……今朝から蓉子の様子がおかしい

何も無い所でコケたり、

誰も居ないのにその空間に向かって話しかけたり、

距離を掴み間違えて物を受け取っているつもりが盛大に床に落ちたり、



…おかしい




「何見ているの?」

聖の問いに私は目を離さずに



「見りゃわかるだろう」

とだけ答える
私の視線の先を捉えて、聖がふむと頷いた


「やっぱりちょっとおかしいよね?」

「いや…うん、かなり」


昼休み、溜まっている仕事を片付けたいという蓉子に付き合って
ここまで来る途中の経過を見ていたら、

本当に変だった


いつもならしないような事をしていた


人にぶつかったり


ヨロけたり


いきなり笑い出したり…




「酔ってるのかな」


「昼間ッからんな訳ないでしょうがっ!」


うん、ナイスツッコミをありがとう、聖



「じゃあやっぱり…」


「だね」


「そうか」


「うん」




ほとんど目だけで会話をして、
私は立ち上がった




「んじゃちょっくら行って来るわ」

聖にそう告げて蓉子の腕を引っ張る


「ちょっと、!?」


「はいはい、良いから行こうね」



少し赤い顔で抗議しながらも力の入ってない身体を引っ張って、
薔薇の館を出た


本当はここは男…いや恋人らしくお姫様抱っことかして行けたらいいんだろうけど


…無理だから






そんな腕力ありません







ぶつぶつと何かを呟いている蓉子を引きずりながら、
ようやく目的地へと辿りつく


「おばちゃ〜ん」


勢い良くドアが開かれた


「おばちゃんは止めなさいって言っているでしょ、この糞餓鬼!」


「いい加減自分の年認めろって…そんな場合じゃなくて蓉子お願い」


減らず口を叩きながらも、
我に返って蓉子を前に出す

「水野さん!?どうしたの!」

「どうもこうも何でもありませんよ、が…」



「どうもこうもあるわい、熱があるんで寝かしてやって」



さん貴方ねぇ、年上の人に対してそれ相応の対応って…そんな事貴方に求めても無理よね」



やっと判ったか

リリアンのボス、薔薇様とやらに対しても名前呼び捨てなんだから…



っていうか生まれてこのかた教師を先生と呼んだ事ないし





周りのカーテンを引いてくれたベッドに蓉子を座らせる


「蓉子?いい?少しでも熱下がるまでここから出ちゃ駄目だからね」

「……うん」



珍しく素直な蓉子に少し驚きながらも、
布団をかけてやった



そういえば…と

熱を出している女性は色っぽいな


江利子が虫歯になった時も心なしか色っぽかったし…




げっ

江利子に色っぽいとか言っちゃった自分に自己嫌悪




綺麗な人だとは思うけどアレはただのサドの塊だから

うん



「じゃ、私は行くけど…」

おばさんが幾つかの書類を抱えてそう言って来た後、
私の側にスススッと近づいて来た

そして耳の側で耳打ち


「間違っても病人襲っちゃ駄目だからね」

「…理性が保つ限り頑張る」



「その理性を何してでも保てって言ってるの!」


去り際にそんな事を言って私の頭を叩いて行きやがった

ちっ、校内暴力じゃないのか、コレは





ベッド脇にある椅子に腰かけて、

横になって少し楽になったのか安らかな顔をしている蓉子をこっそり盗み見る

いや、恋人なんだから堂々と見ればいいんだろうけど



こういう弱っている所を見られたくない性格だしね、蓉子は


だから今の今まで虚勢を張って来たんだろうし…





「ん………」

額に濡らしたタオルを置いてあげたら気持ちが良いのかため息をついた




…早くも理性フル総動でお願いします





…そこにいる?」


視界すらボーッとしているのか、宙に向かって手を伸ばす

それをそっと握り返してあげた


「居るよ、ここに」


顔がふとこちらに向かって、そっと微笑んでくる



「ありがとう…の手冷たくて気持ち良いわ」




「こんなんで良ければずっと付き添っているから」



「…ふふふっ」








潤っている目

火照った身体に

赤く染まっている頬

時々辛そうに吐かれる息





…おばさん、この 一生の不覚




理性が押し負けました






「ね、蓉子」



「………うん?」







「…欲情しちゃった」












「…………………っ!?」










見開かれる目に、
申し訳なさそうに微笑んでみる




そしてそのまま、唇を目蓋に重ねた


「…ん……」



目蓋から頬へ


頬から鼻へ


鼻から額へ




額から……その熱い唇へ







順に繰り返して、
そして唇に辿りつく

優しく重ねて、


蓉子の様子を見ながら




大丈夫だと思った私はそれを深いものへ変えた




「んっ!?…んん〜っ!!!」




「……っはぁ……蓉子少しつめて」


蓉子の身体の下に腕を伸ばして、それを少しベッドの中心からずらす


力無いその腕が私の肩に当たった


「ん?どした?」

ベッドの脇に腰掛けると、上からその顔を覗き込む




「本当…に?」


「うん、もちろん」







制服に手をかけて、
少しずつずらしながら鎖骨にキスをして行った






「本当…止めて、しんどいのよ」



「無理、蓉子が可愛いからいけないんだよ」



「何、その屁理屈」








理性と本能が戦っています

さて、貴方はどちらを取る?



…こんな蓉子を見たら絶対理性が勝るから



蓉子の熱と

私の蓉子への愛の熱が



混ざり合って



1つになる




















fin