「アイツってさぁ、本当最悪だよね」








「うんうん、存在自体許しがたい」








「ああいうのが世の中にもっと居るのかと思うと悲しくなるよ」










「大丈夫、アイツは特別な人種だから。そうそうは居ないだろ」











「でも、例えば血縁者…祥子のお父さんとかお爺さんもああなのかな?」














「年を取っている分、紳士なのだと割り切れるから。アイツはまだ10何歳そこらでアレだからいかんのだ」













「だよね〜。本当、嫌になるわ」






































「……嫌になるのはこっちだわ、2人共」








「「何で?」」





突如横から入った蓉子の視線により、


只今会議中なのだという事を思い出した2人は山百合会のメンバーの顔を一通り見回してかわニヘラッと笑った








「音声さえ切れればただの仲の良いカップルの微笑ましい光景だろうけど」




これ以上は無理というくらいに接近して話していた2人に

江利子が手にしていたペンを指先で器用にクルクル回しながらため息をつく



ぴた、と上手い事それをキャッチしてから続きが唇から紡がれた










「内容が銀杏王子についての討論だからね、色気も雰囲気も何も無いのよ」















「私達に色気を求めても無駄だって〜」






ひらひらと手の平を振りながら聖がそう言うと、もその隣で鼻を鳴らして笑う









、聖さま、私の親族の悪口は止めてくださらない?」





「「無理」」





今更の事に一応声は掛けるが、
既に諦めていた祥子がため息をつくと、
蓉子がジト目で2人を見やった


元凶なのに我関せずを貫き通すつもりらしい聖とはそれぞれ自分のカップに手を伸ばす


中身が空なのに気付いたは聖のカップを奪って飲み干した









「あぁ〜〜っ」



なんとも情け無い声を出す聖を見兼ねて祐巳がガタッと席を立つ



「あ…えっと、お茶もう一度淹れ直しますねっ」



「「あ、私珈琲。ブラックで」」



「はいっ!」









カップを回収して流しに向き立つ祐巳を眺めながら


またしても声がハモった






「「本当、可愛いな〜。祐巳(ちゃん)」」










「貴方達似た者同士にも限度ってものがあるでしょう」








「…そうだよ、真似すんな」


「…いやいや、してないって。こそしないでよ」


「誰がお前なんかの真似すっか、面白くともなんとも無いじゃないか」


「そんなこと言っちゃって楽しんでるでしょ!」


「江利子じゃあるまいし」









「ちょっと、そこで何で私が出てくるのよ」






蓉子と江利子の言葉の合間に意図が良く判らない口論を繰り広げていた聖とは一緒に2人の顔を見渡した


そして互いの顔を見合わせてため息を付く







「そうなんだよねぇ、似すぎるのもどうかと思うな」



「好物も同じだと食卓は戦争になるんだよ…」



「良く言うよ、大抵は無理矢理殆ど奪うくせに」



「聖がもっとたくさん食べな〜ってくれるからだろ」



「遠慮の字も知らないんだから、こう…ねぇ?少しは譲ってくれても良いと思わない?」



「思わん。弱肉強食」



「……………と、まぁこんな感じな訳よ。蓉子、江利子」











「優しさも時には仇となるのね。令、これを学習しなさい。優しいだけじゃ何も得られないのよ」


「カッコつけているからいけないのよ。にそういう掛け合いは無理なのは判ってるでしょ」








突如自分に振られた令は微笑をもらして首を傾げるだけだった



そんなやり取りを見兼ねた由乃が口を出す









「でも、似てて悪い事ばかりじゃないんじゃないですか?例えば相手へのプレゼントを選ぶ時とか」






その言葉に再び2人は顔を見合した

そして嫌な事を思い出したかのように顔を歪める








「クリスマスにさ、聖に内緒でたまにはプレゼントでもしようかと思ったんだけどね」



「たまたま私も同じ事を考えて居てプレゼント交換みたいな形になっちゃったんだ」









それで…と2人はまたため息を付いた

深刻な雰囲気=面白い事と感じ取ったらしい江利子が身を乗り出して続きを促す






「聖は良く英語の原本を読んでいるからそれをプレゼントに選んだ」


も良く外国の本を読んでいるから、…ドイツの本は見つからなくて英語の本にした」









「なるほど、プレゼントの中身まで一緒だったのね」





可笑しそうに肩を竦めて笑う江利子に釣られて皆押さえ気味ではあるが笑い出した


祐巳から受け取った珈琲を口に含みながらがそんな悠長な場合じゃないんだ、と苦虫を噛み潰したような顔をしてみせる







「中身どころか、本自体同じだったんだよ」








目を白黒させて本心から驚いている全員に聖は良い思い出とでもいうように遠い目をした











「つまりお互いにプレゼントなんてしなくても自分で買った物で間に合ってたんだよねぇ」




「無駄な出費だったって事」


肘杖をついて明後日の方向を見るに聖は勢い良く反応する











「無駄は無いでしょ〜、無駄は。要は心の問題」







「私の部屋に2冊も同じ本がある日にゃあ古本屋に売りたくて堪らないんだよ!察しろ」



「もし売ったら一生口利かないかんね!」



「何小学生みたいな事言ってんだか…仮にも私より先輩だろう」



「いいよ、小学生で〜」



「……馬鹿かお前は」



「馬鹿でいいよ〜ん」




「…うわ、その面張っ倒してぇ」





「野蛮だな〜、もう。これだから野生人は」








最後に余計な一言を付け加えた聖の両頬を思いっきり抓りながらは蓉子の方を見た









「で、どうすれば良いかな?」





面食らった蓉子は目を通していた資料から目を外して視線を合わせた


そして2人の子ども染みたやり取りに小さく微笑んで、助言をする事にした






「頭に浮かんだ事と正反対の事を言ってみたらどうかしら?」



「「う〜ん…」」




「じゃ、練習ね。好きな科目は?」




更に身を乗り出して面白そうに笑う江利子に、

頬を擦っている聖と、は顔を見合わせた



そしてお互いの思考を読み取ろうと睨み合いながら口を開く









「「国語」」







国語の正反対は、英語とか数学

2人共大の得意とするもの







「………」


「…………じゃあ好きなタイプは?」









またしても睨み合う2人








「「江利子みたいな奴」」





要するに面白い事が大好きでその場を混乱させる人と正反対の人物

例えば祐巳とか



……同じ







「……見事にハモるわね」



「ちょっと!それどういう意味かしら?私が嫌いなタイプって事?」





「「面倒くさいし」」





もう既にお互いに対する感情は失せている2人は、

開き直って力強く江利子に頷き返した





誠意も何も無い事を突きつけられた江利子は不愉快そうに紅茶を啜りだす





もう関わりたくないと言う事らしい


蓉子はとっくに資料に目を戻して知らん顔を決め込んでいた
こうなる事も予測済みだったのか


恐るべき紅薔薇様










「でもっ、そこまで同じ感性を持てる人となかなか出会えませんよ。お2人が出会って交際をなさっている事は運命だったんじゃないですか?」








「祐巳ちゃん、良い事言うねぇ!」



「……コイツと出会うのが運命?…うはぁ、鳥肌が」






「ん?そんな事を言うのはこの口かな?」



「いひゃい、いひゃい」






今度は抓られる側となったが必死に聖の腕を叩いて抗議すると








「もう…良いわよ、貴方達は似たもの同士って事で」






一通り目を通し終えた資料をテーブルに置きながら告げられる一言に、



2人はお腹を抱えて笑い出す












「「運命、それも悪くは無いね」」







先程までじゃれ合いをしていたかと思えば、

今度は互いの髪や顔に指を這わし




啄ばむように軽い口付けをし出した2人に一行は目をやらないように努める事にした














「やる事なす事、更に言う事も一緒だとかく乱するわね」


「それに付き合わされている身にもなって欲しいのだけど」


「優さんも大変なのに嫌われたものだわ」


「優しさは…かぁ。う〜ん、難しいなぁ……あ!柏木さんて優しいって書いて優って読むんだ!」


「……令ちゃんて、馬鹿?」


「セクハラ親父が2人…うわ、考えただけで頭痛い」


「私とお姉さまは似ていると良く言われるけれど、さんを見ていると全然違うわね」















つまり同じタイプの人間が1つの場に居ると、

良い迷惑なのは周りって事




…本人達はあまり気にしていないみたいだけど














fin