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「…支倉累です。あぁ…えと、菊組の支倉令の双子の姉……です?」




「支倉さん、何故疑問系なの?」








クラス中の注目を浴びながら、居心地悪そうに自己紹介する累に

先生のツッコみが入った




笑いを堪えながらのソレに、累は頭を掻く








「あ、いえ…。まぁ、とにかく宜しく……お願いします?」




「ふふふっ、だから何故疑問系なの?」





「……まぁ、気にしないでください」










またしても笑いながらのツッコみに累は眉を寄せた



累としては、早く席について


早く授業を一通り受け終えて


早く江利子と一緒に帰りたかったのだが…






どうも思い通りに行かないのがルールらしい、この世は















「支倉さんに質問のある人~?」



「えっ?あ、私は…」







そういうのは苦手だ、と担任の教師の案を却下しようとしたが


あっという間に教室中が挙手で埋まる









「は~いっ、累さん、あの黄薔薇の蕾の双子って…どうして今までリリアンに居なかったんですの?」



「ですの?……あ、えと…家の事情で…令は幼稚舎から此処に居るけど私は一般の所に通ってたんで」










累はリリアン特有の、お嬢様な喋り方に少し引きつつ質問に答えた

するとため息が教室中を支配する




何だかうっとりした視線で見られているのは気のせいだろうか









「はいっ、令さんと同じ山百合会には所属するんですか?」



「…否、まさか」



「あら?どうして?」



「えぇ?だって…祥子と江利子さんの間に挟まれてたら息出来ない…し?」









あ、と思ったのは後の祭り

教室中はざわめきが蔓延してしまった



隣の教室の祥子や、その隣の令のクラスにまで聞こえてしまわなければいいけど…










「どういう事?」






興味深々な先生により、その話題は更に掘り込まれてしまう

ため息をついて
コレからは逃れられないと諦めると累はそっと口を開く













「2人を傷つけたんですよ、私の勝手な想いで…」













それだけ呟くと



さっき自分の席だと教えて貰った席に黙って着く









ざわめきが消えないと判って、累は補聴器の電源を切った


自分を、何も聞こえない無垢の世界が包む








ずっとこの世界に居られたら、私は何も傷つかないで済む




何も聞かなくて済む



何も知らなくて…済む








でも、










私は江利子さんの声を聞きたいから







あの、落ち着いている綺麗な声を聞きたいから…























「累?」





窓の外を眺めていた目を、手の平がひらひらと舞った


驚いて目をそちらへやると、




大好きな人が怪訝そうな顔で私の顔を覗き込んでいた










「江利子さん!どうして此処に…」





「昼休みでしょ?だから一緒にお昼ご飯を食べようと思って来たのよ」






「あぁ……」









江利子さんの手に握られているお弁当箱を見て、


自分の弁当箱を鞄から取り出す


令の手作りのソレは

令の趣味の可愛らしいキャラクターが散りばめられている風呂敷で包まれている





…何度もコレだけは止めて欲しいって言ったんだけどなぁ

おまけに令のと色違いというのもキツイ






そんな間に教室中を見回していた江利子さんがまたしても不思議そうな顔で口を開いた









「何か…いつもと違うんだけど…気のせいかしら?」


「何が?」


「注目とかされるのはいつもの事だから慣れているんだけどね」


「うん」



「今日は廊下とか歩いている時も違う視線を感じるのよ…なんて言うか好奇心の眼差し?」






「…あ~………まぁ気にしないで」











その原因を私は痛い程に判っているけれど


江利子さんと祥子と令に怒られるというのも判っているから、言わない








立ち上がって、江利子さんの手を引いて教室を出ると



確かに江利子さん曰く好奇心の目が集まっていた






何故かしら遠くからメモ帳を抱えた女の子達がこっちを凄い形相で見つめてやって来るし…







……何だアレ?









とにかく面倒な事になりそうな予感



江利子さんの手を引いて反対方向へ向かう











「ちょ…累、こっちよ」



「んあ?」







階段の上へと行こうとした所で、下へと腕を引っ張られた



…まぁ、行き当たりばったりに行動していた私よりも彼女の方がここの事は知っているんだし

素直に従う事にする












「……江利子さん、何所に向かってるの?」



「何所って、薔薇の館よ。いつも私達はあそこで食べているのよ」



「いっ!!??いやいや、ちょっと待って待て。それは勘弁して欲しいなぁ…」









ふと、私を引く力が消えて



1歩目の前で彼女は立ち止まって私を振り返る











「…リリアンに転入したんだから、祥子や令と鉢合わせる可能性はこの先いくらでもあるのよ?」




「でもっ…今は、まだしんどいよ」







「累、甘ったれるんじゃないの!まだ、私や蓉子、聖が居るこの今じゃないと余計辛くなるわ」






「…………」








「あと2ヶ月で私も蓉子も聖も居なくなって…祥子と令だけになるのよ?薔薇の館は」








「…………」















黙り込む私の手を再び力強く引いていく彼女の背中を見つめながら、




ただ












ただ











これから起こるであろう事を予測する












それは



それは…









とても切ないだろうから























「あ、累…久しぶり~」


「あら…久しぶりね」








薔薇の館への入り口の前で、

あの2人がこちらを見て笑う



手を振ってくる聖さんと、

静かに微笑んでいる蓉子さんの元へ着くと



江利子さんはそこでやっと私の手を離してくれた









「さて、と…頼むわよ。2人共」







「うん、出来る限りの事はするよ。でも結局は」


「累と令と祥子の問題だから…ね?判っているわよね?累」









「……うん」





















願わくば









願わくば























祥子が












令が



















2人を、2度と悲しませないように








私が強くなれますように…

















「大丈夫よ、私達が付いているわ」














江利子さん、


貴方の言葉は




私を包み込んでくれるけれど













時に





貴方の言葉は












私を突き放すから














人を想うのがこんなに恐い事だなんて



今更だけれど






初めて知ったよ

























本当は、

人は、











何も知らない方が


幸せなのかな…
















だったら誰も


誰も傷つかなくて済むのに…
































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