AM2:15








壁に掛けられている時計を見ると、

もう既に夜は更けていた




虚ろな眼で、貴方を探す





隣に居るはずなのに…貴方の温もりは感じられなくて





部屋の中を見回しても、何処にも居なかった





気だるい身体に毛布を羽織って窓際まで行き、

そこからあの人のバイクがある場所を見る





バイクごと、あの人は消えていた










ため息が1つ、漏れる










今度は誰の所へ行ったのかしら…









こうして求められた時に身体を差し出して


気が済むと消える


きっと違う人の所へ行っている貴方を思うと







涙が零れた































空が、黒い





闇だ









目に見える闇、だった




こうして改めて闇の深さを目の辺りに突きつけられると、

感傷に浸る










…もう慣れたはずなのに









それでも悲しい














ふと、視界の片隅に光が見えた気がした



そちらへ集点をやると











一筋の光が輝き誇っていた






















あの星は、





誰なんだろう…









































AM2:50









「…聞いたわよ、全部」





「あ、そ」







小笠原家の門の前で
カーディガンを羽織って出てきた祥子の第一声に、

累はうろたえる事もなくただそっけなく返した








「…寝てると思ったよ」



「こんな時間に貴方から『助けて』なんてメールがあったら江利子さまでも出てくるわよ」










そっぽを向きながら言う祥子に、累は苦笑する

明後日の方向を向いている祥子の頬に、手を寄せて自分の方を向かせて



累はキスしそうな距離で囁いた










「ごめん、あんな事言って」




「………離れて…」





「祥子、私には祥子しか居ないんだよ」










低い声で身体を押しのけようとすると

累はそれ以上の力で祥子の身体を抱きしめる










「…っそれは令に復讐するためでしょう?私は使い物にならないわよ、令に嫌われているから」






「違うよ!祥子は…復讐の道具なんかじゃない……大切な人だ」












どんっ





突き放された本人は、驚いた顔つきで祥子を見つめ返す







真っ直ぐに自分を見ている祥子の瞳から、一筋の涙が零れた












「違わないわ!じゃあ何故令に近い場所に居る人に近付くのよ!?」





「祥子…」






「江利子さまも…由乃ちゃんも、令にとって大切な人じゃない!彼女達を令から奪って傷つけるつもりなんでしょう!?」






「……祥子、聞いて」








「私は…令に近い人だと思ったんだろうけど、残念ながらそれは違うわよ?貴方に出会ったその日に令にはフラれているの」






















「祥子……そんな大声で捲くし立てられても言っている事が判らないよ…」

















ハッとする祥子の瞳に映るのは、


自分の涙で歪んではいるけれど…悲しそうな累の顔だった








「ごめんね?感情をそのままぶつけられてもそれを理解してあげる事が出来ない」







「…………」









「令の、せいだなんて思った事はないよ。防御が出来なかった自分が未熟だったんだ」












ただ…その怒りをぶつけ様が無かったんだ


たまたま自分の片割れであった令に矛先が向かっただけで














本当は、誰を恨んでも



誰に助けを求めても













どうにもならないんだって事判っている…























「祥子はさ……いや、何でもない」

「累……?」









途中で言葉を遮る累に、祥子は空いた距離を少し縮めた


今度は、累の方が1歩下がる





しばらく俯いたまま、沈黙が流れると




ようやく顔を上げた






それは笑みに満ちたものだった









「令は、鈍感で頼りないけれど…大丈夫、祥子の事を誰よりも理解しているよ」


















最後に、見たのは悲しそうに笑う



でも精一杯笑う貴方





























AM3:30









島津家の前

正確に言えば支倉家の前でもあるけれど




窓から覗くその顔は、明らかに島津家の1人娘のもの








「……累ちゃん…?どうしたの?」








「ごめんね、こんな時間に…」

















窓の下から、由乃の顔を見上げて微笑む





携帯を片手に下を見下ろす由乃の居る部屋が暗いという事は、
もう寝ていたのだろう



少し寝ぼけ眼で



それでも吃驚した様子の由乃は

首を横に振った








「ううん、大丈夫。帰ってきたの?じゃあとりあえず家に上がりなよ」







「ん〜、そういう訳じゃないんだよな、これが。ね、そのままで良いから聞いてくれる?」






頬を掻きながら、恥ずかしそうに笑っていた累の、


顔が真剣そのものになる












「……累ちゃん?」









「私はさ、令の事恨んでないよ」









「え……」















「むしろ大好き。あんな優しい人と双子だってのが誇りに思えるくらい」












「累ちゃん、どうしたの?」















「由乃、ごめんね?長年ろくに会話も無い私達に挟まれて嫌だったでしょ?」











「そんな事無いわよ!私は2人共同じくらい大好きだもん!!」













「…ありがとう、由乃。令は優し過ぎる分、残り1歩が踏み出せない人だから…その後押しをしてあげてくれる?」











何だか、嫌な予感がする








確かに目の前に、累は居るのに







でも何処かに消えてしまいそうな…そんな空気が流れた


















「嫌だよ…それは累ちゃんの役目でしょ?昔からそうだったじゃない」







「だから、だよ。これからは由乃が支えてあげて欲しい」






















バイクの音が遠ざかっていく




発進する前に、1度だけ隣にある令の部屋を見た累の背中が










どんどん小さくなっていく




















何故だか知らないけれど











涙が頬を伝う








「何処に行くの?累ちゃん…止めてよ、令ちゃん……っ」











































翌日、薔薇の館のメンバーの目に映ったのは



テレビに流れる聞き覚えのある名前














朝食を取っていた者は、手にしていたフォークを落として

珈琲を飲んでいた者は、カップを無残にも中身をぶちまけながら落として

顔を洗っていた者は、水の流れる蛇口をそのままにして

着替えをしていた者は、タイを結ぶ手を止めて










ただ呆然と、テレビから流れるニュースを目の当たりにするしかなかった









女性アナウンサーの言葉に遮られながらも、

画面に映るのは






聞き覚えのある名前と


その年齢と



バイクが倒れている現場に広がっている血……











『明け方のAM4:00頃に、M駅近くの大通りでバイクと大型トラックの接触事故がありました。』





































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