「…ごきげんよう、累さん」
「こんちわっ」
聖に呼ばれて屋上に来てみると、
すでに陽は沈んでおり
屋上を囲んでいる金網に寄りかかって座る累さんを見つけた
重々しげに声をかけると、コンクリートの地面を見ていたその顔がこちらに向けられる
まるで重傷者だという事が微塵も感じられない笑顔で彼女は笑ってそう応えた
「あ、もうこんばんわか」
「そうね……、えぇと私に何の用かしら?」
ヘラヘラ笑いながら訂正する累さんに、
身構えていた心は少し安らいだ
彼女の前に立って見下ろすと
右腕に、点滴を無理矢理剥がしたためについたであろう
紫色の痣が出来ている
「用…は無いけど、まぁ貴方と話してみたらって聖さんが言うもんで」
「私と?聖がそう言ったの?」
先程病室に入ってきた聖は、
私の肩を軽く叩いて
『ご指名だよ』
と言っただけだったから…
どういう経緯でそうなったのかは判らなかったけれど
聖が私を推したのだろうか
令じゃなく私を…?
「いいんだ、ちょっと話し相手になってくれれば。あ、それとも嫌?ここ寒いから下行く?」
「いいわよ、大丈夫。ここで」
「そ」
鋭い瞳なのに、違和感のあるくらい優しい彼女に笑みが漏れた
近すぎず、離れすぎず、
適度な場所で腰を下ろすと
私を見つめていたその瞳とぶつかる
「…っ何?」
「ん、綺麗だなって思って」
「…私よりも聖や江利子、祥子達の方が綺麗でしょう」
そう応えると、
何を言うでもなくただ静かに微笑む彼女
おかしい
先程まで生死の境目を彷徨っていた人には見えない
まるで最初から、全てがこうなる事を見透かしていたように…
…見透かしていた?
「…下、父さんと母さん居る?」
「え?…ご両親は居ないわよ、令だけ」
「…そっか…、令…が居るのか…」
「何?帰って欲しい訳?会いたくないって事?」
苦々しげに呟く累さんに、
そう問うと
こちらへ向けていたその顔が
苦い物になる
「今は、まだ会いたくないな。話したくない」
「貴方前に言ってたわよね?令の崩壊を望んでいるって」
「…言ったね」
累さんはまるで他人事のように笑う
どうしてそんなに無理をして笑うの?
まだ、貴方は切り札を持っているというの?
まだ、貴方は令の事を諦めていないっていうの?
令は、あんなに貴方を想っているのに……
「…でもね、累さん。令は貴方に会いたがっているわよ。きっと誰よりも」
「累でいいよ」
「じゃあそうするわ、累。貴方は…貴方にとってたった1人の姉妹でしょう?令は」
「………ね、蓉子さん」
「何?」
「祥子は」
祥子は、どうしてる?
累の言葉に、私は
妙な胸騒ぎを感じた
どうして?
令より祥子の状況を知りたいの?
令は……
令は、
祥子は、
貴方はどっちを取るの?
「…家に閉じこもって塞ぎ込んでいるわ」
「じゃあ、令に行くように言ってくれる?祥子の処へ」
「えっ?」
「令に、ちゃんと行動にしないと…本当に欲しい物が手に入らないよって言っておいてくれる?」
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