「うわっ、あの有沢だ!」

名前も知らない男子生徒が私の顔を見るなりそう言って廊下の端に寄る

あの?


あのって何だよ、って怒鳴りたい



でもキリがないからそれはしない




そう、私は見知らずの男子達に怖がられるんだ

女子生徒は尊敬の目で見つめてくるし…




いやね、理由はわかってるんだ

インターハイ行って、骨折状態で2位だったから

校長から骨折してなければ余裕で1位だったという余計な報告のせいで





正直言うとヘコむ
私だってイチ女子なんだから…







「織姫可愛い〜っ!」
「本当、食べちゃいたいっ」
「いっその事食べちゃわない?この後♪」
「お、いいねぇ。その案乗った!」

「さっすが、私が見込んだだけあるわぁ」



混乱している織姫の両隣であろうこともあるまじき会話を交わしている二人に目をやった

…呆れて物も言えない


本匠だけでも手を焼いてたというのに、
この夏、朽木さんの後に転校してきたこの女は…



こっそり見ていると朽木さんとはとても親しいみたいだった

いつもは鳥肌が立つような喋りをする朽木さんも、
彼女の前では心を許しているというか安心しきっている雰囲気だ




そんなだから、
この は朽木さんと同じような人なのかと思ってたら

大間違いだった


この下ネタ変態女王・本匠千鶴と同類だった



同類というよりも本匠の猛アタックに混乱している織姫を見て楽しんでいる、
という気もしないでないが

とにかく本匠と一緒くたになって放送禁止用語を使いまくっていた



「そうねぇ、体育館で体育着プレイってのもいいけど…」

「千鶴、それよりも教室で制服プレイの方が萌えるって」

「そうよね、最近どこもブルマじゃなくなってるし」

「うん、ブルマは必需品だよね、マニアックなSE…………」

彼女の口からそれ以上はヤバイ、聞きたくない、

むしろ織姫に聞かせたくない言葉が出ないうちに元凶の二人の頭を殴る



「「痛ぁぁいいっ!!!」」






床に蹲って頭を抱えるしょうもない人間約二名

「何すんのよっ!!」

「せめて教室でならまだしも、廊下でそんな会話すんな!」

「教室でしてたって殴るじゃない」

「当たり前だ!今以上に聞き捨てならい言葉堂々と使用しているお前が悪いわ!!」

「聞き捨てならないって…別に普通じゃないのよ」

「普通だぁ!?どの口が言うかっっ!!」




減らず口を叩く本匠の頬を抓っていたら

それまで黙っていたがボソッと呟く


「純情なんだから、たつきは」


「あぁ?」



…基本的には無口なんだと思う

それまでテンション高かったのにたまに急に静かになる時がある


何だ?
あれか

今年の転校生は二重人格限定ってことか





意味不明な発言に私は眉を更に顰めた
それに気付いたのか、はニッコリと微笑んだ

「だから、たつきは可愛いって事」


「………っっ!?」



可愛いだなんて初めて聞いた


今までの男共は私の顔や名前を見るだけで逃げていくし、
一護なんてそんな事言えるヤツじゃない




「えぇっ、私はぁ?」

すっかり取り残されていた織姫が不満そうにの腕に自分の腕を絡めて、
本気でそう聞いていた

天然だ


「もちろん、織姫も可愛いよ」



スマイル0円の勢いで織姫に向き直って微笑むに、





何だか胸がチクリとした










そうか、誰にでも言っているんだ


……皆に言ってるんだろうなぁ

千鶴に負け劣らず女好きで有名だから、
校内で同性に告白される事なんてしばしばだったし




何よりも限界まで明るい色の髪は、
校内のどこにいてもすぐに見つけられる

遠くからでもすぐに分かる


だからそれだけでも人目を引くし、
美少女と敬られている朽木さんと一緒にいると

注目を浴びて仕方が無い



一度、織姫と朽木さんと私とで遊びに行った時
何故か同じ方面からやって来た二人を見て私は思わず感嘆のため息をついてしまった




ワンピースの朽木さんに並んで、
黒系のジーンズとシャツを着こなしている

どう見ても美男美少女のカップルにしか見えなかった


キスしそうな勢いで顔を近づけて、微笑みながら話している様子はとても様になっている
それからだ

が誰かに微笑むと、
それだけで胸がちくちく痛む



ボーイッシュな私がと並んでいても、
別に絵になんかならないんだろうし…






「たっ…つき!!」
「うわぁっ!?」

いきなり耳元で叫ばれて、私は思わず仰け反った
至近距離にあるのは綺麗な顔

自分よりも少し大きい彼女に覗き込まれて顔が赤くなる



「何だよ、お前はっ」


真っ赤な顔を隠したいばかりに、その身体を押す

私が本気で押すとどんなに図体のデカイ男でもよろけるのに、
はちっとも動じない



「何だよって…ボーッとしているから」




織姫と本匠はもうすでに教室に戻って行っていた
私は知らぬ間に教室の入り口で物思いにふけていたらしい

それに付き合って私の隣で私を観察していたと言う



「どうした、おかしいぞさっきから」

「いや…別に」




そのまま黙って私の背を押しながら教室に入るを尻目に見つめた

どんなに酷い事や失礼な事を言われても苦笑してかわす


どうやったらそんなに心が広くなれるのだろうか

私だったらすぐに手が出ちゃう




「ルキア」

席で読書をしている朽木さんの処へ行ってしまった
窓の外の景色を眺めるフリをしながら神経はそちらへ向かう

「まぁたこんなん読んでんの」
「うるさい、返せっ」

どうやら朽木さんの手の中の本を取り上げたようだ
素で怒る朽木さんをかわしながらケラケラ笑っている

そんな様子にまた心が痛む


何だ、これは


またため息が漏れた





「恋だな」
「あ、やっぱり?」

「………っ!!」


またしても至近距離に顔が

それも二つ
ついさっきまで少し離れたところにあったはずなのに


「く、朽木さん、…」


「ねぇ、たつき。恋してんの?」

「…っ!?」

「おい!そんな、直球過ぎるだろ!」
「だって聞きたい事があったら直球勝負しかない」
「あのな、女心ってものをもう少し理解しろ」

「え〜?理解も何も私女なんだけど」

「あぁ、もう…。恋次の馬鹿のせいでこんな鈍ちんになったんだよ」


「んだと、この猫被り!」
「それはお前もだろうが!」
「やるかっ」
「受けて立つぞ!!」



「………あの」



「「何だ!?」」




バトルが始まりそうな雰囲気につい割って入ってしまった

物凄い剣幕でこちらを振り向く二人に苦笑する



「何の、話?」


「…え?あぁ……、だからたつきが恋しているって話」



恋?



……鯉



………いや、違うて





恋っ!!!???










「はぁっ!?恋!?」


「だってため息はつくは物思いにふけるわ…」
「これ以外に恋と言わずとて何と言うのでしょうか?」

あ、いつもの朽木さん再登場…
その隣でが身震いしていた
やっぱり違うんだね、さっきまでのが本性なんだ…朽木さん


「いやぁ、…恋?そんな訳ないじゃん」

「そうかなぁ、私に告白してきた子達もそんな状態だったと思うけど」

「……っ」




まずい、納まっていた熱が再び湧き上がってくる
顔が、熱い







「………もしかして、図星?」
「………それも相手はこんな女垂らし?」


朽木さんの一言には肘で小突いた



「そ、そんな訳ないよ。こんなガサツな女なんて誰も見てくれないし」




…自分で言ってヘコんだ



だってそうじゃないか

男も震え上がる天下の有沢竜貴を好きになってくれるなんて

K−1チャンピオンくらいしか居ないに決まっている






「そんなことないって。たつきは可愛いよ?さっきも言ったじゃん」

「誰にでも言っているんだろ?いいって、そんな無理しなくても」


「無理なんかしてない。可愛いと思ったから可愛いと言ったんだ」



「………典型の女垂らしだね、こりゃ」


何とか動揺する心を覆い隠すために朽木さんに同意を求めた

今更、とでもいうように肩を竦めてくれた朽木さんを見て、



はとんでもない行動に出た









「思ってもない事口にできる程器用じゃない!」

そして上半身を屈めて、私の机に手を突く




…ふと、唇に柔らかい感触が










なっ…








…」

目の前の顔に隠れているであろう朽木さんが呟く


ゆっくりと、離れる唇の感触
綺麗な白い顔が半端なく近くにあった




「なっ…!?」


「たつき、私は好きでもない人にこんなことしないよ」


そう言って微笑むその顔はとても綺麗だった…


教室内がザワザワとざわめきはじめる
そりゃいきなり校内ベストカップル賞とやらを貰った二人のうち、
一人が、

校内ベスト番長賞というしょうもないものを貰ったヤツに

しかも女の私に



キスしたんだから仕方ない…





って違う!!!



何した、コイツ



今!






んで、何を言った!?






好きだって?











「私もたつきの事が気になって仕方ない」



「……っ」



何でこうも恥ずかしげもなくこんなセリフを言えるんだ…




「君が好きだ、私と付き合って」






「…………なっ…」





さっきから私の口からは言葉を成さない音が漏れるだけだった

ニッコリと微笑んで、そう言う
今まで見たどのよりも綺麗だった




「……ダメ?」


「…いや、ダメとかその前にこんな男みたいなヤツじゃなくても…」


例えば朽木さん、なんて誰もが憧れる人とも親しいんだし
恋人関係になってもおかしくない

だってお似合いなんだから…




「男?何言ってんの。女でしょ。私が守ってあげたいと思ったから」

「あいにく、守って貰うほど弱くはないんだ、そこらの男なんかよりも」

「守る対象なんてその時によって違う」

「え?」


「男から、身を脅かす物事から、そして心を脅かす物事から」



全てから君を守りたい




そう言って、私の手を取って口付けた


うわ、キザ…
でもそういう行動がとても合う



顔が、熱い

その視線が、熱い


…心が、熱いっ……



「ありがとう、

















「だぁーーッ!!お前は何をしているかっ!!!」

「痛い痛い痛いっ!」


織姫にキスをしたを、私はプロレスの技で締める


「ギブギブッ!落ちるって、マジで!!」

「お前はよくも私の大事な織姫にあんな事をしやがって!」

「えっ!?そこ?怒る利点違うだろ、それは」

「自惚れるな!喰らえっ!!!」


「痛ぇ〜〜〜〜〜〜っっっ!!!!!!!!!」




勘弁してよ、マジで

この典型女垂らし


こんな私でも女として見てくれるのは嬉しいけど…





この浮気症はどうにかして欲しい





こんな変てこな関係だけど
恋人関係だと断言してくれるが、私はどうしようもなく好き














fin