何故、私は規格外の身長を持ってしまったのだろう
大抵の男性も見下ろせる

体育の時間とか学年が揃うと突飛抜けて目立つからたまったものじゃない

授業中ですら居眠りなどできないんだから…





何よりも悲しいのは、好きな人からキスをしてもらえない事

いつも私からするから……


…だって女の子だもん、じゃないけど私だって夢見る訳よ




唯一、170cmはある黄薔薇様と並んでいる時は改めて見上げられるような事もないけど

そんな機会滅多にない



それに、私の好きな人は女性の中でも比較的小さい方という悩みの尽きない種だったりする



さてと、どうしたものか


こんな事口が裂けても死んでも言えやしない…




けど



由乃さまや志摩子さま曰く前白薔薇様の意思を継いでるように、
セクハラ親父化している祐巳さまにこの事が隠し通せる訳が、無かった





「可南子ちゃん、どうかしたの?」

放課後の薔薇の館

別に山百合会の住人じゃないけどたまに乃梨子に頼まれて手伝いに来てた日だった
挨拶だけしてその後ただ単に黙々と仕事をこなすだけの私を不審に思ったのか、
祐巳さまがそう訪ねてきた

ただ首を横に振って否定だけする



「いえ、何でもありません」

「……そう?」


それだけ交わすと、また薔薇の館に静穏が甦った

そんな状態が5分も続くと、さすがに祐巳さまが気になって、
ちらりと窺ってみる


と、そこには先程までの姿は無く…



慌てて辺りを見回そうとしたその時






「うわっ!?」



首元に抱きつかれる感覚


恐る恐る首だけ後ろを振り返ると、

満面の笑みを浮かべた祐巳さま





な、何やってんですか、この人は…




「可南子ちゃんやっぱりおかしい」

「はい?」


「何か言いたい事でもあるの?お姉さんに話してごらん、ん?」




そう言いながら耳を私の頬に摺り寄せる

うわ、そんな事されたら恥ずかしい通り越して…


胸がくっ付いている!




良からぬ想像に私は鼻を押さえた



無意識なのか、確信犯なのか……





こんな事を前白薔薇様とやらはやってたのかな







「おっ、おかしくなんてありませんて!」


「い〜や、私の目に嘘は通用しないよ」



「……どこからそんな根拠が出てくるんですかっ!?」










断じて引かない私に、祐巳さまは考える素振りをしてみせた

しばらく返事がないのを不穏に思って、再び振り返ろうとすると、



今度は









「っ…!?何してんですか!!」


「言わないともっとやっちゃうよ?」



何処か面白そうに呟く祐巳さまの唇は、私の耳に当てられていた
そして前に回されている手はセーラー服のタイを解こうとして…


ん!?



解こうとして!!?




「なっ、なななななっ!!!」



「な…にぬねの?」


「そうじゃなくてっ!そこまでする必要性があるんですか!」


言葉を性格に発せない私に便乗して、
そんな事をほざく祐巳さまに肝心な事を伝えた



「ある」



それだけ断言して私の行動を見守っているのか、
それ以降の動きをしない彼女に諦めのため息をつく




「わかりました、言いますよ、だから離れてください」


「はぁい」




軽やかに私から離れる彼女の顔を正面から見れないまま、


私は意を決して言ってみた




…恨みますよ?前白薔薇様とやら






「その…キス、して欲しいんです」



「え?すればいいじゃない、ほら…」


顔を突き出して、私の前にスタンバる祐巳さまを慌てて手で押しやる



「違いますっ、そうじゃなくて…して、欲しいんです」

「して、欲しい?」

「えぇ、いつも私からでしょう?だからたまには祐巳さまからして欲しいんです」

「………」

「ほら私はこんなに背が高いからして貰うなんて出来ないんですよ、黄薔薇さまぐらいじゃないと」



「……じゃあ令さまにして貰えば?」





私の言葉の例えを、そのまま受け取ってしまった彼女は少し怒ったように明々後日を向いてしまった

う〜ん…鈍い



「違いますよ!祐巳さまにして貰いたいんです、でも私と祐巳さまとじゃ身長差があり過ぎて無理だと分かってますから」




「…無理じゃないでしょ?」



「え?」



そう言うが早い、祐巳さまは座っている私の肩に手をかけてきた

そして、唇には暖かい柔らかい感触



あ…




「ね?座ってたらしてあげられるよ」


「そう…でしたね」




盲点だった


いくら私でも座っていれば祐巳さまの方が大きい






こうして、貰えば良かったんだ…






「お願いがあります」






「ん?」




「キス、もう一回してください」








「ふふっ、かしこまりました。お姫さま」








こんな私をお姫さまだなんて言ってくれるのは、



世界中でたった一人、大好きな人…
















fin