ずずずっ




「違う違う、令。それは炭酸で割るんだよ」

「あっ、すいません!今やり直します!」

「いいわよ、それで。飲んでみたいわ」



ずずずっ




「え…蓉子、それ不味いと思うけど…」

「蓉子さま、すぐに作り直すのでもうちょっと待っててください」

「全く…、貴方は料理はできるのにお酒に関しては疎いのね」




ずずずっ




「料理すら何も出来ない祥子に言われたくないわよね?令」

「………」

「蓉子さま、いいんですよ、それは私の仕事なんですから」





ずずずずずずず〜〜〜っ






目の前で和気藹々と楽しげに会話を繰り広げていた四人が私を見る



「由乃…仮にもリリアン卒業生なんだから音を立てて飲むのはどうかと思うけど…」


「…………」




なんなの、コレは

そりゃ学生時代から仲良かったんだから付き合っている事ぐらいは想像してたけど




……何で私の知らない処でこのカップル二組は仲良くなっているの?




「由乃さん…」


隣で祐巳さんが苦笑いを零しながら私を制する
私は咥えていたオレンジジュースのストローを離して

それとなく令ちゃんを睨んだ



「何?何で機嫌悪いの、由乃。さっきまで元気だったじゃない」


学生時代から変わらない心配性な令ちゃんは、
蓉子さまのサワーを作り直しながらそう言ってきた





「そういや祐巳ちゃんと由乃ちゃん、恋人とか出来たの?」


蓉子さまが何もかも察したように問いかけてくる



……気に食わない



「えっ!私はそんな進展なんてありませんよ!?」


「貴方は可愛いから言い寄って来る人なんてたくさんいるでしょう?」


「いっ、いいえ!私なんて全然言い寄って来る人なんていませんよ!?」



自分の姉に慌てて訂正する

祐巳さんも祐巳さんだ



なんか…こう…


無い訳?








「そんな事ないよ」

聖さまが苦笑してそう返す



祐巳さんと聖さまはお二人が高校2年生と大学生という時に、

一度だけ付き合った事があった
それは半年だけの事

お互いそれは上辺だけの付き合いと気付いた後に、

自然消滅と似たようなカタチで別れたと聞いた


そしてその後聖さまが本当に好きだったのは蓉子さまだと気付いて、
二人は長年の友人関係から恋人になったと

それを聞いた祐巳さんの顔はとても複雑なものだった


聖さまも複雑だったんだ…



祐巳さんを傷つけたと思って







「由乃ちゃんは?」


可笑しそうに祐巳さんを眺めていた目を、
私に向けて蓉子さまはそうおっしゃった



「居ないよね?そんな話聞いた事無いし」




令ちゃん

私は自分の身の周りに起こった出来事を全て令ちゃんに話しているとは限らないわよ



…でもその通りなんだけど





「居ないでしょ〜、由乃ちゃんは。令にひと筋なんだから」




図星を笑いながら言う聖さまに、


私はつい




対抗してしまったんだ






「そんな事ありません!私にだって居ます、恋人ぐらい…」





言い終えかけた辺りで私はしまったと自分の口を塞ぐ


カウンターでビックリしている蓉子さまと、祥子さま

カウンター内で呆気にとられている聖さま

その横でショックを受けた顔をしている令ちゃん


そして、テーブルについている私の隣で口をパクパク言わせている祐巳さん




一通り見回してから、

後悔の念に抱かれる




……こうなったら






祐巳さんの腕を抱いて、微笑む




「実は付き合っているんです、私達」






「「「「「………えぇっ!?」」」」」


そこで一緒に奇声を上げたら全部パァでしょう、祐巳さん

掴んでいるその腕を強く握った






「あら、そうだったの…」

「祐巳、何で言ってくれなかったの?」

「へぇ」

「ゆ、祐巳ちゃんなら安心だよ」






…あ〜あ、信じちゃった


聖さまだけは何か意味有り気な雰囲気を含む空気だったけど




引くに引けない…







「いやっ…あのっ……由乃さんっ!?」

一人未だに混乱している人発見


「嫌ね、そんな照れる事ないじゃない」


もうこうなったら有無を言わせずに道連れにするしかない


ごめんね、祐巳さん



5年経っても青信号島津由乃は健在なのよ













「じゃあ今度6人で何処か行きませんか?」

祥子さまが心なしか嬉しそうにそうおっしゃられると、
令ちゃんと蓉子さまと聖さまも同意する


「うん!そうだね、ここんとこ仕事ばかりでろくな所行ってないしね」
「たまには息抜きも必要って事ね」
「いいね、行こうか」



………………





「ええ!是非行きましょう!祐巳さんとも前から皆とトリプルデートしたいと話してたんです」















日曜日

空は快晴



まるで私達を応援でもするかのように…





…別に応援してくれなくてもいいんだけどね






「じゃあ、誰が運転する?」

仕事の関係で大きな荷物を運ぶ事の多い令ちゃんのワゴンを前に聖さまがそうおっしゃられた

聖さまや蓉子さまの車では6人を乗せるには小さいし、
祥子さまの車は半端なく高いものだから運転するのが怖い、と蓉子さま達の申し出に却下され




この真っ赤なワゴンになったのだ






「あ、私がしますよ?」


私の車なんですし、慣れてますから…と令ちゃんの申し出を聖さまが却下なされた




「ダメダメ。令は昨日遅くまで店番頼んじゃったから少し寝た方がいい」

そう言われてみると少し目の下にクマらしきものがある



…って、令ちゃん本業はケーキ作りでしょ

何で当たり前のように聖さまのお店で働いてるのよ




「じゃあ私が」




皆疲れているから、とか免許取りたてだから、とかワゴンは苦手だから、とか…

なかなか決まらないメンバーに私は煮を切らして申し出た





「「えっ…!?」」



…何よ、その反応は

そこのお二人


子狸さんとヘタ令ちゃん





だんだん青皺が顔中を支配していく二人を睨んで、私は聖さまに突き出た





「私なら大丈夫です」



「そう?ならお願いするよ」








早速車に乗り込み…

助手席にはナビ係の聖さま

後ろには蓉子さまと祥子さま

そしてその後ろに更にあるスペースには令ちゃんと祐巳さんが座った




……そんなに怖がらなくてもいいじゃない

お互いを抱き合って私を恐ろしいものでも見るかのように見てくる





目指す先は大きなショッピングモール

少し買いたいものがあるという皆の一致団結によって決まった場所だ


エンジンをかけて、サイドブレーキを引いて、ギアをドライブに入れ替え、アクセルを踏む




車は少しずつ発進し始めた








…前の車が遅くてイライラする


もう!



抜いちゃえ!!





「危ないっっ!!」
「「……っ!?」」
「「由乃(さん)〜〜〜っ!!!!」」







あっ、割り込み!


この私を追い抜こうなんていい度胸じゃない!!

抜かせないわよ!




「うわぁっ!?」
「「…………っっ!!!」」
「「由乃(さん)!!!?」






…あそこに居るの、誰かに似てる


江利子さま…!?

えっ、嘘!どうしてこんな処に!?


………違ったわ



おっと、危ない危ない、信号だったわ





「由乃ちゃん、ちゃんと前見て!!!」
「「……」」
「「由乃(さん)……」」





黄信号?


大丈夫よ、他に車ないもの


行っちゃえ!



「○×*#%&!?」
「「…………っ」」
「「由乃(さん)!!!」









目的地到着〜!!

あ〜、やっぱり運転は楽しいわね
何故かすっきりするもの



…それにしてもどうしてこの人達はこんなぐったりしているのかしら




「きょ、教訓だねこれは」

「心臓止まるかと思ったわ」

「だから嫌だったんですよ、由乃に運転させるのは」

「だっ、大丈夫ですか、お姉さま!」

「…聖さま以上に悪いわね、これは」





失礼なことをほざく人達は置いといて、私は嬉々としてお店の並ぶ方へ向かった



「お〜い、由乃ちゃん、恋人は置いてけぼりかい」





はっ




…そうだったわ、今日の目的はそれだったわ




急いで皆の元へ戻ると、祥子さまの側から離れたがらない祐巳さんの腕を引いた

小声で本当にやるの?なんて訪ねてくる彼女に、
私の辞書にブレーキという言葉はないわ!と断言してやった


「シャレにならないよ、それは…本当にないんだもの」


「うるさいわね!さぁ、行くわよ!」






ちょっと欲しいもの


それは私の場合、セーターだった
最近少し寒くなってきたからそろそろおニューのセーターが欲しかった



そう言うと、令ちゃんが店先で物色してた私に慌てて咎めてくる





「セーターなんて私が編んであげるよ!勿体無いよ、買うのは」



あ〜あ〜


この鈍感令ちゃん!



祥子さまが苦笑してこっちを見ているに何で気付かないかなぁ





「私なんかよりも祥子さまに作ってあげなさいよ!」




はっとしたように自分の恋人を振り返る
そして慌ててフォローし始めた

そんな私の気遣いもお構いなく、聖さまがニヤニヤしてちゃちゃを入れだした




「じゃあ私に作ってよ、とびきりあったかいやつ」

「…蓉子さまに作っていただいたらいいじゃないですか」

「蓉子には無理だよね〜?時間も業もないもん」

「……そんな事ないわよ、やろうと思えば」

「えっ!そうなの?……じゃあ何でその時間を私のために割いてくれないかなぁ」

「割いている事になるじゃない、貴方のための物を作っているんだから」

「そうじゃなくてだね〜、私とイチャイチャする時間を作ってほしいんだよ。わかってないなぁ、蓉子は」

「……これ以上作ったら私の身体が持たないわよ」

「そんな色魔みたいな事してるんですかっ!?」

「してないよ!人をそんな軽蔑した眼差しで見ないでくれない!そこの3人!」

「よく言うわよ、このエロ親父」

「フォローできません、聖さま」

「あまりお姉さまを困らせないでくださいね?」

「…っ祐巳ちゃぁんっ!!」

「令さまと同じく、フォローできません。根っからのエロ魔人だし」

「魔人って、レベルアップしてる!」








………また置いてけぼり



もういいや



この人達は置いといてあのセーター買おうっと


私がお店の中に入ると、5人はぞろぞろとついて来た
そこで待っててくれたって十分なのに


何で来るかな



そんなことしちゃったら…




ほら









「見て見てっ!ほらあそこ、今入ってきた団体さん…」
「うわぁっ、美男美女!」
「凄いわねぇ、完璧な人なんて居たのね」




どこもかしこもそんな事で囁かれている




だから、正直言うと嫌なんです
この人達と歩くの…


令ちゃんと二人だった時は自慢に思えてたけど、
今は人数が比じゃないからうざったい事にこの上ない







お嬢さん達

完璧なんかじゃありませんよ?

一人はセクハラ親父に
一人はヘタレに
一人はヒステリーに
一人は子狸に

……あ、蓉子さまって完璧かも



江利子さまだったら悪口なんて腐る程出てくるんだけどな


デコとか


デコとか




デコとか…




クスッ








さっきから聖さま達の事が気になって仕方ないのが明らかな店員さんを急かして、
セーターの会計を済ませて貰う





「はい、行きますよ〜」



そう言いながら皆の背を押して無理矢理お店から出た







「う〜ん…由乃ちゃん10点!だよね?令」

「えぇ、残念ながらそれくらいです」




「はぁ?何がです?」


表に出るなりそう呟く聖さまと令ちゃんに私は訝しげに振り向いた


聖さまはニヤニヤと笑って、前を紅薔薇ファミリーが歩いている中を指す
向けられた先は、祐巳さん




「つまりね、祐巳ちゃんに対する気遣いがなってないって事だよ」


「…それで10点だと」


「うん、恋人ならレディをエスコートするのは当たり前だからね」


「聖さま、恋人じゃなくても完璧なくせに」


「そりゃもちろん!恋人でもない人をエスコート出来ないくせに恋人にできる訳ないじゃない」




憎まれ口を叩いても通用せず、グッと親指を立てる先輩にため息をついた

疲れる…



「まぁ、由乃も祐巳ちゃんの恋人なんだからちゃんと気遣ってあげないと」



そう言いながら、祥子さまの方をやんわりと見つめるその目は

まるで恋している乙女そのもの


………幾つよ、令ちゃん

その初恋をしている女の子の目は…






「蓉子〜、そろそろこの辺でお茶しない?祥子だって冷たいもの飲んだ方がいいだろうし」





先頭陣にそう声をかける聖さま

なるほど、さり気無く祥子さまだけでなく蓉子さまの事も見透かしているんだ

何だかげっそりした顔つきだし


……何でだろ?





「そうね、そうしましょう」

表に並んでいるアウトテーブルに座りはじめる一行を何処か遠い目で眺めた


何?


このモヤモヤする気持ちは




「じゃ、私と令で飲み物買ってくるからここで待ってて」

「すぐ戻ります」





その場を離れた二人を何となくボーッとして見てた私は、
2人組の男の人がこちらに近寄ってきていたのに気付かなかった
恋人をエスコートって言われてもねぇ

別に付き合ってる訳じゃないのよ、本当は




「ねぇ、お姉さん達暇なの?」
「良かったら俺たちと一緒にツルまない?欲しいものがあったら何でも買ってあげるよ」


声をかけられてやっと、そっちに意識が戻った私の目に映ったのは、
いかにもチャラけた男達が隣に並んで座っている3人に声をかけていた

蓉子さまと祥子さまは慣れているらしく、無視を決めかけていたが

慣れてない祐巳さんはお得意の百面相をし始める




どうしよう


こういう時の対虚方は心得ているつもりだったけど
それは街で歩いていた時の事だ

今みたいに誰かを待っていて、その場から動けない時の場合は…?



あぁっ、そんなに反応を出しちゃ逆効果よ、祐巳さん!





「よ!お待たせ…って上玉捕まえてんじゃん!」
「おぉ、お前らお手柄だぜ!」
「こんな美人達探しても相当居ないぜ?」



………嘘、まだ居たの?







どうやら仲間と思える男が3人も、
目の前にいる2人に加わった




蓉子さまと祥子さまも少し焦っている

こんなにたくさん居るなんて思わなかったんだろう




「いいじゃんいいじゃん、行こうぜ」
「そこのお嬢さんだって満更じゃないみたいだし」


未だに百面相を繰り広げ居ている祐巳さんの態度を肯定と見てとったのか、

男の1人が祐巳さんの腕を引っ張る



「「「ちょっ……!!」」」


私の声が蓉子さまと祥子さまの2人と重なった


祐巳さんは予想だにしていなかったのか、ふいをつかれて抱きかかえられるままになっている
その身体はガチガチに固まっているのだが








「お待たせ〜、皆っ♪」
「どれでも好きなの取っていいからね、コーヒーにコーラにオレンジジュース…」


やっと、助けを求めていた2人が帰ってきてくれた

ナンパ男集団達に怒鳴りかかるのかと思いきや、素通りして私達の座っていたテーブルに飲み物を置き始める




呆気に取られている私達を他所に、
聖さまはおや、と目の上に手をかざして言った


「な〜んで祐巳ちゃんそんな所にいるの?ほら、こっちおいで。座って座って」



男達の腕の中から祐巳さんを引きずり出して、元の座っていた席に座らせる



「それで、お兄さん達は何しているんですか?」


令ちゃんがあまり見せない怒りの剣幕で男達と祥子さま達の前に立ちはだかった

「私達と遊びたいんですか?いいですよ」




「令ちゃん!?」



「しっ、由乃ちゃんいいから。見てて」
思わず声をあげてしまった私に、聖さまがウインクをしてみせる



「さぁ、どこで遊びましょうか?人が居ない所がいいんですけど…」




こちらもまた、呆気に取られている男達
しかしその言葉に次第にニヤリとして、お互い顔を見合わせ始めた



「へぇ?人が居ない所って事は…」
「いい趣味してんねぇ、お兄さんも」
「俺達と張り合おうっての?1人で?」



……この人達令ちゃんを男と間違えている





馬鹿じゃない?





「えぇ、別に剣道5段所持者にとったら5人くらい何ともないんで」




「っ……!?」
「5段!?」
「う、嘘つけ、そんな華奢な身体で…」



「嘘ついてどうするんですか、うちは道場なんだからそれくらい持ってますよ」








決め手はその一言だった
家が道場っていうのは余程のダメージだったのか、

男達は揃って逃げていった




「ご苦労さん、令」

「ありがとう、助かったわ」

「いいえ、祥子、大丈夫?」

「ええ、ありがとう、令」

「ううん、祐巳ちゃんは…」



令ちゃんがそう言った瞬間、祐巳さんは私の胸に抱きついて来た




………え?




胸の中ですすり泣きを始める祐巳さん


私はただポカンとしているだけだった






「っ…怖かった……ひっく」









そっか、一番怖かったのは祐巳さんだもんね

知らない男の人に抱きかかえられて…






「大丈夫、もう大丈夫よ居ないから」

そっとその背中に腕をまわしてみる



…こんなに小さかったっけ?祐巳さんて






視界から令ちゃん達が消える
気を遣ってくれたらしい

去り際に聖さまが嬉しそうに微笑んでいた…

その笑顔が何を意味するのか私にはわからなく、


ただ腕の中の祐巳さんが気になっていた




「このままどこか知らない所に連れて行かれちゃうんじゃないかって…」


「大丈夫だってば、令ちゃんが追い返してくれたんだから」


「でも…うぇっ…私が行けば蓉子さまとお姉さまと…由乃さんが連れて行かれることはないかもって思ったの」


「呆れた…そんなこと考えていたの?」


「だって…ひっ…うぅ……」


「蓉子さまと祥子さまが本気だしたらあんな連中睨んだだけで引き返していくわよ」



「…だって……」



「だって、何?」



「由乃さん、嫌々だったから」








「え?」








すると、祐巳さんはその泣きはらした顔を恐る恐る上げて、
私の顔を覗き込んできた



…うかつにも可愛いと思ってしまう自分がいたりして







「聖さま達に煽られて勢いで私と付き合ってるって公言しちゃっただけでしょ?」





そうだけど…だから何なの?



え?



それが今祐巳さんが泣いている事と関係あるの?







「私は、ちゃんと由乃さんと付き合いたかったのに!」






………え?




…………えぇっ!?








「な、何言っているの!?確か前に大学で恋人が出来たって言ってたじゃない!」



そう、確かに前に、
近況報告をしていたときにそんな事を訪ねたら


そう返ってきたんだ



祥子さまその時居たから、知っているはずだ…




「それは由乃さんの反応が見たくて…でも案の定祝福されちゃったの」



「………そうだったわね、ごめんなさい」




何よ、私令ちゃんの事いろいろ言えないじゃない!

自分でも愚かさに泣けてくる






「…ねぇ、由乃さん」


「え?」


「私とちゃんと付き合ってくれない?その場しのぎの関係じゃなくて」


「…でも私は」


「いいの、令さまの事が気になるのは」


「違うわよ」


「だから淋しそうな顔で令さまのこと追ってたんでしょ?」


「違うわよ……」


「…何が?」


「違うの」




私が淋しかったのは、


この間令ちゃんの口からポツリと呟かれた言葉






『私は皆に、置いていかれちゃったなぁ。何やってんだろ、ホント』






何なの、それ



置いていかれたのは私よ




ある日突然卒業したらフランスに行くって言い出して

私の制止など聞かず行っちゃって


たまに帰ってきたと思ったら、祥子さまに会いに行っちゃうし



そして3年経ってやっと帰ってきたと思えば、

家を出て祥子さまと2人で暮らし始めちゃって、

聖さまと蓉子さまと更に深く親しくなってて、



私と令ちゃんを繋いでいる唯一の従姉妹という関係まで失ったようで









…怖かったのよ











「大丈夫だよ、私と一緒に追いつけばいいんだよ」



気がつけば、涙が溢れていた


一緒に、追いつけばいい…




多分それは一番誰かに言って欲しかった言葉


1人じゃあれこれ考えちゃって歩みを止めちゃう




青信号でも怖いものは怖いのよ







私は今、必要として

必要とされるその人を、


抱きしめた…







「追いつこう、追い抜けなくてもいいから…同じスタート地点に立てただけで十分よ、祐巳さんと一緒に」























「聖、どうしてあの2人のことわかってたの?」

「え?あぁ、本当は付き合ってなんかないって言ったって事?」

「そうよ、まぁ私もうすうす感じ取ってはいたけどね、祐巳ちゃんで」

「だって祐巳ちゃんね、私と別れる時私が『蓉子が好きって気付いた』って言った時に『私も、側に居たい人がいるって気付きました』って言ったのよ」

「それが、由乃ちゃんだって事?」

「うん、『その人はある人ばかり追いかけていて周りが見えない人だけど、それでもそのブレーキになってあげたい』だって」

「どう取っても由乃ちゃんしか思いつかないわね」

「ブレーキと聞きゃあね」

「え?由乃誰か好きな人居たんですか!?」

「………」

「「「ヘタ令」」」



「えぇっ!!??」





















fin