇の館がこんな事で盛り上がっていいの!?会議よりも真剣だよ、皆!」


「会議の時に一番真剣じゃないのは貴方でしょう」




敗れた


最近の私の扱い酷くないか?


と付き合う事になったと公表してから
特に江利子と蓉子には無視されたり、
祥子と令と由乃ちゃんには刺々しい受け答えされたり、
志摩子なんて妹なのに何を言っても笑顔でサラリと無視られる

唯一の祐巳ちゃんだけは複雑そうにいつもと変わらないでいてくれるけど



繊細なこの心はボロボロでございます


なんて恋人だというのに冷たいんです




知るか、と我関せずを貫くんです









「基本的には両方OKですよ、私は」







がっ!!!???





思わず首の骨が軋む程の勢いで隣に居たを見た





「そうですねぇ、蓉子だったら両方、江利子だったら受け、祥子姉ちゃんには攻め、令ちゃんには両方、由乃には両方、志摩子には受け、祐巳だったら攻めと言ったところですかね」




……わざわざ1人1人確認せんで良いわ!



それぞれ指して、その場合自分のポジションは何かと言う

薔薇の館は赤面する女子達の勢揃い





それじゃ恋人として私の立場が無いんですけど


それすら自覚無しで1人コーヒーを啜っているに恨めしいぞ〜視線を送る





…通じない


まぁ判ってたさ








「でも残念ながら私は聖の場合、攻めなんです」




だからこれだけは譲れません、と

ニッコリ微笑むには


文句あるかコラというオーラが漂っていた



凄いね、今更ながらに感心するよ
山百合会を相手に文句言わせないなんて…

しかも1年生だ、彼女は
忘れがちだけどね






「本当なの?聖」
「信じられないわ、貴方が受けとは」
「てっきり攻め方面かと…」
「でも強弱関係ハッキリしてますものね」
さん>聖さま、ですし」
「私>お姉さま、ですし」
「…志摩子さん」

蓉子
江利子

祥子
由乃ちゃん
志摩子


……祐巳ちゃんだけだ、まともなのは







「私は基本的には攻めなんだけどなぁ」



「「「「「「「もう遅い(わ・です)」」」」」」」




………最後の反論も虚しく

私の白薔薇様としてのプライドは呆気も無く崩れた













「何だったの?今日のあれ」


の家で
黒い毛並みに綺麗なブルーの目をした愛猫のルウイと、
ベッドの上で戯れていたらが訝しげにソファの上からそう訪ねてきた

ルウイの前足を引っ張って肉球を触りながらから背く



にゃぁっ



ルウイが嫌がって前足を私の手の中から引き抜こうとする
否応無しに指を離してあげた
お腹を見せて甘えてくるその子が可愛くて
顎を撫でてあげたら嬉しそうに咽を鳴らす

う〜ん、あまりにも情けなくないか?

恋人が冷たいからってその飼い猫に相手してもらっているってのは





「どわっ!?」


みぎゃっ



上になっていた脇腹に衝撃を感じた
その痛みに思わず声を上げてうつ伏せに潰れる

ルウイも驚いたのか不機嫌そうに少し枕元の方へ行ってしまった



「…っ痛いよ、


「そう?そりゃ配慮が行き届かんで悪い」



君に配慮なんてさらさら無いだろうが

少し頭を持ち上げての方を見ると、
肘を枕にしてニヤニヤと笑っていた



「秘密にしてて欲しかったんだ?」


「え〜?何が秘密なのさぁ」


「受けだって事」






「……………」






の腰を抱えて自分の上に持ってくる
傍から見たらに襲われているんだろうけど、この体勢は

でも違うからね
断じて違うから

一応主導権は私にありますから





「デリカシーの無い君に教えてやろうか」


「アンタには言われたくないな、デリカシーが無いとは」




黙れっ

と脇腹をくすぐってやった



……動じない


やっぱりね



ってさ、不感症だよね」


「イェス、皆からセクハラされるので修行組んで鍛えました」


「ふふふっ、修行でどうにかなるもんなの?」



顔を近づけて笑うと、
その無表情にも笑みが見えた



「だからね、私としては皆に優しい頼りになる白薔薇様イメージを築きあげてきたんだよ」


「ふむ」


「なのに其処で私は受けだなんて言っちゃったら…っ!?」




私の首筋にが顔を埋める
そっと唇を這わせられる感触にゾクリとした


「ちょっ…んっ……」




「何言ってんの、受け体質のくせに」




「っ…はぁ…くすぐった……」









「いいんだよ、私の前でだけは受けで」



そっちの方が可愛いんだ

そのハスキーボイスで耳元を囁かれると身体が疼く



の前だけでは、って言われてももうバレてるんだけどね皆に



でも私が甘えるのはだけだから


祐巳ちゃん達にはカッコいい白薔薇様しか見せてないから





生い立ちからか、独占欲が人並み外れて強いくせに

自分は無自覚でたくさんの女の子達を手篭めにしてきている



…なんていう我こそ我が道精神なんだろ、この子





でも彼女が恋人、という誇りもあるんだ私には

それだけ自慢できる恋人だよ、君は











「っていうか浮気したら殺す」










………怖っ






















fin