「それでこういう事態に陥った、と……」




「…面目ない」













ベッドの上で足と腕を組んでいる蓉子が見下ろしている先には、


床の上で土下座をしている人が居た



蓉子は今、生まれて初めてというくらいにお怒りで

恋人は今、生まれて初めて味わう恐怖に脅えている










「さて、どうしたものかしらね。これは…」



「えっ!?」



「あら只で済むと思っているんですか?」



「済ませて貰う…訳にはいかないですよねぇ?」



「当然」












恐る恐る顔を窺うの顔を笑顔で一刀両断

此処はさすが元紅薔薇様というべきの威厳で誰もを黙らせてきた蓉子に彼女が逆らえる訳が無かった



生まれた時からの付き合いなだけに蓉子の扱いは慣れているものの
数年前に恋人同士となってからは年下の筈の蓉子に逆らう術は持ち得てない










さんっ』







純粋無垢な笑顔でこちらに駆け寄ってくるあの小さな天使の蓉子ちゃんは何処に行ったのかな?

















「何かおっしゃりました?」




「っいいえっ!!」




「………」









天使は消え、代わりに地獄耳という最凶の武器を手に入れた彼女


やっぱり中学からはリリアンに行くって言い出した時に止めていれば良かったかな…



















「あの、あのさ…蓉子。コレって浮気じゃないんだからあんまりお咎めは無しでお願いします」






「…今何て言いました?」






「えと…」






「浮気じゃない?浮気じゃないって言いましたよね?」





「あ、はい」













すっくと立ち上がる蓉子に、は思わず正座をしたまま後ろへ後ずさりした

そしてそのままの前にしゃがんでそのシャツを掴む


傍から見たら蓉子がを脅迫している画にも見えたが、それはあながち間違っていない













「デートをすっぽかして何をしていたのかもう1度言ってみなさい」




「…うぁ…、あの……聖と約束していた飲み会に行ってました」




「飲み会?飲み会だったらこのキスマークは何なのかしら」




「うっ」










蓉子の掴んだシャツの襟から覘く鎖骨には真っ赤な痕がついていた

至近距離で問い詰めてくる視線が痛くて、は目を逸らしながら苦笑する











「だから、これは酔った聖が…」



さん、飲み会って合コンなんじゃありません?」



「…………違いますよ、合同コンパって奴です」






「それを、浮気と言わずして何と言うのか教えて頂けます?」














…完敗



聖に聞いた処によると高校時代も蓉子に敵う者は居なかったらしい
さすが蓉子というか











「んも〜、判ったよ。言うって。聖とリリアンの大学部の子達と合コンしたの、そんで皆まだ酒に慣れていないからべろんべろんに酔っちゃって」




「それで?」




「だから私が介抱してたんだって、そしたら酔ったうちの1人が熱烈なキスマークをつけてくれたの」

















皮肉っぽく言うと蓉子が更に顔を近づけてきた


今度はは顔を逸らす事もせずに真正面からそれを受け止める






本当にこんな近くで見ると綺麗なのだと思い知らされた



意思をしっかりと宿している力強い瞳

すらりと通った鼻

薄いピンクの唇




どれもが私の欲情を沸き立たせるには十分だった









掴みかかられたまま、蓉子の腕に手をかけてそのまま唇を寄せる

















「………逃げないで」



「逃げる?何から?」












そのままお尻を浮かせて、反対に蓉子を床に押し倒す

それでも真っ直ぐ見据えて来ながら漏らす蓉子の言葉に私は笑みを浮かべたままシャツの裾から手を忍び込ませた













「…セックスで誤魔化さないで」








「………誤魔化してなんかないよ、蓉子が綺麗なのが悪いんだ」








「嫌なの、私は。浮気とか、そういう事はちゃんと向き合って話したいのよ」










「だから、向こうも覚えてないと思うし其処に気持ちなんてお互い無いんだから浮気なんかじゃないって」









「でも、嫌。だってさんは…」





















の下で蓉子が口篭もる

段々上へと向かっていった手を一旦止めて、蓉子の顔を空いている手で包み込んだ





自分のシャツを捲って、例のキスマークが見えるようにしてみせてから

蓉子に微笑みかけた

















「大丈夫、私は昔から蓉子だけの物だから」





「…でも貴方は昔から私以外を見ていたじゃないですか」





「それはさぁ、蓉子が素直だからヤキモチさせたくてさ」





「貴方は昔からそうですね、私を困らせてそれを見て楽しんでいる」





「蓉子、好きだよ」





「だから、好きとかそういうので誤魔化さないでくださいって言っているんです」














不機嫌そうに顔を背けてしまう蓉子が、堪らなく可愛かった



小さい頃から気付けばいつも側に居て

3歳離れている2人はもう姉妹という間柄が定着していたから
ある時期から止まらなくなった胸の高鳴りが恋だという事に気付くまで時間がかかった



そして気付いてからが地獄だったのだ



ずっと当たり前に側に居たから

その気持ちを言うとどうなるのか判らなくて



もしかしたら気味悪がられたりするかもしれないって、





毎日悶々と悩んでいた時に1歩踏み出してくれたのは蓉子の方だった












『貴方が好きなんです』



『…え?』



『幼馴染としてでもなく、姉としてでもなく、貴方が…好きなんです』













震える拳を押さえながら一生懸命に想いを告げてくる蓉子が大好きだった



あれから数年

2人は同棲し出して、何時でも側に居られる関係になったのはいいけど





意外と蓉子がヤキモチ焼きな事とか

意外と蓉子が怒るとかなり怖いとか







…意外と夜の運動が好きらしいとか












……そりゃあもういろいろと、判った事があった






正直言ってお姉さん若い子についてけないよ




























「だから誤魔化してなんて無いって。もう合コンなんてしないし、他の人にキスなんてさせないから」






「…本当ですか?」





「うん、だからしよ?私がキスするのもセックスするの蓉子だけだから安心して」





「本当は私以外の女と一緒に居るのも嫌なんですけどね、其処は我慢します」





「ふふっ、出来るだけ誰かと2人きりにならないよう心がけるよ」




















愛し合う証として

約束するという誓いの触れるだけの優しいキスをした


































貴方への想いの丈を定規で測るのなら


きっと特注しても足りないくらいの大きさの物が要る




それは世界中の何処を探しても無い物











貴方への想いの丈を袋に詰めるのなら


きっと特注しても足りないくらいの大きさの物が要る




それは世界中の何処を探しても無い物





















貴方へ、この胸を開いて見せてあげる事が出来たらどんなに良いだろう
































fin