3年…その年月の長さには圧倒される


考えただけで気の遠くなるような遠い未来







小学生が高校生になる程の月日







私には耐えられない





いつでも辛い時や悲しい時、嬉しい時も側に居てくれたのは令だった



たった1人で令の居ない日々を令の事ばかり考えて過ごすなんて到底無理だから
















私達は潮時だったのかもしれない










いずれ結婚する相手も決まっている事も承知の上でこの関係は持続していた




だから、いつかは別れる日が来る事も全て判っていた事



















全て予め判っていた訳だからこんなにも諦めがつくのかしら

















































ズキン














頭痛が止まない


段々切り裂かれるような痛みに変わっていく





痛くて痛くて









只でさえ精神的にも参っているのに



どうしてこんな事になってしまったのだろう












頭が痛い



何も考えたくない…








前にもこんな事が1度あったっけ

その時はどうした?










そうだ、お姉さまに……











思い立ってすぐに家までの帰路を反対方向に歩く



もう卒業されてしまったけれど今でも優しく支えてくれる大切なお姉さま

妹である祐巳には言えないような事を全て相談に乗ってくれるお姉さま



今回は…あれこれとアドバイスが欲しい訳じゃない




只、支えて欲しいだけ





もう令には甘えられない

1度でも弱音を吐くとそこから全てがなし崩しに吐き出されてしまいそうだから










お姉さまに、会いたい



















『いつでも来なさい、私は貴方の姉なのだから。卒業しても気兼ねなく会いに来て』





『……でもいつまでもお姉さまに甘えていては…』





『そんな事気にしないの、もちろん貴方は祐巳ちゃんの姉として頑張らないといけないわ』





『…はい』






『でも貴方は私の妹なのよ、私の前でぐらい弱音を吐いたって構わないわ。もちろん祐巳ちゃんにもそうであって欲しいけれどね』





『お姉さま……』































もう少しでお姉さまの家に着くという所で門の前に車が停まっているのが見えた






その車の前で2人の人間が言い争いをしているのが判る



そのうち1人は卒業されても変わらない美しさを持っている肩口で切り揃えられた黒い髪を持ったお方

私のお姉さまである水野蓉子さま







「お姉さまっ…」





















「ちょっと待ってよ、蓉子!何でそうなる訳!?」




「離して、それに止めて頂戴。こんな所で」




















けれど門の前に停まってるその車は何度か見た事のある黄色い車


お姉さまと言い争っているのは…その車の持ち主である、卒業なされた佐藤聖さまだった







家の中に入ろうとするお姉さまを聖さまが腕を掴んで阻止している









何で……




















「ねぇ、蓉子…聞いてよ」






「嫌よ、貴方のしている事は周りを傷つけるだけだわ」





















どうして……だって、聖さまは…


























「判ったんだよ、私の中に居たのはずっと蓉子だったんだ」







「やめてよ!今更っ、…祐巳ちゃんはどうするの?」
































聖さまは、祐巳と付き合っているんじゃなかったの?
























『えぇっ!?聖さまとっ?』




『うっ、うん。先週から…』




『そうなんだ…知らなかったわよ。どうしてもっと早く言ってくれないの、祐巳さん!!』




『嬉しくて、何だか私も…なんて言うか舞い上がっちゃってたんだ』




『くぁ〜っ、ごちそうさま』















『…祥子、今の聞いた?』




『ええ、聞いたわ』




『……ふふっ、姉としては複雑?』




『そうね』




『聖さまなら幸せにしてくれるよ』




『ええ』































「祐巳ちゃんとは…別れるよ」






「聖……お願いだから、私の妹達を泣かせるような真似しないで」






「仕方無いじゃない、蓉子が…蓉子に側にいて欲しいんだ」




















「…っ祥子!?」



「…っ!!」














ふとお姉さまと目が合ったかと思うと、

息を呑んで私の顔を見つめる




それに気付いた聖さまは頭を掻いて顔を背けられた

















「祥子、どうしたの?こんな所で…」






「あっ、あの……」














お姉さまがツカツカと近寄ってきて、私の肩に手を置かれる


先程までのピリピリした声色では無く、
一生懸命柔らかい声にしようとしているのが判った



たった今見てしまった光景と、突然の出来事に上手く言葉を発せないで居ると


聖さまが困ったように笑う笑顔を向けて来た
















「令の事でしょ?」



「え…あ……はい、そうです」













聖さまが知っていると言う事に驚きつつも、

たった今口論の元となっていた妹から聞いたのだろうとすぐに判った



そう判ると急に先程まであれこれ巡りまわっていた思考が急にクリアになる












「令の事…?喧嘩でもしたの?」




「いえ、…お取り込み中失礼致しました。やっぱり帰りますね」




「ちょっ、祥子っ」















お姉さまの制止の声がかかる中、私は踵を返して通ってきた道を戻った

どうしてこんなに冷静になれたのだろうか






あぁ、きっと…
























「祥子」












「……何でしょう?」














「今の話…」







「言いません、誰にも」






「…そっか、助かるよ」







「祐巳を悲しませるような真似したくありませんから」







「……………」













「聖さま」









「ん?」





















「選択肢を間違えないでくださいね」
























「………うん。祥子こそ」

















「ええ、それではごきげんよう」










































きっと





聖さまも


お姉さまも


祐巳も








周りの事を考えているから





そして、相手を好きだと言う気持ちを偽らないから















なら、私も偽らなければ良い









それで出た結果ならば絶対納得できるから






令、貴方に誓うわ
















もう偽らないから……もう1度だけ私に微笑みかけてくれる?








































next...