どうしてこうも決まっているのだろうか





昔から女王さまは我侭な生き物だと決まっているのか?

そりゃ、そんな人に惚れたのは私なんだから仕方ない





惚れた弱味ってか?



















「……何で居るの?」





声を掛けてみるものの、その主からの返答は得られず
それもそうだろう

その主は私のベッドの中で寄り添うようにすやすやと寝息を立てているのだから


もぞっと上半身だけ起こして脱出すると、
隣に居る静馬の寝顔を眺める

確かにこうやって見ていれば果てしなく美人なのは判る

けれど口を開けば毒舌ばかり飛び出してくるから普段はなかなか甲乙付け難い








「黙ってりゃ美人なのに」






このような、普段なら反発してくるであろう言葉を言えるのも彼女が寝ているからだ


ポリポリと頭を掻いてから掛け布団を静馬の肩まで掛けてやる
そしてそっとベッドから抜け出すと窓辺まで近づきカーテンを少しだけ開ける

其処から差し込む光に目を細めた






「ん……」






ふと背後から大きな猫の呻く声がしたので、
カーテンを閉める

恐らくその光が眩しかったのであろうか

彼女は布団を更に被るように体を丸くしていた






「静馬、朝だよ」

「……すぅ…」






一応声を掛けてみるものの彼女は我関せずで再び夢の世界へ旅立ってしまう
苦笑しながら寝巻き代わりのYシャツの第2ボタンを外しながら、ベッド際まで向かう

そしてベッド上に放置したままだった昨日の服を手にして洗面所へ行こうとした足を止める
煙草が入っている筈のズボンのポケットを探るが其処には何も無く、
はて、と辺りを見回すといつの間にかベッドサイドテーブルへ移動していた






「人の煙草許可無しに吸うなよな…」





苦笑しながら其処から1本取り出して口に咥え、
同じく其処にあったZIPPOで火を点けると手にしたままだった洗濯物を洗濯機へ放るために洗面所へ向かう

其れらの作業を終えるとまだ一服しかしていない煙草を洗濯機の上に慎重に置き、

洗顔石鹸をチューブから手の平に適当に練り出して水につけ泡を立てる


そして顔を洗ってから拭いたタオルを肩から掛けて再び寝室へと舞い戻った







「静馬〜、いい加減起きなよ」









再び声をかけてみるものの一向に目を覚ます気配は無い

咥え煙草を灰皿に置いてから、ベッドに両腕を突いて彼女の顔を覗き込む


ぺろりと少し掛け布団を捲ってみると其の顔が現れた








「静馬ちゃん、起きないとチューするよ」

「…うん」

「ん?」

「……すー…」

「…寝言で今会話成立したような」






上から覗き込む形で見下ろすその顔は起きた気配無し
となれば今のは寝言なのだろう


其れで会話が出来た事に吃驚しつつ静馬の偉大さに感服するばかりだった

一体に何に感服したのかはとりあえず置いておく



でも、堂々と例え寝言だろうが静馬からの承諾を頂いたのだから
此れで遠慮なく襲えると私は嬉々として身を沈める

薄い唇に自分の唇を重ねて、しばらく目を開けたまま目の前の彼女を観察してみる





「んっ…」

「……」

「…っ……」




少しして寝苦しいのに気付いた彼女が顔を逸らそうとするが、
其の顔すら両手で挟みこんで固定し更に強く重ねた




「……ふ…」

「……」

「…っんん!!?」






綺麗な目が勢い良くパッと開いて、目が合う


何が起きているのか理解したらしい静馬はがしっと私の顔を両手で挟み返してきてぐぐぐっと距離を離す








「ぷはっ…何するのよ、朝っぱらから……」

「おはよ」

「窒息死させる気?

「まさか。静馬も良いって言ったじゃん」






何の事?と首を傾げる彼女に微笑みかけながらも、
押さえつけられている顔を更に近づけようと抵抗を試みる

けれど静馬も負けずと両手に力を込めて押し返してきた


まるでいたいけな乙女を襲っている狼の図のようではないか

否あながち間違っては居ないが







「だってさっき『いい?』って聞いたら『うん』っつたもん」

「それって寝言じゃないの?」

「だろうね」

「そんなの承諾にならないわよ」

「でも私は聞いたもんね」

「…そんなに私とキスしたい?」

「むしろ食べちゃいたい?」

「疑問系でしかも本人に言わないで」







呆れた様にため息を吐いた静馬の手から力が抜けるのを感じ、
嬉々として私は顔を沈める


先程みたいな強引な口付けではなく、

重ねるだけのキスを繰り返すバードキス


私の顔を抑えていた両手は首に回され引き寄せられた










「…ふっ……ふふ」

「…何?」

「いつもはポーカーフェイスの静馬もこうやってみると可愛いなって」

「余計なお世話よ、

「君は庭に咲き誇るコスモスよりも魅力的だ」

「あら、貴方は空に気高く生きる鷹よりも魅力的よ」








いつものお遊びの癖で、出てきた飾った台詞にも静馬はちゃんと返してくれる


顔を抑えていた手を外して彼女の首筋を撫でながら下へ向かわせる
そうすると彼女はくすぐったいのか僅かに身をよじって其れから逃れようとした






「逃がすと思うかい?」

「本当に言葉攻めが好きね、貴方は」

「君程じゃないさ」





そう言うと、静馬は笑う
そして再び愛撫を再開させる

次第に色っぽい声をあげる彼女に、自分も疼いてくるのが判る








「んっ…はぁ……」

「静馬、気持ち良い?」

「さぁね」

「ふぅん…」

「…あぁっ、ちょっ…いきなり……ふっ」

「何ていうか、意地?」

「……っ最悪ね」










そう言って自分の下で悔しそうに、
それでも笑う彼女はとても綺麗だった




そして私達は、闇に落ちた――――――――――






















「……どうした?」

「…いいえ、今日2度目の目覚めだわって思っただけよ」

「疲れた?」

「ええ、幾ら今日日曜日だからってこんなゴロゴロしてていいのかしら」

「いいんじゃない?たまには羽根を休めた方が良いよ」

「……そうね、と寄り添っている時が1番良く眠れるの」

「…だから夜中に人の部屋来て寝るの?」

「そうよ」







そう言って、事後の艶っぽい顔のまま微笑む静馬を


私は心底愛しいと思い腕の中に閉じ込めた








静馬は良い匂いがする




嗚呼、そうか

眠りが浅い私がぐっすり眠れる時
必ず静馬が隣に居る


いつの間にか静馬が私を必要としているように、
私も静馬が精神安定剤のような存在になっていたのかもしれない









「静馬、これからは毎晩此処で寝て良いよ」

「え?」

「あ、もちろん他の女の子相手しない夜ね」

「何よ其れ、貴方だってそうじゃない」

「私は静馬以外抱けないもん」

「嘘ばっかり」

「本当だよ、静馬以上に魅力的な女性居ないのにどうやって抱けっての」

「……本当?」

「うん」

「…じゃあ私も誓うわよ、貴方以外の女性抱けないわ」

「そっか」

「本当よ?」

「うん」














適当にはぐらかす私に、
静馬は力を込めて誓ってくれた













コスモスの薫りは、恋の薫り



ふわふわと蝶が舞うように、私も貴方の周りを舞う












其の花が枯れる事ないように見守ろう































fin