(令は?)
(私の病室で寝てる)
(じゃあ貴方は何処に居るの?)
(屋上?ナリ。あ、ついでに煙草買ってきてくれると嬉しいな〜)
…なんで疑問形なのよ
しかも未成年の私に煙草買って来いって催促するかしら、普通
……その前に貴方もバリバリ私より未成年じゃないの
いろんな葛藤を繰り広げる脳内はとりあえず置いておいて
病院へと向かうタクシーの運転手さんに、
1番近くにあるコンビニへと向かうよう頼む
確か、令からの連絡では…あの子は全身打撲で右足骨折左腕骨折、という重体だった筈
少なくとも2週間は安静にしてないといけないとも聞いた
…何、歩きまわってるのよ
店員さんが迷う事なく、指示した煙草を差し出すのを見て
いつか累と2人で夜中に家の近くのコンビニへ行った時の事を思い出した
『身分証明書見せなさいって言われたらどうするのよ』
『大丈夫大丈夫』
『その根拠は何処から来るのか知らないけれど、私は退学になんて事なりたくないわ』
『その時は2人で一緒に何処か遠い所へ行こうよ』
『はぁ?』
『誰も、知り合いなんて居ない遠い所にさ』
『…つまり駆け落ちって訳?』
『駆け落ちかぁ、それも良いね!』
ウインクをしながらニヤニヤ笑う間に、
レジに煙草を差し出した累を呆れ顔で見ていたのはそう遠くない昔
あの子は…何がしたかったのかしらね
令を恨んでいる、というのはこの間判ったけれど…
でも本質は、これ等の物事の本質は
もっと別の所にある気がしてならない
「…………令…」
何だか気になって、
累が居ると言っていた屋上へ直に向かわず
令が寝ているという病室へ向かった
個室のドアを横にゆっくりスライドさせて開けると
夕方の太陽に照らされて、とても綺麗な寝顔を見せている令が居た
累が寝ていた筈のベッドに上半身を預けて
脇にある椅子に腰掛けて
すやすやと寝ている様子は
とても、とても
胸を締め付けられた…
今、手を伸ばせば
この子に触れる事が出来る
でも、あの子と肌を重ねてしまった私に
そんな資格などないのだと
改めて実感した
何故なら、目の前で無邪気に寝顔を晒しているこの子には
闇の欠片さえ見えなかったから
私の手は、
とても汚れていた
部屋を染める紅い色も、
私の手の汚れを落とす事は出来ないのだろう
何よりも大切にすべき妹よりも
己の欲望を満たさせた私には
この硝子には触る事が出来ない
太陽へ憧れて
偽りの翼を作って飛び立ったイカロス
最期には、忌わしい翼は?がれて地上へと堕ちて死んだイカロス
私なのだろう
イカロスは、私で
憧れた太陽が令で
その堕ちた地上というのが
累という月だったのだろう
「…ごめんなさい、令。私を赦して」
自身の呟きは病室に響いて消えた
「累?」
屋上を開け放つと、
先程病室へ差し込んでいた太陽が直接目に進入してくる
辺りを見回すけれどそれらしき影は見えなかった
他にも誰も居なくて
ただ烏が鳴く声や、
都会の騒音が小さく聞こえるだけ
「累…?」
ふと、不安にかられる
このまま誰も、私の前から居なくなるんじゃないか
このまま誰も、最初から存在しなかったかのように世界から姿を消すんじゃないか
「累っ!!」
居ても立ってもられず、大声で叫ぶと
いつの間にか涙が溢れていた
「んばぁっ!累さん復活!!……っ!?」
突如、背後からした声に驚いて振り返ると
階段から屋上へと繋がる入り口の上で累が寝転がっていた
私が泣いているなんて思ってもなかったらしくて、
累は最初のとぼけた声色から、息を飲む
「何…やってんのよ、そんな所で」
「何って、昼寝。いやいや、どしたのっ、江利子さん!何で泣いてんのっ」
慌てて私を自分の居るスペースへと引き上げる累
梯子に足をかけて、引っ張り上げて貰いながら
どうしてこの子骨折しているのにそんな所に上れたのだろうか、と疑問が過ぎった
「あ〜、骨折はし慣れているからねぇ。ちっさい頃から常にポキポキ折ってたから」
「……どんな幼少時代を送ってるのよ」
累は
私の腕にかかっていた袋から、煙草を取り出して嬉しそうにパックを開けながらそう言った
「…ライター」
「無いわよ、そんなもん」
「……っ嘘ぉ〜〜っ!!意味無いじゃんよっ、ソレ!」
ジタバタ寝転がっている累の隣に腰掛けて、
ため息を1つついてから鞄の中にあったマッチを放り投げる
「おぉっ、何だ、持ってんじゃんっ!」
「タクシーの運転手さんに頼んで、貰ったのよ。何処か怪しい店の広告だけど気にしないで」
「なになに、"ドキッと可愛い女の子だらけのコスプレパブ"?うははっ、怪しい人の運転する車に乗り込んだもんだねぇ」
「…………貴方も行くんじゃないわよ」
「ん〜、どうしよ。行くかもよん?可愛い子ならさぁ、オールオッケィだからねぇ」
「…シャレになってないわよ」
「シャレじゃないもん。…っはぁ……、風が気持ちいぃなぁ〜」
「そうね」
仰向けに寝転がり咥え煙草で目を細める累は、
とても愛しかった
「……こんな筈じゃ、無かったのになぁ…」
「………え?」
「江利子さんは言葉よりも行動で示して欲しい人だから、あの夜抱いて…」
「………」
「祥子は行動よりも言葉で示して欲しい人だから、あの夜抱かなかった」
「……やっぱり祥子の所へ行ってたのね」
「由乃は、行動よりも言葉よりも目に見えた真実しか受け入れられない子だから、あの夜会いに行った」
「由乃ちゃんも…?」
「そして、私は死んで…皆の心にはあの日の夜、最期に会った私を刻むつもりだったのに」
「……え…?」
「失敗しちゃったな、生きちゃった…。生き残っちゃった」
貴方が望む物は、何ですか?
祥子の崩壊?
私の崩壊?
……令の崩壊?
……………世界の崩壊?
自分自身の崩壊なの?
next...