「お兄ちゃん」
「………」
朝早く
公園のベンチに腰掛けて煙草を吸っている青年の傍らには
サッカーボールを手にした少年が立って見上げていた
声をかけても反応しない青年に、少年は少し首を傾げて隣にちょこんと座る
そこで初めて少年の存在に気付いたらしい青年が、
ちらりと目が合うと首を小さく傾けて挨拶をした
「おはよう、お兄ちゃん」
「おはよう…お兄ちゃん、ねぇ……」
咥え煙草だったソレを指に挟んでため息をつく青年に
少年は純粋無垢な笑顔を向けて話しかける
「1人?」
「うん、君も?お母さんとか居ないの?」
「僕ね、サッカーが下手だから友達が居ないの。だから毎朝ここで1人で練習してるんだ」
「そっか、偉いね」
男の子の頭を撫でてやると、男の子は照れくさそうにまた笑った
そんな様子を見て、青年は目を細める
「なぁ、少年」
「ん?なぁに?」
「鳥になりたいと思った事は無い?」
しばらくきょとんとしていた少年は、
真っ直ぐに自分を見つめてくる瞳から目を離すことなく
首を横に振った
「ううん、僕は人間でいい」
「どうして?羨ましくないか?空を自由に飛べてさ、彼等を脅かすものなんて何も無いんだよ」
サッカーなんて出来なくても友達が出来るよ?
少し驚いたのか、目を見開いてそう言った青年に
少年は柔らかく笑う
「だって僕には大好きな人がたくさん居るから、鳥になって何処かへ飛んで行きたいとは思わないもん」
「………そっか」
「っはぁ…はぁ………何処?累っ……」
並木道を走っていた足を止めて、
乱れた呼吸を整えながら辺りを見回す
けれど求める姿は何処にもなく
あの夜、祥子と累を見かけた時が思い出された
あれ程絶望に叩き落された瞬間は無い
「……っ、お願いだから………累…」
でも、
累が居なくなる事が1番絶望に突き落とす出来事なんだから
あの朝、ニュースを見た後は生きた心地がしなかったんだよ
もしこのまま目を覚まさなかったら
もし、……死んでしまったら
私は今頃こんな風に皆と笑えてなかった筈だよ?
ふと、芝生の上で1人
頼りないリフティングを練習している男の子が目に入った
「ねぇ、少年!」
「…あれ、さっきのお兄ちゃん?女の人だったの?」
駆け寄って声をかけると
男の子は顔を上げて、心底驚いた顔をしてみせる
私の制服姿を見て、首を傾げた
「会ったの!?累に!」
「累?お姉ちゃんはあのお兄ちゃんとは違う人なの?」
部外者が聞いたらどう考えても文法が変だけれども、
令には十分通じた
男の子の肩を掴んで問いかける
「その人は何処に居るの!?」
「え、と…そこで煙草吸ってたの。それでちょっとお話してくれて、友達になってくれるって言ってた」
「うん、それで?」
少年が指差す方向にあるベンチには誰も居ない
令はベンチを見つめながら、続けた
「僕がサッカー上手になってお友達が出来たら、お兄ちゃんも帰ってきてくれるんだって」
「…どういう事?そのお兄ちゃんは何処に行ったの?」
意味不可解な言葉に、
男の子に目を戻して令は眉を顰める
すると少年は指を空に向けた
「鳥になるんだって、大切な人達を守るために」
「……鳥?」
最後に、男の子はニッコリと微笑んで
力強く頷く
「そう、お姉ちゃんがお兄ちゃんの大切な人なんだね。お兄ちゃん言ってたよ」
『少し、休むんだ。1人で…、そしてまた歩き続けようと思ってね。』
誰が正しいのか、
何が正しいのかなんて誰にも判らない
だから、それを知るために
私達は生きているんだよ
令
知ってる?
誰かのために
何かをしたいと
誰かのために
思いやれるのは
愛なんだって事を…
君の言葉を
もっともっと、
信じてあげれば良かったね
ねぇ、令
もっと、もっと…
君の夢を聞いてあげれば良かった
君の、
願い事を叶えてあげたかったなぁ
私は何も
何1つ姉らしい事をしてあげなかったから
ねぇ、令
もう、あの頃の
泣き虫な君は居ないよね
もし、まだ泣いているのなら
どうか
どうか思い出して欲しい
君は1人じゃないんだと
ねぇ、令
もう1度あの時の2人に戻れるのなら
私は笑っていよう
大丈夫、君のせいなんかじゃないんだよって
だから泣かないで
君はミスターリリアンなんだろう?
由乃が居るじゃないか
祥子が居るじゃないか
江利子さんも、君には居るじゃないか
羨ましいよ、本当に
君が傷ついて
倒れた時には
手を差し伸ばしてくれる人達が居るじゃないか
ねぇ、令
君に教えてあげよう
この先
まだまだ長い人生では
たくさんの辛い事が待ち構えている
私は耳が聞こえなくなって、
そのうちの半分を私は見てきたよ
人間の狡さと
人間の卑屈さと
人間の素晴らしさを
私は見てきたから知っている
あのね
転んで、泣いてもいいんだ
泣く事は大事なんだ
でももっと大事なのは
泣いても
泣き腫らした後に
立ち上がれる強さが大事なんだよ
傷つかぬ者など居ないんだから
脆くて弱くて
涙を流す
それが私達人間なんだからさ
私は、旅立つよ
でもね
どうかお願いだ
もう、これ以上泣かないで
私のために泣かないで
私のために泣いている君は見たくないんだ
さようなら、令
さよなら、江利子さん
貴方を、愛していたよ
誰よりも
何よりも
令と同じくらい
貴方を愛していた
どうか1人で
どうか1人で
泣かないで……
君の言葉は
夢の優しさかな?
ウソを全部
覆い隠してる
ズルイよね
旅だつ君に
冷めた背中見せて
聞いていたよ
ひとり戦うの?
ズルイよね
「帰ってくるから」
追い越してゆく君の声
意地張って
強いフリ
時を戻して
叫べば良かった?
行かないでと涙こぼしたら?
今はできる
どんなことも
言えなかった
1000の言葉を
遙かな
君の背中におくるよ
翼に変えて
言えなかった
1000の言葉を
傷ついた
君の背中に寄り添い
抱きしめる
夢の続きは
君を思いながら
あの日のこと
忘れたふりして
ズルイよね
「手紙を書くから」
視線そらした君の声
意地張って
強いフリ
時を戻して
怒れば良かった?
待てないよと肩を落としたら?
今はできる
どんなことも
聞こえてる?
1000の言葉を
見えない
君の背中におくるよ
翼に変えて
聞こえてる?
1000の言葉を
つかれた
君の背中に寄り添い
抱きしめる
言えなかった
1000の言葉を
Lalalala...
君の背中におくるよ
翼に変えて
聞こえてる?
1000の言葉を
Lalalala...
君の背中に寄り添い
Lalalalala....
next...