私は昔から貴方には勝てないの





どんな事でも直ぐに身に着けてしまう私は、

私より優れている人を見た事はない







けれど、貴方にだけは勝てないの
























「今度は何にハマってるの?」








部屋に来るなり机の上に錯乱している物を見て蓉子は苦笑する

学校の鞄を床に置くとコートも丁寧に畳み、置く




江利子はベッドに座って誇らしげに机の上にある物を見せる













「ジグゾーパズルよ、ハマっているとまではいかないけれど兄貴がくれて最近暇な時にやってるの」


「へぇ…此れは何の絵になるの?」


「何かディズニーのアニメのキャラよ」


「何かって…目標も良く知らないで良く出来るわね。此れは、あぁ…マーメイド」











さも興味なさそうにパズルが入っていた箱を投げて寄越す江利子に蓉子はまたしても苦笑して、

箱を見て絵の完成図を示す




江利子は江利子でベッドに寝転がりながら只「ふぅん」とだけ返す


そんな彼女の傍らに寄り添うように蓉子はベッドに腰掛けて顔を覗き込む












「興味ないの?じゃあ何のためにパズルなんてやるのよ」


「何のヒントもない物を1つ1つ当てはめていくのが面白いの」


「難しすぎないかしら、其れは」


「そうね、現に今行き詰っているもの。幾ら考えても判らないのよね」


「だから絵を見ながらやれば…」


「其れだと負けたみたいで悔しいじゃない」


「負けたって」













笑いながら言う蓉子の腰を引き寄せて腿に頭を乗せると、江利子は悪戯っぽい笑顔で見上げる













「なら蓉子やってみなさいよ、案外出来るかもしれないわ」


「パス、私そういうの苦手なの」


「判らないじゃない、貴方は努力家でしょう?時に努力は才能を超える事だってあるのよ」


「自分の事を才能があると言い切れる人に私は一生敵わないわ」


「どうかしらね」






「其れより江利子、今日こそ私は上よ」


「……どうぞお好きに」














淡々と呟く江利子の両肩に手を置いて卑屈に微笑む蓉子

そんな親友兼恋人の笑みに江利子は諦めの意を示して目を閉じる






そんな眠り姫に蓉子は気持ちを込めてキスを送る

触れるだけの優しいキスをしているその時、ふと江利子に後頭部を掴まれてもっと強くキスするように押し付けられた














「…っ!?」


「ん……」












驚きに目を見開くと江利子は不適の笑みを構えていて、

蓉子が焦るのを見て楽しんでいる












「ちょっ、江利子っ……んぅ…」




















何時しか蓉子が言っていた


言いように玩ばれているのが悔しい、と




何を言ってるのか、と思った






蓉子が可愛いんだから悪い


私は悪くない










そう、私のルールが全てよ

私を取り巻く周囲は、私のルールに従って生きて貰うのよ




































ぱち…ぱち……











夜も大分更けた頃、奇妙な音を耳にして江利子は瞑っていた目をうっすらと開ける

すると勉強机に取り付いている電気スタンドが光を放っていて、
その光が恋人の後姿を照らしていた





裸にYシャツを1枚羽織っているだけの蓉子は、何やら机上の物に夢中になっている




其れが自分の放棄したジグゾーパズルだと気付くのに時間は掛からなかった

何とあれだけ考えても集中しても判らなかったパズルとリズム良くぱちぱちと嵌めていっているではないか














「蓉子」


「あぁ、起こしちゃったわね。ごめんなさい」










律儀にも謝罪をしてくる真面目な蓉子に苦笑しながら、

自分の身が裸だろうが構わずベッドから出て蓉子の背後に立つ


机の上を見るとパズルは後1欠片を残してほとんど完成している









「凄いわね、貴方…短時間で此処まで仕上げたの?」


「周りの枠は出来ていたからそう大変じゃなかったわよ」


「でも私があんなに頑張っても無理だったのに」


「頑張ってなどいないでしょう?遊び半分でやってたら幾ら考えても無理だわ」


「どういう意味?」


「努力をする人間は何に対しても真剣に考えるからこなせるのよ」


「…難しいわ」


「才能のある人間は何に対しても軽率に見るからこなせない物も出てくるの」














そう言って得意げに微笑みながら、

蓉子は最後の1ピースを電気スタンドに翳して見つめる


しばらくそうしていたかと思えば、そのピースを私に渡して来た














「貴方のなんだから貴方が仕上げなさいよ」



「……貴方って損する性格よね、美味しい所を取ろうとは思わないの?」



「いいの、努力は才能に隠れてしまうけれど其れが運命だから。貴方が歩きなさい、才能だと褒め称えられる道を」



「…はぁ、いいわ。2人で嵌めましょう、2人の力作よ」



「……江利子にしちゃ良い案じゃない」














そんな蓉子の手を掴んで、一緒にピースの端を掴む



そしてゆっくりと最後の空いた部分に押し嵌める













……ぱち






































私は昔から貴方には勝てないの





どんな事でも直ぐに身に着けてしまう私は、

私より優れている人を見た事はない







けれど、貴方にだけは勝てないの















貴方は努力家ね



私は才能家よ













でもね




才能は凄いとは言われるけれど、

其れ迄の経緯とかを褒められる事はないわ





その点、私は貴方に敵わないの










もっと自分を誇りに思いなさい




ねぇ、蓉子?









私は貴方を尊敬しているの


敬ってるのよ?











この鳥居江利子が、よ?
















それ自体誇りに思いなさい







私に愛されている事

私に大事にされている事

私に尊敬されている事

















そうそう居ないわよ、そんな人間










胸を、張りなさい




























fin