「累に、会ったんだって。静が」




























静かな店内に流れるクラシックがやけに脳髄を刺激する


皆、思考が停止したのか
もしくは逆に混乱しているのか









その言葉を発した人は、冷静に今しがた来た祥子にカクテルを作っていた














「静さんが…?」












信じられないというように目を見開いたまま、
祥子が呟くと

聖は顔を上げて頷く
















「静から手紙が来たんだ、今朝」








「じゃあっ!!累ちゃんは今イタリアに居るって事ですか!?」


















間髪を置かずに由乃が叫ぶ



その顔は今まで不機嫌だったのが嘘のようにとても輝いていた









しかし、聖が首を横に振る事により

再び眉間に皺が寄せられる





















「帰ってきているんだ、累」















「…っ何処に!累は日本に居るんですか!?」








「落ち着いて、令。静がこの手紙を書いたのは1週間程前だ、だから此処に書かれている事はもう既に起こっている事












「静さまからの手紙には何が書かれているんですか?」












元恋人の質問に、聖は置いてあった封筒から紙を取り出す


そしてそれに目を通しながら




ゆっくりと微笑んだ




















「累が、日本に帰る所を見届けたそうだよ」






「じゃあ本当に累ちゃんは今日本に居るんですね?」





「でもっ…」














歓喜に震える由乃に続いた令の口から零れた言葉は


不安そうに、力無いものだった






























「なら、どうして累は私達や…お姉さまに会いに来てくれないんですか…?」













































































『江利子は、婚約したんだよ。だから…もう、あの子の心を乱さないでくれないか』












何年か振りに日本に帰ってきて

私はすぐにあの人の家へ向かった





彼女の家の前に着いた時に

黒い格好良い車とすれ違う




特殊なシールが貼られているため、車の中は窺えなかったけれど






やっぱり、正面の窓から見えたのは



江利子さんだったんだと


それが判ったのは、チャイムを鳴らして出てきた彼女の父が教えてくれたから









私の顔を見るなり複雑そうな顔で苦笑する小父さんは



今、江利子さんは何処に向かっているのか教えてくれた後













そう言った


































「そりゃ…そうだよな、ずっとなんて待っていられないか」










独り言は、




雪が散りばむ街中を覆っている分厚い雲の中と街中の喧騒に消えゆく


















目の前には






教えて貰った、小さなバーがあるのに



私は未だに其処に入る事が出来ないで居る








少し歩いて扉を開ければ


其処には大好きな人達が居るというのに…








祥子も

令も居るのに…












江利子さんが、居るのに……



































やっぱり、私は帰ってくるべきじゃなかったのかもしれない







また江利子さんの幸せを壊してはいけない























どうすればいい?





























ねぇ、生まれて初めて貴方に問いかけてみるよ









ねぇ、マリア様























私は…どうすればいいんですか?































自分のエゴで周りを傷つけてきた私は





もう2度とそんな過ちを繰り返してはいけないんだよね


















じゃあ…
































1つだけ許してください
































遠くから
































江利子さんの顔だけ見たい
























それだけなら、いいでしょう?
























































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