「どういう事よ…」






「だからそういう事だよ」













2年の学年のクラスが並ぶ廊下で、


由乃は今しがた幼馴染の口から紡がれた言葉に呆然とする

何を思う訳でも無くただ漏れた台詞にも
令はただ小さく笑ってそう返しただけだった












今朝、いつもの様に令と累と学校に行こうと誘いに行ったら


支倉家には誰も居なくて

こんな時間からおじさんもおばさんも居ないなんて事珍しくて

お父さんとお母さんに聞いても何も知らないと言うし





不安が押し寄せる胸を抱えてとりあえず1人で学校に向かった






気になって令のクラスを覗きに行くと、

令は既に来ており、どうして先に行ったのかと憤慨して詰め寄る



そして令から告げられた言葉は







前々からそんな気がしなかったでも無い事


きっと気付いていたけれど、




きっと気付かないフリをしていた事

















『累がまた何処かに行っちゃったんだ。今度は帰ってきてくれるのは何時になるか判らないけど…探しちゃ駄目だよ』





















静かに微笑みながら言う令に、何も言えず



由乃は唇を噛み締めて、廊下から小さく見えるリリアン女学園の校門を見つめた






























だって…














そんなの嫌だもん――













ねぇ、累ちゃん…帰ってきてくれるよね?

















「どうしてっ…そんな冷静で居られるの?前はあんなに取り乱していたのに」








ふと、頭に優しい手の感触を覚える


目をやると




大好きな令ちゃんが微笑みながら、頭を撫でてくれていた













でもその笑顔は何処と無く寂しそうだったのは私の胸の内にしまっておこう










だって令ちゃんはきっと、いつもと変わらない態度でこれからも暮らしていくに決まっているから



今だけは…私の前でだけは許してあげる






へたれな令ちゃんを見逃してあげるわ
























「前と違って悲しくはないからね、…寂しいけど」






「………帰って来るよね」






「どうだろう」







「だって!!江利子さまも居るんだし、令ちゃんを置いて……っっ!!!!!」













大声になってしまった私の口を、

令ちゃんが塞ぐ




はっとして辺りを見回すと、登校したての生徒達がこちらを見ていた







声を抑えて、再び令ちゃんを見る






















「帰って来るわよ」







「…うん、そうだね……。………そうだといいね」

























そうだといいね
















その台詞は


もう、









諦めているみたいで



















累ちゃんだけでなく



令ちゃんまでもが、遠い存在に感じられた…


















































「……そう」





「…だから、あの……」






「いいわ、言わなくて。判っているもの」













静かに、

由乃とは違ってこれといった反応を見せないお姉さまに

私は些か不安になりつつも付け加えようとしたが







お姉さまはそれを手で遮って静かに微笑んだ












「しばらく、1人にさせておきましょう。その方があの子のためだもの」




「……はい、私もそう思います」















どうして…?



本当は私がそう叫びたいよ、由乃






どうして私を置いて行くの、って





どうしてお姉さまを置いて行くの、って



















そう、



叫びたいのは私だよ…






















「大丈夫、ある日ふらっと現れるわよ。それが明日なのか、来月なのか、来年なのか…10年後なのか私には判らないけど」











「……お姉さま…」










「何?」





















2人だけの薔薇の館に、


お湯が沸く音だけが響いた







お姉さまの注文の紅茶を淹れながら小さく呼びかけてみたら







ちゃんと返事してくれた













あぁ、やっぱりこの人は私のお姉さまだなって思った







累の恋人になってから



随分と遠い存在に思えて仕方なかったけれど








でも、やっぱりこの人にロザリオを授けられたのは私なんだなって









そう実感できて嬉しかった




























「どうしたの?令」














いつになっても答えなかった私を不審に思われたらしいお姉さまが再度声をかけてきた

淹れあがった紅茶を差し出しながら





そっとその顔を盗み見ると


お姉さまもこちらを見ていたのか、目が合った


















「……いえ、何でもありません」




「何でも無いのに呼ぶのかしら?」




「すみません」





「謝らないで、…ねぇ令」





「はい?」






















「貴方、本当は誰よりも貴方が累の事を信じられないんじゃないの?」























「…え……?」



















呆気にとられた私は、お姉さまを正面から見つめる


お姉さまはいつもの静かなお顔で




それでいて目には強い光りを灯してこちらを見ていた





















「私や、由乃ちゃんに累は帰って来ると言っておきながら…本当はそれは自分に言い聞かせているのでしょう?」






「…………」







「貴方がそんな状態でどうするの?誰よりも貴方があの子を信じてあげなくちゃ」







「………はい」
























「けじめ付けなさい」


















その強い光を備えた目が怖くて、

顔を俯せた私の耳に優しい声が聞こえる

























「祥子との事、何時帰って来るか判らない累が現れるまで生き殺しにしておくつもり?」
















「………祥子…」





















「そうよ、累は心から貴方の幸せの願っていたのに。自分のせいで2人がまだ素直になれていないのだと知ったらどう思うかしら」
















「……そうですよね」

































ねぇ、累












貴方は素敵な恋人を手に入れたんだね










その人は私の大切な姉だけれど



















本当は少し羨ましいな、って思うよ

















私と












祥子も



























君とお姉さまみたいな、









心の底で繋がっていられる恋人になれるのかな































もし祥子が











まだ累を求めていたら…
















































その時はどうしよう……

























































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