けれど




私は気付くの








失くさないように大切にポケットに入れても


それはいつしか




毎日忙しく走り回っていたら








ポケットから零れ落ちるという事に






















「私達は…貴方に何もしてあげられなかったのね」































―3日前―











「そこの彼女達っ!お茶しない?」 



「しません」







山百合会の人達と出かけると


良くこういう声がかけられる





正直言っていくら私でも慣れてしまうものだ




皆から教わった事





こういう輩は相手にしない事だ

振り返ってもいけないし、

ましてや足を止めるなんて言語道断らしい




だから私は横を歩いている志摩子さんの腕を引いてそそくさを歩きを早める






けれど相手も1度くらいではめげないのが決まりだ










「そんなツレない事言わないでさ〜、美味しいもの食べさせてあげるよ?」







「いいです!」












「パフェ食べたくない?」









「…それは、食べたいけれど……知らない人と食べる程世間知らずじゃないですし」

「祐巳さん……」









つい、甘い誘惑に意識が寄せられてしまった私に

志摩子さんが苦笑して私を見てきた



…ごめんなさい、志摩子さん







けれど!


負けないもん!!








そう意気込んだ瞬間に、後ろから聞き覚えのある名前が聞こえる














「おっかしいな〜、令に言わせると祐巳ちゃんは甘い物で釣ると100%って聞いたんだけどな」









「えっ!!?」


「…あら」








2人で、後ろを振り返ると


そこには令さまが…じゃない、令さまの双子のお姉さまである累さまが腕を組んで考え込んでいた









「累さま!?何やってるんですか!こんな所で!!」




「…うぅっ、祐巳ちゃん祐巳ちゃん。"さま"なんて付けなくて良いから…あ〜鳥肌が」








休日に志摩子さんと遊びに出かけたのは、


街中なのに







まさか意外な人物に出会うとは







けれど累さまは両腕を両手で擦って身震いされる












「えぇと…でも令さまの実のお姉さまですし……」




「いいから、累って呼んでよ。幾らなんでもまだリリアンに慣れないしさ、私」





「では、累さんと呼ばせていただきます」










要領の悪い私とは違う志摩子さんが、

ニッコリと微笑んで累さまに解決策を持ち出した




累さまはまだ納得いかなさそうだったけれど、しぶしぶ頷いて左手でOKサインをしてみせる










「で、可愛いお嬢さん達。私とお茶しない?」




「…本気だったんですか?アレ」




「もちろん…。あ、奢るから安心してね。特製ジャンボパフェ」





「行きます!!!」

「…ご一緒させていただきます」





「じゃ、決定ね。では、お兄さんに着いて来るのだ」







「…お姉さんじゃないですか?」







「この私を見てお兄さんよりお姉さんの方がしっくり来る?」






「来ませんね」








「でしょ」










そういうと累さんはそそくさと私と志摩子さんの手を引いてどんどん歩いて行ってしまう


というか、こんなに打ち解けて話せる程私は彼女と関わっていないのに






それでも昔から知っているかのように


なんというか、聖さまのように砕けた感じで接してくる累さんのおかげで









私達も警戒する事なく対応できたんだと思う

























「…美味しい?」




「はい!!」




「そ、良かったね」








頬杖をついて珈琲を飲みながら、訪ねてこられた累さんに

とびきりの笑顔で頷くと


彼女は小さく頷き返してくれた




何だか子ども扱いされているなぁ

と思ったのはここだけの話











「それで、私達に何か用でもあったんですか?」












初めて会った時に、令さまから聞いた事を忘れないように

ゆっくり大きな声で話すと彼女はちゃんと理解してくれるみたいだ



こうして見ていれば全然普通の人だけれど、


ハンディを背負っているんだから






世の中にはまだまだこういう人がたくさん居るんだなぁ、って






何気ない日常ですれ違った人が、とんでもないハンディを背負ってたりする





そういう事があるんだな、って














累さんと出会ってからそう思った


















「ん?いや、ブラブラしてたら可愛い子達が居るなぁって思って」







「本当にナンパかと思いましたよ?」







「ごめんごめん、良く見たらさ由乃から良く聞かされていた2人じゃんって思ってさ」






「由乃さんから…あ、そうか!令さまと従姉妹なんだから累さんとも従姉妹だもんね!」







「うん、そう」







「どんな感じだったんですか?小さい頃は」














ただ淡々と受け答えしていた累さんは、

志摩子さんの質問に
私達に向けていた視線を窓の外に向けた




街に建つレストランからは、

たくさんの通りすがりの人々が見える




恋人同士だと思われるカップルとか

犬の散歩をしている小母さんや

小さな子どもを連れた若いお母さんとか



色々な人間模様が見られた





それらに目を向けながら、累さんの口がポソリと開かれる


















「私は、そんな子ども好きじゃなかったんだよね。自分も子どもなくせに」





「そんな感じです」





「でも由乃が生まれてから令は大喜びでね、毎日島津家に連れて行かれた」





「やっぱり令さまは喜んだんですね〜!あんなに由乃さんの事考えていらしていますし!」






「でも私は赤ちゃん苦手だったし…1人で絵書いていたりしてた」






「ふふふっ」








「でも必ず由乃が私の所までハイハイして来るんだよね、これが」








「へぇ」









「それで私の隣に寝転がって私と令の服を絶対離さないんだわ、ずっと」










「令さまの嬉しそうな顔が想像できますよ」









「そうそう、だらしないくらいデレッとしててさ。私は良い迷惑だったよ、トイレにも行けないし」








「あははっ、由乃さんて独占欲強いですもんね」









「それから、結構経った頃由乃の身体が弱いって知ってさ。令なんてずっと由乃の事ばかりで」








「そうなんですか…」









「だから、私も出来る限りの事はしてあげようって思って。由乃に」








「……素敵な関係ですね、3人は」








「でもさ、お陰で令ちゃん累ちゃんってベッタリの子になっちゃったんだよね」














最後に盛大なため息をつきながら、そう言う累さんは


何処か嬉しそうだったけれど





何処か、寂しそうにも見えた









私と志摩子さんは顔を見合わせて、きょとんとしていた















だって





その顔が意味するものを知ったのは



ずっと











ずっと後のことだったんだもん…







































「ねぇ、祐巳ちゃん、志摩子」




「「はい?」」











さよなら、と別れた時に
背中から再び呼びかけられた声に私達は振り向いた




夕日が逆光になっていて累さんの顔は良く見えなかったけれど






きっと微笑んでいたんだと思う



















「私と令はいつまでも由乃だけを見ていられない。だからいつかあの子は1人になるんだ」








「……そうですね」























「その時は、2人であの子を支えてあげてくれる?」
























一息置いて、私は力強く頷く




志摩子さんも同じように頷いたらしく






累さんは安心したように手を振った












「バイバイ」























それが











最後に見た累さんで






最後に交わした言葉だと










あの時私達は知らなかった――



















夢の続きは







君を思いながら


あの日のこと



忘れたふりして














ズルイよね………





























next...