白い雪が街を覆い尽くす季節が来た時
私は貴方と空を見上げているのかな?
「寒いわ…」
「うん…ほら、こうして居れば寒くないよ」
寒そうに手を擦り合わせている彼女の両手を、
私のコートの中に埋もれている自らの腰に巻きつけた
こうすれば自然と私達の身体は密着し合ってお互いの体温がお互いの身体を温める
そしてコートごと彼女の身体を抱きしめると
少ししてから彼女からも私に更に距離が縮まるように抱きついてくる
「……寒いわ」
「…………」
それでも女王様は納得行かないらしく、
私の胸の中で不満気にポツリと文句を言う
そんな彼女も好きなんだ
だから彼女の肩口に埋めていた顔が自然とにやけた
「早く帰りましょう、外は寒いもの」
私の顔を覗き込むために少し身体を離してそう言う彼女の身体を再び抱き締める
首筋に唇を寄せると、
とても甘い匂いがした
「嫌だ、もう少し2人で居たい」
「今頃きっと聖辺りがごねているわよ、それを宥める蓉子が大変なんだから…」
彼女は少しくすぐったいのか、身体を捩る
腰に回していた手を肩口で雑に切り揃えられている髪に伸ばして弄っていると
それが嫌なのか少し頭を動かしてその指から逃れようとする彼女
もう1度肩ごと抱き寄せてその耳に囁く
「嫌だ。あそこに戻ったら貴方とこうして居られない」
「ふっ…何時から貴方はそんなに甘えん坊になったのかしらね」
腕の中で、私のコートの中で腰に巻き付いていた手が背中に上った
「どうしたら家に帰れるの?」
「…キスしてくれたらいいよ」
「じゃあ目を閉じて」
愛しい恋人に言われるがままに
目をゆっくりと閉じると
たった今しがたまで目の前に広がっていた風景が全部消えた
夕方の心細い時間に
心細い灯りだけを受けている街並みが消える
誰も居ない住宅街に
私達の家から聞こえてくる賑やかな声だけが耳に入った
いつまでも待ち望んでいる感触が訪れない不審感を募らせてそっと目を開ける
すると彼女の顔は私へと向けられていなくて後ろを振り返っていた
「……?…あ………」
彼女の視線の先を追ってみると其処にはいつもと変わらない街並みが広がっていたけれど
1つだけ違うのはその街を覆う様に降り注ぐ真っ白な物質
「雪だ」
「そうね、今年は結構早いわね」
もうキスの事など忘れたかのように少し離れていた身体を今度は彼女の方からすり寄せてきてくれた
でもキスをまだねだり続けるような子ども染みた事はしない
現実味を帯びている彼女だけれど意外とムードを大事にしないと怒るという
結構手の焼けるタイプなんだよね
「ふは〜、道理で寒いと思ったよ」
「そうね、…積もるかしら?」
「どっちがいいの?」
きょとん顔でそう訪ねると
空を見上げていた彼女は私に顔を向けてくれて
目をじっと見つめてから柔らかく微笑んだ
「積もると貴方が喜ぶから積もる方がいいわ」
「……時々恥ずかしい事平気で言うよね」
「だってそれ程に貴方が愛しいんだもの」
雪が舞い散る世界で
貴方と抱き合う温かさは
貴方と交わす口付けは
何よりも幸せな気持ちにさせてくれるもの
「蓉子、お酒がもう無いよ〜」
「今江利子達が買い出しに行ってくれているから待ちなさい」
「う〜…祐巳ちゃぁんっ、私の喉の乾きを潤して!」
「うぎゃぁっ!?なっ、なななっ、危ないじゃないですか!聖さま!!」
「祐巳ちゃんには触れているだけで癒されるなぁ、それに比べて蓉子はいっつもグチグチ。や〜んになっちゃうよね」
「悪かったわね、説教臭くて。それより、祐巳ちゃんが持っていた水が貴方のせいで私に掛かったのご存知?」
「あわわっ、すっ、すいません!蓉子さま!すぐに拭くものを…」
「いいのよ、祐巳ちゃん。全てはこの人のせいなのだから」
「……へぇへぇ、判りましたよ。持って来ればいいんでしょ」
聖は厳しい言葉をかけて来る恋人にため息を付きながら
しぶしぶ膝の上に抱き寄せていた祐巳の身体を降ろして立ち上がる
部屋中には酒を飲んでべろんべろんになっている懐かしき仲間達
そして心外だが聖のライバルの柏木と愛しの祐巳ちゃんの弟の祐麒も居た
それらをかき分けるようにキッチンへ向かう途中でベランダから薄暗い住宅街の中で異常にモコモコ膨らんでいる人を見つける
何だか気になって目を凝らすと
よくよく見れば買出しに行ったはずの2人が抱き合っているではないか
「うわっ!?聖さま!寒いですよ!!」
1番近くに居た由乃がはた迷惑な先輩に文句を投げかけるが
聖は対応する事もなくベランダへと出て下を見下ろした
「こらぁっ、其処の2人!!そんな所でイチャイチャしてるんじゃないよっ」
「……全く煩いわね、いい加減大人になって欲しいものだわ」
「ねぇ?本当に。雰囲気読み取って欲しいよね」
全ての人々が眠りにつく時間が過ぎても
何時までも部屋中が賑わっていたのは
何時までも賑わっていた部屋の外をしんしんとただ静かに雪が舞い落ちていたのは
全て夢の中
儚い
遠い
夢でしかなかった―――――
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