そして














累は
















感情を閉じ込めて、しまった―――――――




























「累をリリアンに転入させる?」







江利子の言葉に、令は頷いた



薔薇の館には全員居たけれど令の目は自分の姉だけ見据えている











あの事件から1ヶ月経っていた…




部屋に閉じこもっていた祥子を、令は病院に連れ出して

累を見せたのだ





『っ……累…?』






久しぶりに見た累に、祥子は目を丸くさせる他にどうしようも無かった


あんなに人懐こい笑顔で、

人の心を中和させてくれるような、





そんな累は、消えて居た







『……あぁ…、祥子……』







何よりも絶句したのが、


顔の左半分を覆った大きな包帯とガーゼ



こんなに事故の被害が凄かったのかと思うと

今まで部屋に1人、閉じこもっていた自分が馬鹿みたい



累が、迎えに来てくれるまで待っていた私が……









物凄く恥ずかしい










『令…』


『ん?』






令にだけに聞こえるように、小声で呼ぶと


令は累と対照的にいつもの優しい笑顔で振り向いてくれた







『累の…事故ってそんなに酷かったの?』


『………本当は、左腕と右足とあばらが幾つか折れてしまってただけなんだけどね…』


『…本当は……?』





『あの…あの傷は……』







令の指が、自分の顔の左側を…目蓋から顎までゆっくりとなぞっていく









『累が、自分で付けた物…なんだよ』





『……っっ…自分で…!?』










『令、祥子、何してんの』










その声に、令を見つめていた目を累に向けると



累はただ片膝を抱きかかえて

無表情に、その瞳は何も映しておらず





じっとこちらを見ていた









正確に言えば…元に戻ったのかもしれない…


この人の目は、何も映してなかったから





ただ、闇しか見てなかったから









でも、今は…







その闇すら見ていない






その目に映るは、虚無だった―――
















『ねぇ、祥子』







『……何?』
















『また、累が笑う事が出来るようになったら…その時、累と私…どちらかを選んでくれる?』

































































「何で…また…?」




「お姉さま方の、側に居た方が良いと思うんですよ。累は」






全員の注目を浴びながら、令はにっこりと微笑んでそう言った

江利子の紅茶を飲んでいた手も止まり、



訝しげに令を見やる








「どうして?」




「ふふっ、だって累は…お姉さまを求めているじゃないですか」






軽く笑ってみせてから、

令は嬉しそうにそれだけ言う






「…………」




「…え?どうかしました?」








静まり返る部屋の中で、慌てて令が周りを見渡すと


蓉子と聖が控えめに笑うのが見えた







「いいえ、貴方の口からそんな言葉が出るとはね」


「累が離れていってしまうのを1番怖がっていたのにさ」






「違いますよ、私は…私の周りを崩されるのが怖かったんです」








平穏を、



当たり前の環境を、







節々から壊されてしまうのが怖かった…













それは私のただの我侭でしかない、と














令は静かに


でも数ヶ月前よりは確実に落ち着いた表情で笑う









「累を、宜しくお願いします」









改めて室内で、頭を下げる令に



誰も嫌だと言う者は居なかった




















「累、来たわよ」




「江利子さん!」










既に退院して、家に居た累の部屋の扉をノックすると

直に飛び出てくる




何かの挨拶を交わす訳でもなく、抱きついてくる彼女を受け止めながら

そのまま部屋の中に入り込んだ







「どう?身体の調子は…」



「普通」



「普通じゃないから聞いてるんじゃない」








素っ気無く答える彼女に笑いながら、頭を軽く撫でるように叩くと、

頬を首筋に埋めて甘えるような声を出して来る








「あ〜、癒される」



「……あのね、毎回毎回言おうと思っているんだけど」



「…江利子さん良い匂いだな」



「何所かしらでもいつでも抱きついて来るの止めてくれない?」



「温かい」



「この間、令だって後ろに居たのに…固まってたじゃない」



「ねぇ、今日は泊まってく?」








「………聞いてないわね」











とりあえず、鞄を椅子の上に置いてコートを脱ぐ

少し身体を離して、脱ぎやすいようにしてくれた累の頬に謝礼の意味を込めてキスをしたら



彼女は嬉しそうに目を細める










――――でも、前のように微笑む訳でもなく無表情のまま






令に言わせれば私の前に居る時が1番表情豊かになるのだと





だから…私はそれだけで十分だった



もちろん、前のようによく笑う彼女に戻って欲しいけれど…










私の前でも何も示さなくなったら、

それこそ本当に悲しいから












「そういえば、聞いたわよ。リリアンに転入するんだって?」



「…あぁ、……うん…」







鞄から教科書とノートを取り出しながら、

ベッドに腰掛けている累に問うと


興味なさそうにただ頷く












「…でも私はあと少しで卒業よ?」



「……うん…」








机に、課題であるそれらを並べてから

頬杖をついて累を振り返る










「…ねぇ、累。大丈夫?」




「何が?」





「……いいえ、何でも無いわ」














彼女の顔を横断している痛々しい傷に指を伸ばす


その傷に軽く口付けると、

腰に腕を回されて抱き寄せられた












願わくば










願わくば…




















この子がもう1度笑ってくれますように

































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