「静、ゲゲゲの鬼太郎歌って」


「何それ」














幼馴染の突然の要請に、
静は楽譜を纏めていた手を一旦止めてベッドに顔を向ける

人のベッドの上で我が物顔して寝転がって漫画を読んでいたが真剣な顔をして自分を見ていた




その内容が判らなくて問い返すと、は吃驚したように目を丸くする














「知らないの?鬼太郎」


「何なの、其れ。歌?」


「うん、あの〜ほら…目玉親父とか」


「目玉焼き?」


「静、静。焼いちゃ駄目、あくまでも親父なんだから」


「何訳の判らない事言ってるのよ、知らない歌なんか歌いようがないから却下」











そう言うとは不貞腐れて枕に顔を埋めてしまう


静は静でどんな歌なのか想像しながら楽譜を纏める













「じゃあドラえもん」


「…何故?」


「静ちゃんはお風呂が大好きで1日に3回以上入る」


「…入らないわよ、私は」


「静ちゃんは良い子に見えてかなり我侭だとこの年になって改めてドラえもんを見てみると判る」


「………何の話してるの?」


「静ちゃんは、どっちが好きなんだろうね。出来杉とのび太」


「知らないわよ、のび太君じゃないの。結婚して子どもも居るんだし」


「本当凄いよね〜、自分の子どもが未来から会いに来るんだから」


「怖いわよね」


「でも未来って判っちゃうとつまらなくない?のび太はもう将来の自分に夢を馳せる事出来ないんだよ」


「……、何故鬼太郎からドラえもんになって、未来の話になるの?」


「あ、何でだろうね。…あ、そうだそうだ。静ちゃんはお風呂が好きって話」











楽譜から目を離さずに受け答えしている静と、

枕から少し顔を離して漫画を読みながらぼそぼそと喋る



傍から見たら仲の良い幼馴染以外何者でもないけれど、
彼女同士は実は恋人という仲



なのにここまで色気も何もあったもんじゃないのは、

話題がドラえもんだとか鬼太郎だからだろうか












「……静ちゃんお風呂一緒に入る?」


「悪いけどもう入ったの」


「静ちゃんは1日に3回以上…」


「そんな情報要らないの。それに私の名前で報告しないで」


「源 しずかちゃんはぁ」


「しつこいわね、貴方にのび太ってあだ名付けるわよ」


「いいよ〜別に。意外と似てるもん、のび太と私」


「ええ、そうね。そっくりよ、ぐうたらな所なんて特に」


「何処でもすぐに昼寝出来るし、薔薇3人組にいっつも虐められてて」


「ふふふっ」


「でも1つだけ違うのが私はのび太とは違って何でも出来るって所だね。運動神経良いし勉強もそこそこ」


「…自信の強さも違うわね」


「それにしずかちゃんはのび太と結婚するんだ〜」


「………?」















静は何時もの事ながらにの言っている意味が判らなくて
再び眉を顰める


けれどは嬉しそうににひひっと笑うだけだった
















「どういう、意味なのかしらね」


「いや、多分それは…」






たまたま廊下で鉢合わせた令に、静は呟く
の幼馴染繋がりで親しくなった2人は廊下の窓辺に背中を預けて談笑している

そしてふと静は昨夜あの後に突然の機嫌が悪くなった事を不思議に思っていた


肌を重ねる事もしないで1人でさっさと寝てしまったに静は首を傾げるばかりで
それまでの会話に原因が隠れているのだろうと推理してみて

それでも判らなかったものだからこうして令に相談している、と




経緯を聞いた令は苦笑しながら窓から外を眺める











「多分ね、静さん…は」


「そうだ、令さん。鬼太郎って知ってる?」


「えっ?あぁ、鬼太郎…ゲゲゲの鬼太郎の事?」


「あら、知ってるの?何なの?に突然歌って欲しいって言われたの」


「リリアンでも誇りの歌姫に何を歌わせるかな、は」











笑いながら言う令に、静は疑問が深くなるばかり

其れと同時にチャイムが鳴り休み時間の終了を告げる










「それじゃ、また。ごきげんよう、令さん」


「うん…あ、静さん。は多分貴方にプロポーズしたんだと思うよ」


「えっ…?」




















プロポーズ?


が?
私に?







いや、だって小さい頃から当たり前に傍に居て


気付いたらお互いの気持ちが大きくなっていて
愛しくなって



イタリア行きも自分の事のように喜んでくれる彼女の存在が心地良くて

それまで出来る限りの時間一緒に居ようと誓って





………プロポーズ?

















「ねぇ、



「うん?」



「貴方昨日私にプロポーズしたの?」



「ぶっ…!?」












は口に含んでいたハーブティを勢い良く噴き出して、
ぼたぼた零しながら私を凝視してくる


私は至って真剣な目で見返す









「でもね、私達は女同士なの。結婚は出来ないの知ってる?」


「し、知ってるよ。さすがに」


「じゃあプロポーズされても…」


「う〜ん、静。プロポーズ=結婚じゃないよ?」


「え?」












そう言うとは静の手を握って、

優しく微笑む
そして口を開く















「ずっと、一緒に居てって事」


「…………」


「のび太としずかちゃんみたいに心の深くで繋がっていたいって事」


「あぁ……それはもちろんよ」


「静は来年にはイタリア行っちゃうでしょ?しばらく離れ離れになっちゃうけどずっと想い合ってたいなって」


「…有難う、。てっきり貴方は私と離れても平気なのかと」


「平気な訳ないでしょ、でも静の夢は応援するから引き留めなんかしない」





















好きだから




好きだから例え離れ離れになっても

私は我慢できる




だって夢を追いかけない貴方なんて私の好きな貴方じゃないから



夢を追いかけてキラキラしている貴方が私の好きな貴方だから
















静、未来が見えなくても


楽しいじゃない







だってその未来を2人で築いて行けるんだから










のび太としずかちゃんは


その楽しみは失ってないと思う

もう未来を知っていても、
その未来は築けるんだから



楽しかったと思う













いいんじゃない?



それも

























「あ、令さんがね」


「うん?令ちゃん?」


「イッタンモンメン?が好きらしいわよ」


「……何で」


























fin