クラスメート達の談話にもついていけない


未だに馴染む事の出来ない世界で










対等に接してくれたのは令が初めてだった


















そして、1人の人間として私を見てくれたのも令が初めてだった





けれど私は








弱い自分に甘いから




私の欲しい言葉をくれるあの人を望んでしまったの














ねぇ、どうしてなの?





どうして私の前にふらりと現れたの?



令に復讐する、と言って

令の大事な人である江利子さまにも接していたと言うけれど














貴方は誰よりも令の幸せを願っていたわよね?
































「…令?」














ふと視線を感じて窓から外に向けていた視線を教室の入り口へ向けると


令がぼんやりとこちらを見ていた













クラスメート達が何用なのか訪ねているけれど


耳に届いていないみたいで、ただ呆然としている











こちらを見ているのだから、私に用があるのだろうか、と推測して


側まで近寄るとその顔を見上げた






















「どうしたの?」





「……ちょっといい?」
















重たげに開かれた口からそれだけ放たれると、

令は突然私の手を引いて廊下を早足で駆け抜ける














行き着いた先は温室だった



息を弾ませながら、目の前の令の背中を見つめると

さすが運動部に所属しているだけあって私程息が切れていない














「……令?どうしたの?」















ゆっくりと振り返るその綺麗な顔には

一筋の涙が伝っていた




意外な出来事に吃驚して息を呑むけれど









何となく何があったのか察する事ができて







私の顔も自然と暗くなっていく






















「累、行っちゃった」




「そう……」







「ねぇ、祥子」



































「何?」





























「累が笑う事が出来るようになったら…って言ったよね?」

























『また、累が笑う事が出来るようになったら…その時、累と私…どちらかを選んでくれる?』
























「ええ」


















ふと、令の手が伸びて来て私の肩を抱き寄せた



震えているのが伝わってきて








どうして、何に、

こんなにも怖がっているのか判らない

















私の肩口に額の乗せてぽそりと言葉が紡がれた


































「もう、見れないかもしれない…だから返事もこの先ずっと貰えないよね」








「令…」










「何時帰って来るか判らない累を待って、生殺しにしておくつもりなの?ってお姉さまにも言われたんだ」












「…………」


























令の身体はとても温かった



累とは違う温かさ












最初はこの温もりが欲しくて欲しくてしょうがなかった


けれど







累の温もりの心地よさも知ってしまったから
















だから令はこんなにも

私が累を選ぶかもしれない、と不安なのだろうか











そっと腕をその大きな背中に回す



令の身体は一瞬強張ったけれど強く抱きしめてあげると安心したのか

更に抱きしめてきた





















「私の方が貴方が好きで好きで仕方ないのよ?」




「祥子…っ」











「2人で…待ちましょう、累の帰りを」














「…うん………うんっ…!」


























「累が…どうして私に近づいたのか、判ったわ」











「?」
































「ふふっ、ヤキモチを妬かせる事で令の私への気持ちを再認識させるためじゃないかしら」











「…っまさか…そんな事ありえないよ」



















「ありえるわ、だって累は貴方の事が大好きなんだもの。…貴方も累の事が大好きでしょう?」





















































「令、…令!」






倒れ込んだ身体を聖さまがカウンター内から抱え出して、

椅子を並べてその上に寝かせる





揺すっても起きない、恋人に私は不安に駆られながらも










それとは別の不安も押し寄せてきて堪らなかった













前に、令が熱を出した時にあの人はそれが判って



あの人が熱を出した時に令はそれが判ったと言っていた












一心同体の2人に


それぞれ片方が何かあったら、

もう片方もそれを感じ取ると






令が嬉しそうに言っていたのを覚えている…





























あの人の身に何か起きたって事?





















嘘…そのまま令までも、なんて事ないわよね?























お願い









令の傷を癒してあげて、……累




私じゃただ舐め合う事しか出来ないから

















貴方にしか出来ない事、

沢山あるのよ?



































「とりあえず寝かせておこう。江利子…どうしたんだろ」






濡らしたタオルを令の額に乗せながら、

聖さまがしきりに外へと繋がる扉を見つめる










「外で何かあったの?」



「すぐ其処の大通りで派手な事故があったらしいんだ…そういえば江利子変な事言ってたな」










お姉さまの問いかけに聖さまが腕を組んで考え込んだ


そして、









ハッとしたように目を見開く
























「…っ累を見たって言っていた……」




「累を!?ちょっと…早く行きましょう!!」




「でも令は……」












聖さまの言葉にお姉さまはその腕を引いて今すぐにでも店から飛び出そうとするけれど


椅子の上で寝ている令を気にして、聖さまはお姉さまを留めた








由乃ちゃんが店から飛び出すのが見える






















「私達がここで見ていますから…行ってきてください、お2人共……お姉さまも」



「早く行ってあげてください、江利子さま1人じゃ…」













優しい妹達の申し出に、

私と聖さまとお姉さまは逸る気持ちを押さえながら令を任せて店から飛び出す







聖さまの言っていた通り、すぐ目の前の大通りで車が沢山詰まっていて


大きなトラックの先に沢山の人だかりが出来ていた










まさか、と思いつつも









由乃ちゃんの背がその人込みに紛れていくのが見えて

その姿を追う
















人込みを掻き分けると、すぐに由乃ちゃんの背に辿り着いたけれど


その姿は呆然と立ち尽くして何かを見下ろしていた














人だかりの輪の中心で、


赤く染まった地面の上で、






1人の女の人が人をただ、抱えている




ただ抱えているだけで












その身体を揺さぶったり


声をかけたりして居る訳でもなく
















ただ、






その顔を覗き込んで涙を流しているだけだった……









































「……っ累…」






























足元から何かが崩れていく錯覚に襲われる













その女性は








江利子さまで




























その抱えられている相手は…














頭から大量の血を流している






額から顎にかけてまでの長い傷跡が目立つ









7年前程短くなく、令と同じくらいに伸びた髪を持った
































あの人だった――――――






























どうして本当に大切なもの程







手に入らないのかしら…


その指を上手くすり抜けて逃げていくの







消えていくの














どんなに手放したくなくても、






































ある日突然消えるの、大事な時間とモノ程儚いものはないわ




















































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