「ねぇ、起きてよ」
何度も揺さぶっても身動き1つすらしない
静かに眠っているその顔は、
今までの事が信じられないくらいとても綺麗で…
令より断然短かった髪も令と同じくらいに伸びていて
さすがに令と見分けが付かなさそうで
それでもやっぱり累は累だった
「お願いだから…起きて」
その顔は私がずっとずっと待ち望んでいた顔だったのに
ずっとずっとその顔で笑って欲しくて
ずっとずっとその腕で抱きしめて欲しくて
でももう叶わないの?
私の想いは既に7年前に断たれたと言うの?
嫌よ
これだけ人を振り回しといて
そんなに呆気無く…
許される訳ないでしょう?
例え世界中の人が貴方を許しても、
私は許さないわ
「起きなさいよ!!」
静かな部屋に鎮痛な叫び声だけが響いた
「江利子、もう…」
真っ黒なセーターとズボンを履いた聖が、私の腕を掴む
何よ
何でそんな格好しているのよ!
隣を見れば、蓉子も仕事用の漆黒のスーツを着ていて
よくよく見れば懐かしい顔ぶれの皆もそれぞれ黒い服を身に纏っていた
聖に掴まれた自分の腕を見ればそれも黒い服に包まれている
それでやっと思い出す
あぁ、通夜だった…
飲み過ぎて寝てしまったのね、私は
「っ……夢を見たわ」
「夢?」
蓉子が泣きそうに歪めていた顔を上げて、訪ねて来た
私はただ独り言のように
ぽつりぽつりと言葉を繋げる
「昔、累が言ってたのよ。大人になったら皆で飲み会をやってみたい、って…」
「皆で…?」
「噂に聞いていた祐巳ちゃんの弟とか、祥子の婚約者と聖のやり取りとか見てみたいってね」
机を挟んだ向こう側で祥子と祐巳ちゃんが目を丸くした
私はうつ伏せていた顔を上げて、愛しい人の顔見る
動かない愛しい人
もうあの頃のように泣かない愛しい人
もうあの頃のように、悲しそうに笑う事のない愛しい人
でも、その代わりに
私が泣いて
悲しそうに笑っているけど…
こんな私にどんな顔をしてどんな言葉をかけてくれるのかしらね
「累と、初雪の降る中でただ一緒に居られるだけで良かったのよ」
「累と、ずっと…隣で笑い合えたら、それで良かったのよ」
「累とっ……ただ…なのにどうしてこんな所で寝ているのよ?」
もう、強がるのは疲れたわ
もう…私も貴方みたいに眠りにつきたいの
お願い……
私は、もう…
「駄目ですよ、お姉さま」
大切な人と、同じ顔をした…大切な妹が
それまで黙って私を見ていたのに
立ち上がって私の側に跪いた
そして
累と同じ顔で微笑んだ
「駄目ですよ、累はお姉さまに笑っていて欲しいんですから」
そっと手を伸ばすと
累とは違った
ちゃんと温もりを持ったその顔に
頬に手を当てる
「笑っていてください、お姉さま。累はいつでも貴方の側に居ると言っていましたよ」
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