それは小さな女の子から聞いた出来事だった
剣八の周りでいつもはしゃいでいる少女が、私の死神装の裾を引っ張るから

何だよ、と振り向いたら

とても


とても落ち込んだ顔付きだった…

精霊廷の元気印と言ってもおかしくないやちるがこんなに落ち込んでいるなんて





そして、その口から紡がれた事実に私は気付いたら駆け出していた








嘘だ


嘘だろ?



浦原と夜一が消えたって




いや、浦原なんてどうでもいいんだ


肝心なのは夜一




酒飲み友達でもあった彼女が、

私に何にも言わずに消えたなんて






四鳳院家をくまなく探す
でも望む姿は無くて

いつもならそこで胡座をかいて

豪快に笑っているはずだった


その座椅子はただ広い部屋の真ん中にポツンと置かれていただけ





でも、そこに夜一は居るようで

でも、そこに夜一は居なかった






おかしい

だって、昨日も一緒に酒を飲んで
互いの近況を報告し合って
馬鹿みたいに笑い合って
砕蜂の事をカラかって……



砕蜂




そうだ、砕蜂だ







彼女も一緒に行ったのだろうか?

そう考えを巡らせただけで、いても経ってもられなくなり
その部屋を後にした




廊下を走っていたら身体ごと誰かに突っ込んだ

その相手は素っ頓狂な声を上げて私を受け止めてくれる

「うおっ!?何だ、お前か。危ねぇなぁ」


「……うっさい、ハゲ。失せろ」


私の悪態にも慣れている一角は苦笑して、
抱き上げていた私の身体を下ろしてくれた


「どうした?そんなに慌てて」

「…本当か?」

「何がだよ」

「夜一と浦原が…消えたって話」


そこまで言うと、一角のこめかみに皺が寄る
あ、怒ってる

そりゃ、一角と浦原って合わない感じしたから仕方ないか



「あぁ、そうらしい」

「…………ハゲ」

「…だからその呼び名止めろっつてんだろ!」

「砕蜂知らないか?」


違う意味でもムカッと来たらしい一角を無視して
本題を訪ねたら、しばらくして精霊廷の一部を指す


「あの辺から感じるぜ、霊圧」

「そうか、わかった。ありがとう」


剥き出しになっている廊下の柵に足をかけると、
その腕を掴まれた

「まだ苦手なのか、お前。霊圧感じ取る事」
「…悪かったな」

「悪かぁねぇけどこの先戦闘とかにでもなったら必需能力だぞ」



「……そのうち特訓でもするよ」




それだけ言って、私は手を振り払い

近くにある壁に飛ぶ



そこから一角の指していた辺りを目指して足を動かした
これでも夜一と張り合っていた足は持っているんだ

もし敵が切りかかってきてもそれを容易く避ける事くらいはできる

だから別に苦手な霊圧感知も特に練習してこなかったんだ






しばらく言った所で、見覚えのある服が目に見えた

その後ろに降り立って、息を潜める


……泣いている





何だか声をかけちゃいけない気が、した


必死に声を押し殺して涙を流す姿は



とても苦く感じた

その背中を抱きしめたい衝動にかられたけど、
でもそれすら許されないような気を纏っている



「砕蜂……」

「…………っ!」


かなり驚いたのか、勢い良く振り向く
彼女も暗殺部隊なんだから人の気配くらい感じ取るのはお手の物だろうに

それすら出来なくなっているとは相当気が乱れている証拠だ




「………」

「………………ごめん、夜一じゃなくて」



どう見ても落胆した顔つきになる彼女に、
私は苦笑を返した



「……いや」

「砕蜂、いつもの砕蜂らしくない」

「え?」


その顔はいつものキリッとした顔とはかけ離れていた

酷く落ち込んでいる


酷く、悲しい想いを潜めたものだった





「……何で私を連れて行ってくれなかったんだろう」


「それはっ」


「私だって何も言わずについて行くのに」


「何、言って…」



そこで私は気付いた

砕蜂の目の焦点が自分に合わさってない事に




…何を見ているんだ?




宙なのか




それとも今はもう居ない夜一?








………なんで









「砕蜂!諦めが悪いぞ、アイツはもう…っ」












それでも自分を見てくれない泣きはらした真っ赤な目に







苛立ちを覚える









「どこ…見てるんだよ……」
「急な任務でも入ったんだ、そうだ」


「砕蜂」



「うん、そうだ。今日の夜には帰って来るんだ」




苛立ちと同時に、





悲しみも込み上げてきた







その肩を抱きしめる

自分の存在を知らせるように、



私を見て






「砕蜂…お願い」


私を…、









見て。





「……………………?」



明後日の方向を向いていた顔が、
ゆっくりと私を驚いたように見る



見て…くれた?




「泣かないで、私が居るから」

「…っく、うわぁあああああっっ!!!!」




私の腕の中で泣き続ける身体を抱き続けながら


私も、


一筋の涙を流した






私だって哀しい

何で、どうしてっていう念はある



あんなに仲良かったのに
良かったと思ってたのに、
夜一は何も言わないで黙って行動を起こした




でもそれ以上に

砕蜂が気になったから



心の拠り所であった夜一を失ったこの人が気になったんだ





いつも、強がって冷徹な表情をめったに崩さない砕蜂が

唯一感受性が豊かになるのは夜一の前だったから





だったら


独りになった怖さと

何よりも信ずる人に裏切られた絶望は



とても計り知れないものだと私は知っている





私の前でも笑って?

夜一が居なくても笑って、泣いて、怒って欲しい

















そして

夜一は、再び私達の前に姿を現した…








何だか私の居ない間に二人の溝は埋まってて、
その日の夜は三人で飲み明かした

…三人ていうか隊長格ほとんどと、だけど



恋人同士になったと恥ずかしそうに言う砕蜂に対して
目から鱗が落ちるっていう形容が当てはまる夜一に笑みが零れる

減らず口を叩きあって


久しぶりに騒いだその夜は、



様々な再会を喜んでくれているかのように輝く月がひとつ





「あ、夜一」

「何じゃ?」

「一度言ってみたかったんだけどさ」

「何じゃ、じれったい。早く言え」

「……"娘さんを私にください"」



静まり返る部屋を他所に、
グラス淵を持っている手でひじ杖をつきながら

私は夜一の反応を窺ってみた


…うわ、砕蜂顔真っ赤……




……………面白い





そして、しばらくの間を置いて、
夜一もニヤリと笑った



「"貴様のようなヤツに大事な娘などやれるか"」







それは遠いような近いような昔
三人で笑いながら話した内容の事

夜一がお父さんで
砕蜂が愛娘で

私が何故か近所のチャラけた男




その時も冗談めかして言ったのだった

そして案の定『貴様のようなヤツに大事な娘をやれるか』と






でも今度は冗談だと分かっている

私と砕蜂のことを本当に心底喜んでくれているのが伝わるし、



何よりも砕蜂が私をちゃんと見ててくれるから、






いいんだ



それで







多分生きているうちで一番哀しいのは


自分を見てもらえない事だと思うから....













fin