友は類を呼ぶ

即ち恋人は類を呼ぶ?


いやいや、そんな馬鹿なと言う人も居れば
そうかもしれない、と呟く人も居る




…はてさて
真相はいずこに?


















据えた空気が立ちこめる室内

ギャルゲーをやりこんでいるギャルが1人


眼鏡をかけたギャルは画面に出てくるギャルの歯が浮く台詞にいちいち文句を言っている



そんな彼女を呆れた目線で眺めるもう1人のギャルがため息を漏らした






「ゲーム相手にそんな嫌悪感抱くなら最初からやらなきゃいいじゃん」

「煩い」

「だってこんな狭い所でぐちぐち聞いていたら気分滅入るもん」





そう言いながらは部屋の電気を点け、
閉まりきったカーテンを開けて太陽の光を部屋の中に差し込む

久しぶりの光に不健康な眼鏡の女子は目を細めた







「なら貴様が出てけ、阿呆」

「そりゃないよ」





元々只の変態であるルームメイトの恋人なだけという立場のを、
綾那は冷たい言葉で切り捨てる

最もな言葉なのだが

順のように肩をがっくり落としながらはヘコんだ振りをする



綾那のルームメイトである順の姿は何処にも無く、
部屋には2人の姿しか見当たらない

は再び綾那のベッドに戻り身を潜り込ませ、
そこ等に置いてあったゲーム関連の雑誌をパラパラと捲り始める


特に内容を頭に入れている風でもなく淡々と目を通しているだけのようだ

元々綾那の正真正銘のルームメイトである順は、
大好きな幼馴染に纏わりつきに行ったようで部屋には居ない

けれどその順の恋人であるは特にやきもちする様子を微塵も見せないでいた






「クソっ、此の雌豚め!どうしてくれようか」

「綾那言葉悪〜い」

「黙れ!」



時折飛び出す言葉には苦笑しながら指摘するものの、
一喝されて終わる


特に落ち込む様子など見せずにむしろ慣れているようで

は雑誌から離さないでいた目を細めるだけだった



ふと綾那が口を開いた








、アンタさ…」

「ん〜?」



以前から節々感じていた違和感を綾那はぶつけてみる事にした

自分はテレビ画面を、
は恐らく雑誌から顔を上げずに

互いに面と向かっていないお陰でその勇気は出る








「順が居ない時と居る時、性格違い過ぎないか?」

「えぇ?どんな風に?」

「順が居る時はあいつと同じく変態で痴漢馬鹿だけど、居ないとこうして落ち着いてる」

「あ〜、何々?迫ってくれないから寂しいって?」

「…っ誰がそんな事一欠けらでも口にした!?」




ばすっ




綾那が抱えていたクッションをに投げつけたのだ


其れを顔面キャッチしながらも、
の笑い声が部屋の中に響く








「別に、只何ていうか…人間って1つしか性格を持ち合わせてはいないと思うんだ」

「どういう意味だ?」

「常に同じテンションだと疲れるじゃん?物凄く騒いでいる時と、物凄く落ち着いている時に分かれていないと」

「…そうか」

「でも、ま、こんな私を知っているのは綾那と夕歩だけだし」

「口が堅い2人だな」

「ん、そんな所かな?」

「でも順は恋人だろう?隠し事していていいのか?」

「滅相も無い、順しか知らない私も居るから。大丈夫」

「……知りたくないな」

「でしょ?」






綾菜が苦笑しながら言うと、は眉を上げて肯定を誘う


2人ともどちらからとも無く顔を見合わせて笑い出した――――――















「私は思う」





ある昼下がりの事


何時もの賑やかな昼食の席で、
黙々とカレーを食べていたが突然言葉を発した

騒がしい空気は一刀され、
を不思議そうに見る


その口から続きが発されるのを待っているのだ



はジッと向こう側の机で優雅に昼食をとっている生徒会長を見つめていた












「ひつぎはなかなかか苛めがいがあると」






判りやすく繋げると

"私は生徒会長のひつぎはなかなか苛めがいがあると思う"


学校内では決して聞く事の出来ない台詞に、
一同が蒼白になった

アンタ何言ってんの?




皆の目が物語っている

夕歩だけが静かに紅茶を啜っていた




その場に居たのは
はやて
綾那

夕歩
桃香
犬ちゃん

というお決まりのメンバーだったのだが



訂正しよう
動じていないのは夕歩だけではない

はやても首を傾げていた

つまりが言いたい事を理解していないらしい


仕方あるまい、彼女は正真正銘のお馬鹿なのだから…








「なななな何言ってんの?」

「だってそう思わない?こっちを手玉に取る事が出来たと喜ぶひつぎを逆に手玉に取ってみるのって」

「ままままままず無理だって」

「大丈夫だよ、出来る。私なら」





動揺しまくりの順に、
は何を根拠にか腕を組んで偉そうに言う

ふと何らかの気配を感じたのか向こう側のひつぎと静久が此方を見る


するとはニッコリと微笑んで手を振ったりした

2人とも少し訝しげに、
けれど笑い返し、手を振り返してくる









「駄目〜っ!!!!」

「え?」



突如順がそう叫んだかと思うと、
の身体に抱きついて其れを阻止した

其の行動には誰もが目を丸くする

遠くに居るひつぎ&静久ペアでさえ目を見張っていた






「駄目っ!は私と同じ、女子風呂を覘いたり寝ている綾那や夕歩の寝顔に萌えるキャラなんだから!!」

「へ?」

「そんな、大物を手玉に取ろうとする腹黒いキャラじゃないの!」

「…あぁ……」





やっと順の言わんとする事が判ったは鼻で笑う
そして仕方ないな、というように順の背中をぽんぽんと叩いてあげた







「大丈夫だよ、今の所静久の憧れの相手を挫くような事するつもりないから」

「そんな格好良い事言うのも駄目!駄目駄目なキャラなんだから!!」

「難しい事要求するな〜順は」






安心させようと発した言葉にでさえ駄目押しされてしまい、
は苦笑しながら後頭部をぽりぽりと掻いた





「順、に其処まで要求するのは…」

「私はいいの〜!」




綾那が窘めるものの、順は駄々っ子のように首を横に振って否定する


順の腕の中でがまぁまぁ、と綾那に手を振って宥めた
綾那の眉間に青筋が立ったのを見逃さなかったからだ






「でもさ、順」

「ん?」

「私を順と同じキャラだと思わない方が良いよ?」

「え?」




パッとの肩から顔を離して見下ろす彼女に、
はニヤリと意地の悪い笑みを見せる

夕歩が其れから何かしらを感じ取ったのか、
昼食が消えたお皿を乗せているトレーを持ち上げてその場から離れた


綾那も、あ、此れはまずいと思ったらしくはやての首根っこを掴んでその場から退散する

桃香も犬の腕を引いてやれやれと校舎内に姿を消した






1人、取り残された順はポカンとの顔を見ている








「順はこうしてマジに襲う事は出来ないでしょ?」

「…そりゃ」

「おちゃらけて冗談だと決め付けて襲う事は出来ても、マジになって襲えないよね?」

「…うん……」



赤面して俯いてしまう順の顎に指を沿え、
目線を合わせると

は囁くように至近距離で話しかける





「でも私は出来る。だから…順と全く同じキャラではない」

「ちょ、待って、タンマ。、まさか昼間っからこんな所で……」

「其処は順と同じだね、昼夜問わず迫れるのは」

「嘘、本気?」

「本気」




語尾にハートマークがつきそうな勢いで満面の笑みを浮かべ、
他の生徒達がこっちを見てひそひそと囁いているのもお構い無しに順へとキスをした

辺りから黄色い声が一気に巻き上がる


初々しい乙女達は嬉しそうに恥ずかしそうに眺めてくる

そんな彼女達にサービス心旺盛のは手を振った


更に黄色い声が巻き上がる中、順はの腕の中で顔を真っ赤にして蹲ってしまう






順しか知らない強気な面



普段自分がやっている事が自分に降りかかってくる事を、
順は心の奥で喜んでいるのは判っている

だから嫌がる彼女を無理矢理手篭めにしてしまうのも容易いのだ




は頭の隅で昨日の夕方綾那に言われた言葉を思い出した










『滅相も無い、順しか知らない私も居るから。大丈夫』

『……知りたくないな』

『でしょ?』








うん、綾那


世の中には知らない方が良い事もあるんだよ







恋人にしか見せない面と、
公衆面前で見せる面

此の違いは何だか判る?




心が篭っている、という事だよ


其れが判らない貴方はまだまだ恋を知らないんだよ
もっと恋をした方が判るだろう

其れが判る貴方は、もう充分な策略者だ

此れからも策略を練って楽しい人生を送ってね












…にしても

腕の中で大人しくなっている順


……あぁ、可愛いなぁっ

もう…夜まで我慢出来るかな…





























友は類を呼ぶ

即ち恋人は類を呼ぶ?


いやいや、そんな馬鹿なと言う人も居れば
そうかもしれない、と呟く人も居る




…はてさて
真相はいずこに?
























fin