月日が流れるのは早いものだ

あれから結構過ぎた
カルメンから連絡は来ないし、こっちからもするつもりはない。

シェーンはある日突然ふらふらと帰ってきて、弟の世話に一生懸命になっていた

自分より弟のためにがんばるシェーンは見てて微笑ましいし、少なくともカルメ
ンと過ごした日々でいろいろ学んだのであろう。


アリスは新しい目標を見つけ、
ヘレナも新しい生活に慣れようとしていて、
ベットも新しい職場で、
ティナも新しい世界で、


みんな頑張ってる。



のに、私は…








「マジで!?」
「うん」


いつものカフェ、プラネットで話題に花を咲かせていると、アリスが信じられないと目を見張って私を見た

私はカウンターでコーヒーをずずっとすすり、シェイと携帯ゲームの対戦相手をしながら頷く



「パピと会った事あるの?!」

「うん、口説かれた」

「で!?」

「ん?」




口調に力が入ってるアリスに若干引きつつも、ゲームから目を離してテーブル席を見る



ベットはアンジェリカをあやしながら、こっちを見てる

シェーンはサンドイッチをかじりながら、こっちを見てる

ヘレナは身を乗り出して、こっちを見てる

ジェニーは何やらメモ帳を手にして、こっちを見てる

それをマックスがやめなよと制止かけつつも、こっちを見てる


アリスなんかは目玉が飛び出るんじゃないかっていうくらいギラギラにさせて続きを促していた






「あ、どうだった、って事?」




なんだなんだ

みんなパピを知ってるのか?




「まぁ良い奴だと思うよ、すぐに気が合った」

「違うわよ!」

「え?」

「あたしが知りたいのはセックスがうまいのかとか…「アリス!」」




アリスがそう叫ぶと、シェーンが被せるように叫んだ

そしてちらっとシェイへと目配せしてアリスに過激な事を言うなとアイコンタクトで告げた



「シェイ、セックスって知ってる?」

!!」




なんとなくゲームをする手を休めずに聞いてみると、シェイは首を横に振ったけどシェーンが立ち上がり指を指して牽制してきた

ニヤリと笑って返すとシェーンは信じられないと首を横に振りながら、座る



「今更っしょ、アンジーだってさ」

「まだわからないわよ、言葉を理解してくるようになったら私もシェーンと同じことするわ」

「アリスと私からしてみると肩身狭いな」

「そんな事どうでもいいの!パピはどうだったのよ!」



肩をすくめて言うとベットが苦笑しながら言った

やれやれとため息を吐くとアリスがテーブルをバンッと叩いて問い詰めてくる



「寝てないからわかんない。あいつの仲間によるとうまいらしいけど」

「寝てない?アンタが?」



首を傾けて答えると、ヘレナが信じられないと口を開けた

一応私はシェーンに次ぐプレイガールで名が通っているらしい




「うん、あぁシェイ、ここどうやるんだ」

「ここをこうやって進んでけばできるよ」

「おお、ありがとな。あ、キット、ヘレナにアイスコーヒーあげてよ。私にツケといていいから」

「それは構わないけどちゃんとツケ払ってくれるだろうね?」

「うん、ポーター学部長が」

「嫌よ」

、私はいいから」



キットがニヤニヤしながら言うので、そのまま親友に押し付ける

するとデキる女、ベット・ポーターは即答で否定した
ヘレナが苦笑しながら私へと手を上げて遠慮するけれど

一瞬間を置いてから、手をアリスへと向けて口を開く



「じゃあアリスからのパピの情報料で奢るよ」

「結局あたしが払うんじゃん!それに情報料払うほど提供してもらってないわよ」



憤慨そうに言うアリスにニヤリと笑って続けた



「じゃあいい事を教えたげる」

「ん?」

「パピの親友にターシャってのがいるんだが…アリスのタイプだよ」

「あ、マジ?って違う、そういう事じゃない!」

「じゃあ自分で寝てみればいいじゃんよ」

「…」




だんだんめんどくさくなってきてそう言うとアリスは考え込んでしまった


おいおい、冗談だろう

ため息を吐いて首を横に振ると、シェイの頭をポンと叩いてから店の裏口に向かう




!この店ではクスリ一切禁止だよ!」

「やらないよ、この店では、ね」

!!」






キットの声を背中に受け止めつつ、頭を掻きながら裏口から出た

外の空気は冷たく、私の肺を刺激してくれる



深呼吸しながら壁に背中を預けて座り込む

いつもの様にポケットから白い粉を出して、広げたティッシュの上に真っ直ぐに線を描く


そしてチューブで鼻からそれを吸い込んでいく


ガンガンと頭がヒビ割れる様に痛い


でも、

気分はとても良い







煙草に火を点けて住宅街を見回す


いそいそと歩いてくサラリーマン

楽しそうに仲間達と話しこんでる少年達


いろんな人達がいて

こんなちっぽけな私なんか消えてしまえばいいんじゃないかと思ったりして





そんな事を考えていると、道路の向こう側から見知った車が曲がってきた






「…げっ」




その運転手と目が合うなり、私は再び裏口の扉を潜り抜けて店内へ戻る

キットの鋭い視線はあえてスルーして、
賑やかに話をしている皆の元へ

そしてベットの影に隠れるように隣の椅子へ滑り込んだ




「どうしたの?」

「しっ」



不審そうに眉間に皺を寄せるベットに、静かにするように合図をする


変なのはいつもの事、と諦めたのかベットは再びアリス達との会話に戻っていった

そしてしばらくすると、
丁度向かい側に居たシェーンの顔がみるみる青ざめていくのが見えた


その目は正面扉へと向けられている





「カルメン!!」




ジェニーの驚愕に満ちた、そして嬉しそうな声に

一同の目が一斉にシェーンと同じ方角へと向けられた



嗚呼、やはり見間違いではなかったのか



「久しぶりね!」

「うん、久しぶり…」

「どうしたの?」

「ちょっとね」



アリスも嬉しそうに挨拶するがカルメンは心ここにあらずといった感じで受け答えをした



ヘレナがニコニコ微笑みながら問いかけるが、

カルメンの目は1人を捕らえると途端に険しくなった





「…ん?あぁ、やぁカルメン」



呼ばれちゃしょうがない

似非笑顔を貼り付けて手を上げると、その顔は更に険しくなった


彼女はツカツカと私の前へ詰め寄ると腕を掴んでくる




「また裏で吸ってたわよね」

「煙草をね」

「いいえ、違うわ」

「違うわって」




あまりの気迫に若干冷や汗を流しつつも、
咥えていた煙草を見せるように掲げると静かにカルメンは首を横に振った

そんな事言われても、と煙草を再び咥えて煙を吐き出す


明らかに今吸ってるのはこの煙草だ






すると隣でベットの盛大なため息が聞こえた

ほっとけ






「…ちょっと借りるわ」

「どうぞ」

「え?ちょっ、待っ…」





ちょっと待てよ


おかしいだろう

何故カルメンは真っ先に私の所へ来るんだ



その前に、其処でポカンと口を開けているシェーンと話す事が沢山あるんじゃないのか



けれどカルメンはシェーンには脇目も振らず、
私の腕を掴んだまま店から出てしまった














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