「よ〜こぉ〜……」













夜も幾分更けた部屋に1人の声が響いた

部屋の主の1人である蓉子は雑誌から顔を上げて声のした方を見やる



するとそこではもう1人の部屋の主、もとい恋人がリビングへと通じる扉にうな垂れかかっていた













「何よ、どうしたの?」













只ならぬ光景に蓉子は目を見張り、ソファに雑誌を置いての側に駆け寄る

は近寄ってきた蓉子の腰に片腕を回して寄りかかる












「うぅ…酔った」


「酔った?…っ貴方お酒臭いわよ」









抱きつかれるなり顔を顰めての顔を覗き込む蓉子に、

恋人の迷惑な心境を知ってか知らずか力無くにへらっと笑った




そんな無防備な笑顔を見せられてはさすがの蓉子も怒るなんてとてもじゃないが出来なかった














「もう…こんな時間まで誰と飲んでたんだか知らないけど子どもじゃないんだから自分の面倒ぐらい見なさい」





「子どもだも〜ん、あははっ」





「ちょっ、重いわよ。ほら、そこに座って」













頼り気ない足つきの恋人を先程まで自分が座っていたソファへ座らせる


相当アルコールが入っているのか普段はクールなはケラケラと笑っていた






そして水を取りにキッチンへと向かう蓉子の手を引いて、一緒にソファに倒れ込む
















「……相当酔ってるわね」




「世話を焼くのが好きなくせに」




「ねぇ、…貴方誰と飲んでたの?」




「気になる?」












上から降って来るキスを受け止めながら、

蓉子はその背中に腕を回して訪ねた



するとは顔を少し離してニヤリと笑う



そんな恋人に蓉子はふっと笑みを零してからその顔を抱き寄せた














「貴方の女癖の悪さに何度泣かされて来たか…」



「ふふふっ、彼女を泣かして最低な恋人だね」



「それは誰の事?」



「はい、紛れも無くこの私です」












再び首筋に口付けの雨を降らしながらは小さく笑った


アルコールが入っているせいか妙に素直に告白する恋人に、蓉子は微笑みながら報復とでもいうようにその背中を軽く抓る















「で、誰?」




「…そんなにこだわる必要ないと思うけど」




「でも聞きたいの、私にはその権利があるんでしょ?」




「………金髪の綺麗な外国人のお姉さん」




「………」














自分の首筋に顔を埋めているせいでその表情を窺い知れないけれど、

蓉子は少しムカッときて膝での腹を蹴り付ける




からの愛撫は止まり、小さく呻き声をあげながらソファの上から床に落ちた












「……痛い」













今度は蓉子がその身体の上に覆い被って、その首に両手を回す

上から顔を覗き込んで少しだけ指に力を入れて首を絞めた













「それが本当ならただでは済まさないわよ?」




「んぁ〜、すいません。嘘です」




「誰?」




「金髪じゃなくて茶髪の姉ちゃん」




「…………」




「ぐえっ」












更に力を入れると、蛙が潰れたかのような声を出しては蓉子の手首を掴む


1度力を緩めてからもう1度促すようににっこりと笑ってみせると、

汗を垂らしながら苦笑するの顔が窺えた













「えっと、茶髪…」





「茶髪じゃなくて黒髪のお姉さんなんて言ったら今度こそ絞め殺すわよ」





「…………聖と令」





「…死にたいの?」





「うわぁっ、待って待って。何て言っても殺すんじゃないの!?本当だってば」













の慌てっぷりに今度こそ嘘では無いと判断したのか、

蓉子はの首に這わせていた指を解いてTシャツの裾を掴む


少しずつそれを脱がしながら眉を顰めて会話を続けた











「どうしていきなり聖と令なのよ?」



「仕事帰りに聖にナンパされたの、それで車に乗り込んだら同じくナンパされた令が乗り合わせてて」



「…それで3人でこんな時間まで飲み明かしていたって訳ね」












大人しく脱がされるがままになりながらは蓉子の綺麗な髪を1房摘んで自分の唇に寄せる


すると蓉子から軽いキスが送られた

啄ばむようにただ重ねるだけのキス









「何かあの2人もいろいろ溜まってるみたいでね、ずっと愚痴を聞かされてたの」




「愚痴?」




「そう、聖は江利子が最近ツレナイとか。令は祥子が仕事にかまけてばかりで構ってくれないとか」




「仕方ないじゃない、江利子も祥子も今仕事が軌道に乗って働き時なんだから」




「それは判ってるって、2人共。でもやるせないんでしょ」












ベルトに手をかけた蓉子の手を掴んで止めてから

蓉子の上半身を覆っていたセーターの裾を掴んで脱がせる



脱がせる途中でセーターの中に隠れたその顔が現れた時にその唇に深い口付けを送りながらは微笑んだ












「んっ…でも貴方は聞いているだけだったの?」






「……え?私?いやぁ〜私は…」















突然挙動不審になった恋人を訝しげに見やってから

蓉子は重なっていた身体を起こしての上から退いた











「…蓉子?」



「なるほど、貴方も聖と令に私の不満を吹き込んでいた訳ね」



「いやっ、不満て程でも無いけど」



「あら、じゃあ何をおっしゃったのかしら?」



「ねぇ、蓉子。この雰囲気で話をそっちに持ってく?」








自分の上から消えた蓉子を求めて、

も上半身を起こすと蓉子の腕を掴んで行為の続きを促すが


蓉子はそんな事よりも気になる事が出来たせいで近付いてくる顔を押しのけた









「素直に言ってくれたら考えてもいいわよ?ほら、言ってみなさい」



「いやぁ、勘弁してよ…。絶対考えてすらくれないから」



「あら、それ程に言えないような事を愚痴ってた訳?」



「…………えと、だから…例えば蓉子が最近お盛んだとか…」



「…それで?」



「連日だとこっちの身体が持たないから大変だ、とか……」



「………ふぅん…」







あぁ、雲ゆきが危うい




というか、100%雷雨だ

蓉子の中で豪雨が降り荒れてんだろうなぁ…










そんな事を思いながら冷や汗を浮かべは目の前で微笑んだ状態のまま変化のない恋人を見つめる


段々暗雲が立ち込めるその表情を恐る恐る覗き込むと、




その顔がパッと上がり自分を見つめ返してきた













「じゃあお盛んな私は自粛して今夜から控える事にするわね」





「えぇっ!?蓉子!そりゃない…」




「1つ訂正しても良いかしら?事に及ぶ発端はいつも貴方よ、覚えておいて」




「あ、ほらだから…言葉の文と言うか。ね?ここまで来て打ち止めなんて無いよね?」




「もう1つ教えてあげましょうか?」




「……はい?」




「こういうのを身から出た錆って言うのよ」




「………はい、ごめんなさい」













それだけ言い捨てて先程脱がされたセーターを掴んで寝室へと消えていく蓉子の背中をただ見送りながら、

はしばしうな垂れていたが冷えた身体が遠慮なく醸し出すクシャミを1つした




すっかり冷えた頭で鼻を啜りながらTシャツを着直して、



思う事は1つ


















「惨めだ…」






























身から出た錆






言葉は選びましょう――――

























fin