『一生許さない』








『…っ累!!』
















『一生、恨むぞ。令』





















……嫌な、夢を視た


額に汗で張り付いてる髪の毛が鬱陶しい








今朝よりも大分熱は引いたけれど、


まだ身体は重い























悦んでいる







累が、悦んでいる




























…それで、いいんだ











私は貴方に取り返しのつかない事をしてしまった



















赦されるのならどんな事だってするよ













































「………」








リリアン女学園






父さん達は令と私を此処に入れたがっていたけれど、

それに応えたのは令だけだった








私は、もっと広い世界を望んでいた


だから、温室のような生暖かい此処には往かなかった












でも、こうして見ると











ここに居たから令は笑っていられるんだ






仲間が、居るんだ…





















私には何も無いのに















何故いつも令だけが幸せそうに笑っている?

















マリア、あんたは何がしたいんだ?















「………全て、壊れてしまえ」








久しぶりに出した声は、

何処か掠れていたけれど





でも、今の気持ちは正確に紡ぎ出せた









憎しみの渦の中に滲んだ悲しみを、出せた

















「あら、支倉さん…。そんな格好でどうしたの?」





見上げていたマリア像の脇に通じる道から、

シスターらしき年配の女性が声を掛けてきた





「………別に」








踵を返して、その場から離れる








感じる















令を、感じる
















ただ当ても無く、歩く




否、当てはある









令が居る場所を私の中の令が教えてくれる











薔薇の館…


















『薔薇の館って言ってね、生徒会の本部みたいなものなんだよ』




『…ふぅん、滑稽な名前だね』




『いいじゃない、綺麗で。そこで大抵お姉さま方や由乃とお昼を食べているんだ』













ここが薔薇の、館







アイツに全てを潤わせる物がある処









古い、軋んだ扉を開く






令は2階に居ると、自ら教えてくれた




笑い声が聞こえる…はずなのに、

館の中は静まりかえっている









階段を昇るたびに令と私が近付いている感覚があった





アイツの、ただ純粋な感情が感じ取れる


























「……あれ?誰か来たよ。…この足音はね〜、………令?」





会議の途中だというのに、ペンを口と鼻の間に挟みこんでそれを遮った

はぁ?と皆が自分を見るのもお構いなく、その足音の主を想定してみたが




この足音は紛れも無く令のものなんだけど








でも、令は居る

2日ぶりに登校して来て、いつもの場所に収まっているはずなのに







私の勘も鈍ったかな?











「何言っているのよ、令は此処に居るじゃない。何処かの部活の生徒じゃないの」




「でも蓉子。今って昼休みで、私達だって放課後やる仕事について簡単な打ち合わせしているだけでしょ?」














何か山百合会に用事があって来るのならば、放課後だ


それにそれならば入り口の扉をノックして誰かが出て来るまで入って来ない





その人物はただ静かに扉を開けて、何も言わずに刻々とこの部屋へと近付いていた










「…っ嘘!?…どうしよう!どうしよう…っ」





いきなり令が立ち上がって、うろたえる

が、すぐに部屋の扉が開かれた





そこに居たのは、



1番扉の近くで立ち上がっていた令と、











同じ顔をした人間

















そして、祥子と写真に写っていた人間















はっきり言って令より男前だった




令よりも短い髪の毛

所々に黒いメッシュを入れていて、
明るい髪にとても良く似合っていた



黒いペンキをぶっ掛けたような模様の白いTシャツの上に、

チャック式の大きなトレーナーを前を肌蹴て着ていて


更にその上から灰色のファーがついたジャンバーを無雑作に羽織っている




黒いタイトなジーンズにぶら下げた2本の鎖

耳には左だけに2個の輪っかのピアスをしていて
右には飾り気の無いシンプルなイヤーカフを嵌めていた









「累っ!?」











祥子も、立ち上がる


その顔は青冷めていて、累と呼ばれた人物をただ見つめていた






「………累…」




「累ちゃん!!!」




令が呟くのと同時に、由乃ちゃんが立ち上がって勢い良くその人に抱きつく

彼女は幾分かよろけてそれを受け止める








「おっと…」



「累ちゃんの馬鹿!!心配してたんだからね!?何処に行ってたの?今まで!!」



「……ん〜、何て言うか"モモ"になってた」




「はぁ?何訳の判らない事言ってるの?」











"モモ"


それは、


何故か大きく口を開けてはっきりと喋る由乃ちゃんには、
通じなかったようだけれど、



私には何の事かすぐに判った



数日前に江利子に借りて読んだ漫画にそんなのがあった




ある女性が家に帰ると、マンションの前に大きなダンボール箱があって…

その中には男の子が居たんだっけ


ペットとしてで良いから置いてくれ、と頼む男の子に名づけたのが、

その女性が昔飼っていた犬の名前を付けたんだった




それが、"モモ"















つまり、祥子がそのヒロインで









あの人はその男の子?















拾われた?





















「判らないならいいよ。あ、そうそう。祥子、コレ」





由乃を引きずったまま、その人は令の前を通り過ぎて祥子に近付いた

そしてポケットから無理矢理小さく折りたたまれた封筒らしき物を取り出し、差し出す



でも祥子は立ち上がったまま、それを受け取らず固まっていた








「…累、何で此処に……。それよりも声…っ」



「ん〜、まぁ、戻った?」







何故か疑問形でそれとだけ答えて、封筒の原型を留めていない包みを押し付ける



ちらり、と令を見た気がした













そして、固まっている私達に向き直って小さく頭を下げた
















「ども、支倉 累です」




























何かが、始まった





ぶっちゃけ部外者の私だけど、それは判った

















彼女は何かを運んできた




それは良い物なのか、



悪い物なのか、









そこまでは判らなかったけれど









ニッコリと微笑みながらも、


その瞳は全く微笑んでいなかった……


























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