「とにかく、令も累さんも座って。落ち着きましょう」






蓉子の一言でその場の空気は若干安らいだ





一息ついてから、令は累の袖を引いて椅子に座る



その意味が判ったのか、累も次いで令の隣に座り込んだ












きょとんとしているメンバーを前に、令が苦笑する

















「累は多少耳が聞こえないので、ゆっくり口を開けて喋ってください」






「…あぁ、だから由乃ちゃんがやけにハッキリ喋ってたんだ」













聖が頷いて、由乃と累を交互に見やる









にこり、と返す累に聖は拍子抜けした





だって話の流れからして江利子と祥子を誑かして、令を困らせているいる悪い人だから



でも目の前で由乃に紅茶を注文している所を見ていると、

人見知りしない空気に、

表情豊かな顔に、



どう見ても令の姉妹そのものであって…



















「ちょっと…ちゃんと話しなさい!」









祥子が場の重い空気をぶり返した


そりゃあそうだろう



自分の恋人が、
江利子とも関係を持っていて、
正真正銘令の姉だというのだから



いろいろと聞きたい所はたくさんあるだろう












「どうもこうも…令は私の双子の妹で、江利子さんは恋人で、…祥子も私の恋人でしょ?」



バンッ


机を叩く音が部屋に響く











「何よ、それ!私を騙していたのね!?」




「騙してないじゃん、1回も令の姉じゃないとも江利子さんの恋人じゃないとも言ってないし」





「っ!!それって私と江利子さまで遊んでいたって事?」




「違うって。だって私はどっちとも同じくらい好きだもん」




「大体喋れないと思いきや突然現れて喋れるって言うし…」




「別に喋るとなるといろいろ説明しなきゃなんないじゃん?だから黙ってただけだよ」








小気味の良い音が再び部屋を支配する



隣に居た令も、呆気に取られて祥子を見た











「馬鹿に…しているの。私の気持ちを軽々しく扱って……」








祥子が累の頬を叩いて寸の間に、床に何かが落ちた




そして、今まで何もこれといった反応を示さなかった累が
初めて祥子を睨む









「…何すんの。補聴器に勝手に触れたり外したりするのは聴覚障害者にとって最低な行為だよ」





「あ……」






そこで初めて、祥子も自分が何をしたのか気付いたらしく

叩いた手をもう片方の手で握り締める







「累…これ……」




椅子をずらして、それを拾った令が遠慮がちに差し出し


無言でそれを受け取り耳にはめる作業を、ただ全員見つめていた









「…帰る。祥子がこんな面倒くさい人間だと思わなかったよ」



「累!」





席を立つ累に、祥子が叫ぶ


けれどそれに応える事なく江利子に一瞥をくれると部屋を出てしまった










「…っどういう事なの?祥子、江利子、令…」







それまで黙っていた蓉子が堰を切らしたのか、取り残された部屋の中で声をかける


3人とも、重々しく顔を蓉子へと向けた








「…私にも何が何だかさっぱり……お姉さま、私はどうすれば良いのですかっ…」



「なんていうかあの子は何か計り知れない物を抱えているわね。令、いい加減教えてくれないかしら」



「……………あの子の」

















全員が令を見る



その中で、令は苦々しげに机を見つめながら口を開いた















「あの子の耳が聞こえなくなったのは、私のせいなんです」
































「累さんっ!!」






何度背後から呼び続けても振り返らない彼女の背中を掴むと、

そこでやっと振り返った



吃驚したようでしばらく私を凝視していたけれど





すぐに微笑む






それが心無い物だとは判ったけれど…












でもとても綺麗だと思った




















「何ですか?蓉子さん」







「っはぁ…はぁ……、どうして私の名前…」






「知ってますよ、薔薇の館の人は全員。令から聞いてますから」







「あぁ……。ねぇ、1つ訊いていいかしら?」




















「……うん、何?」





















私は、深呼吸して彼女に向き直った




真っ直ぐに私を見つめ返してくるその目には、

何も迷いなど無いように見えて






でも悲しみの雨が降り注いでいた…


















「貴方は何を求めているの?」























彼女はこう言った




微笑みもせず、ただ無表情に






























「支倉令という人間の崩壊」

















































next...