賑やかな通りへと出るとカルメンは何も言わずに、私の腕を放した



とりあえず…

ここじゃなんだから



同居させてもらっているベットの家へと誘う


彼女は目を合わさずにただ肯定の意を込めて頷いた




鍵を差し込み、ドアを開くと中へ入るように促す

そしてカルメンの後について入り、彼女を観察するけれど
口を開く様子もないを察してプールの方へと向かった

プールサイドに置いてあるチェアに寝転がり、煙草を咥える

するとカルメンはやはり神妙な顔つきでプールサイドへと出てきた





「…」

「…」




会話も始まらずにただ微妙な空気が漂う


煙草を咥えながら目を閉じるをカルメンは見つめ続けた





何故こんな事になってしまったんだろう――――


それは何度も何度も思った事

あの日突然崩れた幸せな日々




希望



全てが闇に消えた


シェーンを恨んではいない


ただひとつだけ気がかりだったのは

他ならないこの子の事だった



彼女は出会った時から独特の空気を纏っていた

皆に笑顔を振りまく


皆に好かれる




けれど、心は孤独で


独りで泣き叫んでいるようにしか見えなかった







そして隣に住む彼女がクスリを吸ってる所を見つけてしまい、

ベットに相談したら抜けさせるのを手伝って欲しいと言われた


私なんかが力になれるとは到底思えなかったけれど


それでもは私の言う事はきちんと守ってくれた



約束は必ず守ってくれていた

シェーンが約束を破る度に、貴女のそんな所に安心できていた







けれど1つだけ守ってくれなかった約束があった



それがまたクスリに手を出した、という事









どれくらいの時間が流れたんだろう

身動ぎしないは寝てしまったのだろうか


指に挟まれた煙草はほとんど灰になっていて、
ぽとん、と地面へ落ちていった


その煙草を取り上げて灰皿に捨ててから空いたスペースに腰を下ろして頬に手を添える










「貴女は私との約束は絶対に守ってくれたじゃない」














なのに…


どうして破ったの?









その思いは口に出ていたのか

けれど自然と涙がこぼれる


彼女の額に、額をくっつけて祈るように目を閉じた








「先に約束破ったのはカルメンだろ」







その声に驚いて体を離そうとすると、

いつの間にか腰に腕を回されていてそれは叶わなかった


手首を掴まれて更に固定される






「私が約束を破った?」

「ずっと一緒にいてくれる、って約束」

「え…?」






目を見開くと

は弱々しく微笑んだ




「覚えてないか」

「?」

「酔った席で、だけど約束してくれた」

「…」

「凄く、凄く嬉しかったんだよ」



「なのに、君は行ってしまった」

「……」

「だったらもう…クスリに頼るしかないじゃないか」




一筋の涙を溢しながら告げる


すぐに目の前にいるというのにそんな彼女は今にも消えてしまいそうだった

両頬を両手で包み込み目蓋にキスをする


けれどそんなカルメンを、は押し戻す



まるで拒絶するかのように





「わかってる、もうあの頃には戻れないこと」

…?」

「だからもう私に優しくしないで」

「何を」

「少しでも優しくされてしまうと、泣きたいくらいに嬉しくなってしまうから」

「…っ」

「また、叶わぬ日々を願ってしまうから」





だから、ね?と

は身体を起こしてカルメンの肩を押す




気づいてしまった




先程からのの言動で


彼女の想いが自分へと向けられている事に、気づいてしまった









「愛してたよ、カルメン」

「………」

「約束する、もう君の前には現れないと。そしてこの約束は絶対に破らない」

、それはっ」









カルメンが何かを言おうとするのを、唇で塞いで止める




いつも目の前で別の誰かと重ねていたこの唇

その度に胸が焼け焦げるような気持ちになっていたのを知っている?



ねぇ、カルメン








ずっと焦がれてた



ずっと触りたくて

抱きしめたくて

キスしたくて




何度も何度も夢に見た彼女を今、この腕の中に封じ込めてるのが嬉しくて





そして、これが最期なんだと思うと悲しくて


















最期のキスは煙草の匂いが、した……――――――






















幸せで


悲しい時間は終わろうとしていた




私はそっと顔を離して

別れの言葉を告げようとした



すると





首に腕を回されて再び口付けられた


驚きに目を見開くも、やはりその感触は温かくて気持ちよくて

しばらくして、息を切らしながら顔を離すと


カルメンは悪戯そうに微笑んだ







「勝手に終わらせないでよ」

「へ?」

「私はまだ怒ってるのよ、クスリにまた手を出した事」

「あぁ…」

「でも私も約束を破ったのよね、これでおあいこだわ」

「…」

「だから、もう1度チャンスを与える」





相変わらず至近距離で言う彼女に首を傾げる

するとカルメンは私の肩口に顔を埋めて続けた




「もう2度とクスリはやらないで。そして、私にももう1度チャンスをちょうだい」

「?」

「もう2度、貴女から離れない」

「カルメンッそれは…」




最後の台詞に思わず身体を離して尋ねようとするけれど、


再び彼女の唇によってそれは遮られてしまった









なんだかとても嬉しくて

身体を反転させて、より強く彼女を求める


耳元に口を寄せて囁く






ねぇ

自分が何を言ってるかわかってる?






再び身体を反転させられ、上になった彼女は私の額にキスをしながら答えた






何が?







だから、彼女の耳を軽く噛んで反抗してみせた







それってプロポーズじゃないの?







すると彼女は笑った

私の胸の上で、おかしそうに身体を丸めて笑う








ええ、そうよ

貴女は私がいないと何も出来ないじゃない






シェーンは?






愛した人よ

過去の人なの
彼女には新しい道を歩いて欲しい








まぁ…でも

シェーンが君にまた言い寄ってきたらはっきり言うよ
私の、だから手を出すなよってね













私がそう言うと

カルメンは至極嬉しそうに顔をくしゃくしゃにした












I love you...







me too..





















































後日










「ちょっと、

「…んぁ、おはようベット」





朝の日差しが眩しくて目をしょぼしょぼさせながら挨拶すると、


目の前には不機嫌なベット

仁王立ちで、眉間の皺が凄い






「貴女ね、私の家でセックスしないでよ」

「え?」





その台詞に驚いて、身体を起こすと

同時にゴツッという鈍い音がした


どうやら腕の中にいたカルメンがソファから落ちたようだった





「げっ、カルメン!カルメン!?」

「…っ…」

「大丈夫!?」

「…最悪な目覚め方だわ」




頭を摩りながら言う彼女は当然裸で


あ、自分も裸だった、と気づいて

身に着ける物を探すけれど昨夜と同じプールサイドな訳であってシーツも何もない





と思ったら眼前に真っ白な光景が広がった


ベットがいつの間にかシーツを持ってきてくれてたようで、

カルメンの身体に慌てて巻いてから自分の身体を適当に巻く



するとそれまでしかめっ面だった彼女はふと微笑んで、ソファの空いてる部分に腰掛けてきた





「でも、まぁカルメンだから許すわ」

「んぁ」

「これで貴女もクスリ漬けの日々とはおさらばね」

「…うん」






照れくさそうに言うと


ベットはくしゃっと笑顔になって私を抱きしめ、頬にキスをしてくれた―――――――

























fin