『大学のパンフレットのモデルに?』




『ええ、そうよ。一致団結で貴方に決まったそうよ』




『ちょっ…聞いてないよ!?』




『貴方が興味を示さなかっただけじゃない。もう決定だそうだからこれからいってらっしゃい』




『冗談じゃないって!そんなの死んでもお断りだよ!!』
















親友のわりには冷たい景さんとそんな会話をしていたのは10分程前

先行き不安そうだったこの話題に、最終的に承諾したのには理由があった



先程までの重たい足取りは何処へ

今は空も飛べそうな気分で敷地内の応接室へ向かっている






写真を意識して撮られるなんて本当は嫌だけれど



時と場合と場所によるのだ


今回は場合だけだけれども














「佐藤です」








扉をノックすると、学長の声が聞こえて入ってくるように言われた




高鳴る音を押さえつけながら開けていくと、応接室にある定番の黒いソファが見えて

その上に座ってこちらを見ている人物と目が合う












「こちらが今回の撮影を引き受けてくださったさんよ、リリアン高等部の卒業生らしいから貴方もご存知かしら?」



「どうも、です。以後お見知りおきを」



「…あ、どうも」










何も変わらない冷静な顔で握手を求められ、

対照的に私は戸惑いながら握手を返した



…今朝会ったばかりだというのに

と言うか、朝出かける時にはそんな事一言も言ってなかったはずだ






確かにの傍らにはいつも大事にしている見慣れた愛用のカメラがある


依頼されたというのは嘘では無いらしい












「えぇと、聖さん…何処か希望の場所とかあります?」



「あ、いや…別に特にはありませんけども」



「そんな事言っちゃっていいんですか?例えば便所とかになっても知りませんよ」



「べっ、便所!?」



「冗談ですよ」



「………」










しれっとジョークだと伝えてくるは、

カメラを手に立ち上がった



年相応の女の子がトイレを便所と言うのもどうかと思うけど…




仕事嫌いのはさっさと仕事を終わらせて帰りたいのか、

直に撮影に入ろうと事を進めてくる



学園長も納得したようで後は任せて職務に戻っていった











2人で無言のまま、大学敷地内を歩いていく


沈黙が重くて


でも何だか心地よいと思うのは私がマゾだからか





否、違う

これは江利子に言われただけで、マゾだなんて断定してない!




自らマゾ疑惑は取り消しておこう













「………それで何処で撮るんでしょうかね?カメラマンさん」




「プールでビキニ姿」




「…絶対やらない」




「冗談ですよ」




「…………」












またもやしれっとそれだけ言うに、もはやツッこむ気力も出なかった

桜並木を2人で並んで歩く



リリアンは丁度大学部も高等部も授業中だから誰も居なかった














「聞いてないよ、此処に来るって事」




「言ってないですから」




「もし私が選ばれなかったら違う女の子を撮っていたんだね、今頃」




「そうですねぇ」




「で、どうして急に?こういう仕事は引き受けないんじゃなかった?」




「1度見てみたかったんだ、聖の過ごしてる空間を」












何だかやけに嬉しい事を言ってくれたに多少吃驚しながらも、

微笑んでその背中から抱きしめた














「いつも一緒じゃない」




「大学部には1度も来たことなかったから」




「そう言えばそうだっけ」




「聖がもう1度行こうと思えた場所を見てみたかったんだよ、私にはそんな場所無かったし」
















風が吹き荒れ、桜の花びら達を地面に散り落としていった



ふと、聖の腕の中では身体を反転させて向き合う形になる
























「聖、笑って」




























貴方のためなら幾らでも笑いましょう










貴方が笑ってくれるのなら幾らでも私は笑いましょう






















「綺麗だよ、聖」












が居てくれるから、笑えるんだよ」































満面の笑みで、の身体に抱きつく


出来るだけの力で、大切な人を抱きしめる











カシャ











肩にカメラを乗せて、シャッターをきる音が聞こえた



仕事嫌いなのに仕事馬鹿だという矛盾


1度引き受けた仕事は納得のいくまで妥協しないという





真面目なのか不真面目なのか…











でも今はいいんだ









だって、こんなに飛び切りの笑顔なんて他の誰かに見せない


にしか見せない笑顔なんだから












そんなの身体を持ち上げて

お父さんが小さい子を持ち上げて頭の上でぐるぐる回すように、とまではいかないけれど




腕の中に完全に抱きかかえる





視線が上になった恋人の顔を覗き込むと、恥ずかしいのか僅かに顔を紅潮させていた













「来年も、再来年もその先もずっと…側に居てくれる?」








「……プロポーズ?」






















「そう、照れ屋な聖さんの精一杯のプロポーズですよ」





















































「もちろん、聖こそずっと側に居てね」














































そう言って笑うの方が、とても綺麗だと思った














貴方にしか見せないとびきりの笑顔を写真に封じ込めましょう









































fin