私の恋人は天然です





…超が付くほどの天然です






いつも悩んでます












「ねぇ、眠い」

「あら、じゃあ少し寝たら?まだ5時間目まで時間あるわ」



昼休みのひと時

いつも大目に作って来てくれる志摩子の重箱を突いた後は
恋人同士の大切な時間


…なのに!





違うだろう

そうじゃなくて


私が言いたいのは、アレだ



こう…




膝枕をして欲しいだけなんだけど










…通じない














私は志摩子に聞こえないように小さくため息をついて横になる

うぅ…コンクリートが冷たいぜ




すぐ側には恋人の暖かそうな、柔らかそうな膝があるというのに


こんなの恋人同士だなんて言わない!

……と思う










「聖の馬鹿野郎!!!!」





「なっ、何?私何かした?」


放課後、薔薇の館に入るなりそう叫んでみた

うん、聖は何も関係ないけど


…所謂八つ当たりってヤツかな



蓉子と江利子は後が怖いから





そこで選ばれたのは聖






コーヒーを飲みながら窓淵に腰かけてたらしく、
素っ頓狂な顔でこちらを見ている

呆気に取られたというのはこういう顔かな




鞄を机の上に放り出して椅子に乱暴に座った




「聖の馬鹿野郎、阿呆…腑抜け!」



その間も呟きながら




当の本人は苦笑いをしながら、机に寄ってきた

「そこまで言われる覚えは…」


「煩い」


「煩いって…私被害者なんですけど一応」


「煩い、黙れアメリカ人」



「…っ!自分はドイツ人のくせに」





それもそうだ…

私のお母さんはドイツ人でした


聖よりも外国人の血が濃いんだった







涙目になっている聖を放っておいて私は机に突っ伏す

「何かあったの?」


祐巳が紅茶を淹れながらそう訪ねてきた

私は今、ここに居ない彼女を思い出す




…天然な所に惹かれたんだけど、


天然過ぎるのもどうかと思うよ





「江利子」


「え?」


いきなり話を振られて驚く江利子に私は真剣な眼差しを向けてみた



「攻略本無い?」



「………はい?」




今聞いた言葉が聞き間違いかとでも言うように顔を向けてくる

江利子なら持ってそうだ



「天然少女攻略本、持ってない?」



「…持ってる訳ないでしょ」




意外な返事に私は突っ伏してた身体を起こした





「何よ、その意外そうな顔は」




「だって意外なんだもん」




「あのね、確かにそんなものが本屋に売られてたら買うわよ。面白そうだし」




あ、出た

江利子の『面白い』発言




面白い事を糧に生きているからな、この人







「ちぇっ、聖は使えないし…どうすりゃいいんだよ」







再び矛先を向けられた哀れな聖

蓉子に泣きそうな顔をして助けを求めている


蓉子自体は可笑しそうに笑っているだけだけど





「何悩んでるのよ」

「う〜っ……膝枕して欲しい」

「「「「膝枕?」」」」


現在薔薇の館に居る私以外の四人が声を揃えて聞き返してきた



「ギュッとしたい」

「「「「………」」」」

「あの髪に顔を埋めたい」

「「「「………」」」」

「キスしたい」

「「「「………」」」」



「エッチし………」



そう言い掛けた処で蓉子が私の頭を叩く


…痛い





「何言おうとしているのよ、ったくはしたないわね」

「…蓉子は将来禿げる」

「全くもう…何が言いたいのかさっぱり分からないわ」


だってそんなにピリピリして聖と江利子と私に付き合ってたら、
将来精神的に禿げそうじゃん



「相当欲求不満なんだねぇ、


「そうなんです、だから誰か攻略本頂戴。出来るだけ判り易いヤツ」




再び持っている訳ないじゃない、と肩を竦める江利子


はい、と淹れた紅茶をくれた祐巳の顔は何故か真っ赤だった

刺激が強すぎたかな、お子様には






「要するに論点をまとめると、」


「ん?」



「志摩子とイチャイチャしたいけど、それを志摩子が察してくれないとの事ね」






イチャイチャって…

まぁその通りなんだけど


……イチャイチャって今時言うのかな






「蓉子、攻略本頂戴」

「持ってないわ」

「……聖」

「ないない」

「…………祐巳っ!!!」


最後の望みをかけて祐巳を勢いよく振り返ると、

突然の行動に戸惑う姿が見られた




「えぇっ!?私っ?でも私は志摩子さんよりちゃんの攻略本が欲しいけどな…」




「……はぁ?何で。こんな判り易いのに」


そんな事をほざいた祐巳を訝しげに見ながらアピールしてみる
と、蓉子がため息をつく



「判らないわよ、貴方はいつも」

「そうそう、何考えているか判らないよ」

「でも面白いわ」




「…その言葉そっくりあんた等に返したろうか」















二人で私の家へ続く道のりを歩きながら…


………会話がない




さて、どうしますかね

これから本屋にでもダッシュして攻略本探してみましょうか


『天然との会話方法』




「ねぇ、


「えっ!?」


このまま沈黙が続いたまま家に着くのかと思ってた私は、
驚愕して志摩子の方を見た



「怒っているの?」



「……?全然」




「……そう」





「…………?」


















放課後、私の家でやる事は決まっている

志摩子は夕飯作りで、

私は風呂を洗ってお湯を入れる



もっと細かく言うと、ちゃんと家事が分担されてるんだ

別に同棲している訳じゃないけどそれに近い程うちに泊まりに来ているから、志摩子は




おかげで嫌いな野菜も無理矢理食わされ

おかげで嫌いな宿題も無理矢理やらされ

おかげで嫌いな朝も無理矢理起こされ




………無理矢理ずくめじゃん







「風呂洗い終わったよ」


「そう、ご苦労様」


「うん」





基本的には志摩子との会話はほとんど無い

どちらとも一言で終わるから



っていうか志摩子の短い台詞に私はどう返せばいいかわからないからなんだけど





食事中も、



おいしい



そう、良かったわ



うん





で終わり

食後も、




皿、私が洗うから座ってて



ありがとう



うん





で終わり













………恋人って何なんだろう


辞書で引いてみるかな







風呂にも入って、1日の終わりをベッドの上で過ごす

私はただ何をする訳でもなく、横になって
隣で髪をブラシで梳いている志摩子を眺めていた


その髪に手が吸い寄せられる

湿った感触が気持ちいい




「…ふふっ、どうしたの?」

「別に」







「………ねぇ、




「何?」





「私、貴方の攻略本が欲しいわ」







何を言うか、この人は

祐巳と同じような事を言った




「何で?だって素直じゃん、私。自分で言うのもなんだけど」



夕方、祐巳たちにも問いかけた疑問

すると志摩子は困ったように笑いながら






「そうでも無いわよ?無口だし無表情だし…。冷静って言うのかしらね」





………あ






そうか、私達は同じような事で悩んでいたんだ






志摩子が私の気持ちに気付いてくれないのも



志摩子が私の望むことをしてくれないのも







私が何も言わないから…










「そっか…」


「どうしたの?」



「何かして欲しい時は言えばんだね、お互い」






「……そうね」








最後にそう優しく微笑んでくれた彼女を見て、

やっぱり私はこの人が好きなんだなぁ、と思う





手段がそうとわかれば、早速実行に移るまでだ





「志摩子、キスしていい?」


「…いいわよ」




そして上半身を起こして志摩子の唇にそっと自分の唇を寄せる

久しぶりの感触に震えた



理性保てるかな…



うん、無理





「志摩子、抱いていい?」



「……っ!?」




「つぅか、抱く。反論意義なし」







そう言って、私は赤面する志摩子を押し倒した









人は個体だから


お互いの思いがわかるなんて有り得ないと




だから想いは



言葉にして歌おう






歌えばそれは少なからずも聞いてくれる人はいるから







攻略本なんて要らない







あったら気持ち悪いだけだ



自分の全てが書いてある本なんて考えただけで気持ち悪い








日常の1つ1つを心に閉まって、

それを1つ1つクリアしていけばいいだけのこと






そう、人生なんてゲームみたいなものだ









でも恋は想像できないからゲームというほど簡単な仕組みじゃない











………だから面白いんだと思わない?

















fin