『風呂あがりは色っぽいよ?』




聖さまのせいだ…



絶対聖さまが悪い





聖さまのお店にケーキを届けた時の事
ふとした拍子にこんな話題になり、

最後の言葉が頭から離れない



『どう?最近祥子とあっちの方は』
『……はぁ?』
『毎晩?』
『………いえ、時々…』
『えぇ!?』
『何ですか?』
『いやぁ、よく我慢できるなぁって』
『…してますよ、いっぱいいっぱいですから』
『だろうね』
『聖さまだってそんな毎晩してたら蓉子さま怒り狂うでしょう?』
『……ふふふっ、前に我慢できなくて襲ったら一週間口もきいてくれなかったよ』
『うわぁ…』
『ねぇ、令』
『はい?』





『風呂あがりは色っぽいよ?』



さて、我慢できるかな?と

意地悪っぽく笑う聖さまのせいで

家に帰ってから頭の中はそればかりで



……貴方のせいですから







「令?お風呂空いたわよ、早く入ってらっしゃい」




夕飯の後、祥子が頭をバスタオルで拭きながら言う
キッチンにて皿洗いをしていた私は、
なるべくそっちを見ないように「うん」とだけ返した


でも祥子はキッチンに入ってきて、
冷蔵庫から私お手製のグレープフルーツジュースを取り出して

その場で飲み始める


ただ今私と祥子の距離、1m弱





髪から香るシャンプーの匂いと、

身体から香る祥子の匂い



それらが入り混じって私の脳内を支配していく






「早く入って来なさいよ、お湯が冷めちゃうわ」


「…うん」




でもお皿を洗う手は休めず

訝しげにそんな私の顔を覗き込んでくる



「聞いてるの?」



「聞いてる」





変な令、とため息をついて離れてくれた
そこからまた残り香が鼻につく



『風呂あがりは色っぽいよ?』



…………聖さま勘弁してくださいよ




祥子はというとリビングへ向かい、
ソファに腰掛けた
アップにしている髪を下ろしてそれを梳いている

本当に綺麗なツヤのある髪の毛だなぁ、と今更ながらに感心してしまう



私はあれ程ツヤもないし、
何よりも長さがないからブラシで梳くなどした事がない


由乃にしてあげた事は何度もあるけど…





洗い終えた手を適当にズボンで拭きながら、
祥子の隣に腰掛けた

少しでもいいから近づきたい、と



そんな私の邪まな思いには気付かず、
祥子が私を睨む


苦笑して、テレビのリモコンに手を伸ばした


「いいじゃない、洗濯するのは私なんだし」



「そういう問題じゃないわ、品を問いてるのよ」



「仕方ないって、店でも聖さまの所でもエプロンしているんだから癖なの」





そこでため息つかないで
それすら色っぽいんだから

そこで私はハッとした
『風呂あがりは色っぽいよ?』
何度繰り返された言葉か

でも祥子は、
風呂あがりに限らず色っぽいんだ



…後ろめたさは消えた




「祥子、いい?」


向き直って、祥子の手にあったブラシを机の上に置く


「何がよ」



主語のない言葉に眉を顰めてそう応えられた




「…わかってるくせに」



「…………」




「いい?」




間髪を入れずに唇を重ねると、
恥ずかしそうに俯いて

「馬鹿…」

とだけ呟かれるのが聞こえた



「馬鹿はないでしょ」















「聖さま、この間の話ですけど」

カウンター席に座っている蓉子さまのためにカクテルを作っている聖さまに、
真顔で向き合うと

少し引かれた


「な、何?」


「風呂あがりの話です」


「ああ、あれね」


あれか、と頷く聖さまに一言だけ告げる




「祥子はいつでも色っぽいですよ」









「…………ごちそうさま」












惚れた弱みって奴ですよ、と



























fin